193.夢は壊さないでおこうね
野盗は捕縛され、一か所にまとめられている。
みーよが、怪我をした護衛たちと一緒に、マルチ・ヒールで癒し始めた。
馬車からはアリちゃんと同じ位の年齢の、上品な格好をしたお嬢様と、20代後半位の侍女かな? が降りてきた。
「助けて下さってありがとうございます」
深く頭を下げられてしまった。
タマタマなんだけどね。
うん、こういう人の対応は、みーよの出番だね。
あたしの担当じゃないわ、こりゃ。
後ろで付き人の振りしてよっ。
ってか、付き人なんだけど。
で、どうみてもこんな田舎というか、荒野というか、野盗やはぐれ魔物がさまよっていそうな所に来られるような御方には見えないんだけど?
何しに来たの?
話を聞いてみると。
隣の国境都市ポートビリアから避難してきた?
オークの大軍に襲われそうなんで?
それ、こっちにも来たよ? 100匹単位で。
ああ、もっと多いの?
攻め落とされそうなレベル?
オーク・キングが率いてるの?
侯爵家の血筋を絶やさないために、先に避難させとくの?
本来は宮廷魔法使いの転移陣や、大聖女の聖域などで転移させるんだけど、そういった実力を持つ高位の術者が不在。なので、護衛を付けるから、とりあえず逃げてくれ?
ふーん。
みーよは少し考えて。
オラクルまで送ることは出来る。
今、任務中だけど、そこまで急ぎではない。
野盗を捕えたので、そっちをトラックに積み込んでオラクルまで持ち帰ってもいい。
でも、わたしたちこそ見ず知らずなので、判断は任せるよ。
姫様なのかな? 侍女に相談して。
侍女も、生き残りの護衛に相談。
全員、一緒にオラクルに入りたい。野盗はそちらの“馬車”に積んで貰ってもいいだろうか? 報酬は後から必ずお支払いします。
死んだ仲間は丁重に葬りたいが、それほど時間がない。
それでしたら、弔うのは専門ですので、お任せくださっても?
お任せします。
手分けして、護衛の遺体も、野盗の死骸も、丁寧に地面に並べ直して。
みーよが跪き、杖を掲げて女神ちゃんに祈る。
光が出て、死者を照らしていくと、身体が光って、粒になって消えていく。
後に残されたのは遺品のみ。なんど見てもスゴイ。
シュランも感心というか、びっくりしている。アンタ、これ見るの初めてだもんね。
姫様や護衛たちから、深く礼を言われた。
縛ってある野盗たちが、なぜか涙を流している。
口もききたくないけど、くそぅ一応人間だからな。
聞いてみると、こんな風に弔ってもらえるなんて、考えもしなかったんだとさ。
ああそうですか。人殺しどもめ。
あんまりこういうの聞くと、情が湧いちゃうんだよね、あたし。
なので、出来るだけ聞かないようにはしてるんだけどね。
でもま、必要なら、割り切っちゃうのも、あたしか。
トラックの荷台は2メートル四方。
1平方メートルに4人×4。
クレーンを車の前の方に倒して、荷台部分を広げて。
詰め込めば、野盗どもを全部乗せられるね。
怪我を治したのも含めて15人いるけど、足を畳ませて押し込んでいく。
文句をいうヤツには、アギト・ナイフを見せてって。
こいつらは人間じゃない。ただの荷物。
なんなら、上に積み重ねてもいいんだよっと言うと、素直になったね。
入るもんだね。頑張ればもう一人いけるかな?
でもまあ、息苦しそうだねぇ。まあ、街まで我慢してね。
みーよが杖を掲げると、荷台に枠が組まれて、少し高めの、緑色の幌で覆われた。
後ろの部分も、左右の幌を合わせて、ロープで固定。これで一応、出られないね。
ま、無理すれば行けるけど、手足を縛ってあるので転がって怪我するね。
ほどかれると、怪しいけどね。あたしならそうするね。
「こんなんでいいの?」
「逃げ出そうとした者は、その場で殺されると思うよ? 後は、オラクルの行政官次第じゃないかな?」
ふーん、そういうもんですか。
トラックを出そうとしたら、姫様が乗ってみたいのだそうです。
いけません姫様、と侍女がたしなめるけど、一緒に乗ればいいでしょ? だってさ。
みーよ、どうする?
護衛の人たちも、困ってるね。
凄腕(だと思う)護衛官の一人が、自分も一緒に乗るなら如何でしょう? だって。
6人乗りだから、こっち3人、そっち3人。乗れないことは無いよ?
護衛官の遺品とか、野盗どもからの分捕りものとか、馬車に詰めるには詰めるから、そういう話はなくも無い。ホントは置いていこうと思ってたからね。
みーよが女神ちゃんに預かって貰えれば解決なんだけど、その辺は微妙らしい。直接、戦闘に関わった部分が少ないからね。
ま、その方がかえって安全かも、と、護衛たちが納得したようで。
そうなりました。
姫様はヘレーナ。侍女さんはエンドロス。助手席に乗り込んだ護衛さんは、名乗らなかった。
身体が小さいシュランは前の席の真ん中。同じ理由でヘレーナ姫様も後部座席の真ん中にお座り。荷台の野盗ども程ではないけど、ぎゅうぎゅう詰めだね。
姫様、ホントは前の座席に座りたそうだったけど、それはさすがにね。
で、彼女は国境都市ポートビリアを治める侯爵家の第4女、末っ子に当たるそうです。継承権は第6位。子供は男2人、女4人のうちの一人。
ただし、彼女は側室の娘。
直系は男の子2人、女の子1人。
もう一人、側室の娘がいて、そっちは女2人。
この子は、母親からすれば一人娘なのね。
で、お父様の侯爵様はお優しいのだそうで、メイドだった母をちゃんと側室として迎え入れて下さったんだそうです。
いや、メイドに手を出して、子供が出来たんで母子もろとも引き取ったって事でしょ?
それ、優しいっていうのかなぁ?
で、元メイドだったお母様は3年前にお亡くなりになったのね。
この子は継承権持ちだけど、立場的にはすごく低いのね。
でも、それなりの護衛を付けて、城の外に逃がしたのか。ちょっと扱いが微妙なんだね。
でも、この子の中では優しいお父様なのだから、夢は壊さないでおこうね。




