19.赤ずきん
「今夜は、ぜひともこちらにお泊り下さい。明日、街までお送りいたします」
村長さんがニコニコしながらそう言ってくれた。
「ありがとうございます。しかし、ご迷惑でしょうから、わたしたちは外で寝泊まり致します」
あ、そーなの?
まーそうか。この家、大きいといっても、二部屋しかないしね。乳飲み子を含めた4人の子供で、いっぱいいっぱいだわ。
「申し訳ございません。ご配慮に、感謝を」
ま、いっか。テントと寝袋があれば、充分だしね。
一応、周囲も囲まれてるし、安全度はそれなりにあるね。
場所を借りて、テントを張っていると、村の子供たちがわらわらとやってきた。君ら、物おじしないねぇ。
「これなーにー?」
「てんとだよ」
ん?テント、てんと、て ん と……
うまく言えない。この世界には無い言葉なのかな?
テントはないけど、天幕ならあるかな?
「天幕だよ」
おお、あったー
意外に共通語、メンドクサイね。テントと天幕の区別がつかないんだ。
「へーなにこれー」
「こら、ベタベタ触らない。壊れるでしょ」
「なんでそんな恰好してるの?」
「趣味」
「なんで足出してんの?」
「趣味」
なによ足出しちゃダメなの? 可愛いでしょ?
「なんでひらひらしてるの?」
「趣味」
そーかな、ヒラヒラしてるかなー?
してるか。
「なんで全部趣味としか言わないのー?」
「それはね、お前を食べちゃうからだよー!」
メンドクサイので、赤ずきんを食べちゃうオオカミよろしく、子供の一人をひっ捕まえてグルグル回してあげる。
泣くかな?
キャッキャキャッキャと喜んじゃってるよ。
「次は、オマエだー」
「わー」
蜘蛛の子を散らすように喜んで逃げ出す子供たち。
ふふ、このあたしから逃げられると思うなよ。
かたっぱしからとっ捕まえてグルグルの刑に処してあげた。
チョロイもんよ、これで全員かな。
ちょっと、なんでみんな目を輝かせて楽しそうなのよ。
「郁ちゃんー子供と遊ぶのもいいけど……ん-まーいいかー」
ほらぁ、みーよにあきれられたでしょーお前らのせいだゾ。
折角なので、みーよがベンチを出して子供たちをみんな座らせて(光の奇跡で取り出したベンチを、子供たちは目を輝かせて見入っていた。それ、ワカル。スゴイよね)、空中に明かりを灯した。(こっちも、結構驚いていた、それもワカル。どういう理屈なんだろ)
人数分のコップに、ミルクかな? を注いで手渡して。
で、あたしが「赤ずきん」のお話をしてあげた。
ちょっとー何よその食いつきの良さは。そんなに楽しいの、この話?
あーそーかーこの世界、娯楽なさそーだもんね。
調子に乗って、オオカミはいかにもズル賢く、おばあちゃんはうんと優しく、赤ずきんが食べられるところではまるで子供たちを食べちゃうように大げさに演じながら話した。
ん-キャッキャキャッキャワイワイワイワイキャーなんて悲鳴上げちゃってそんなドキドキしなくても通りがかりの狩人さんが何とかしてくれるから大丈夫だってば。
あーお腹に石詰めちゃうゾーよたよた歩いて水、水ぅー、池に落ちちゃっておぼれちゃったー
おしまいっと。
な、なによそんなに良かったの拍手喝采なの?
あ、これ、気持ちいいわ。クセになりそ。
~ ・ ~
「郁ちゃんって、子供好きなのねー全然知らなかった」
子供たちを家に送った後、みーよと二人でお茶した。
「そうねー」
自分でも、知らんかった。
「あたしたちの弟が生まれたら、もう、めちゃくちゃ可愛がっちゃうもんね」
「弟……」
あら、なによ、みーよ、その顔は。
まー戸惑うのも分かんなくもないけど、今まで、そんな顔したことないじゃない。
あたしの母ちゃんとあんたのパパの結婚の時も、妊娠が発覚した時も、淡々としてたじゃないのさ。
普段と変わらないから、そういうもんだと思ってたわよ?
まあ、あたしもパパの様子が変わんないので、パパ殺しは、もうどうでもいいのかな、とか思ってたけどさ。
あたし自身が悩んでたから、それでいいと思ってた。
ソウダヨネ。パパにも心があるんだもんね。
でもそれは、自分で何とかしなさいよ、とか思ってたわ。
だけど、ツケは払わなきゃダメだったね。結構、最悪なタイミングでね。
「みーよは、親の再婚に反対、だったの?」
「ううん、それはないよ」
「でも、なんかあるのね?」
んー踏み込んだこと聞いていいもんかなぁ?
やーでもね、現代に帰るためのカギは、みーよの心持ちだと思うんだよね。
そのためには、みーよの内心を聞いておかないとダメなんだと思う。
「そんな大したことじゃないんだ。あたしのママ、パパとはあんまり仲が良くは無かったの。ママは血統が高い人なの」
血糖? なんて冗談言ってる場合じゃないわね。真面目に、マジメに。
「だから、自分が特別扱いされるのが当たり前の人で、都合の良いパパを結婚相手に選んだの」
へーポンスケ、婿入りなんだ。
「名前も、ママの方に改名したんだって。それで、財界や政界からも一目置かれるようになったみたい」
ふむふむ。偉い人扱いされるようになったんだね。
ま、何でもいいじゃない、旦那さんを自分にふさわしい男に出世させたってことでしょ?
「でも、ママは満足できない人だから、パパにも色々わがまま言ったんだと思う。わたしが生まれてからも、そういう所は変わらなかったんだと、思う」
ん-そうなの?
「みーよのママと、きちんと話はしたの?」
「頑張ってみたけど、ママは自分の事しか言わない人。わたしのことはどうでもいいみたい。パパが事業に失敗した時、あっさり離婚しますって言って出て行っちゃった」
あーそれって、あたしが、高額予算を組まれたパパの機体をキレイに爆散させたときのことだね。
あ、あれは、うちのパパが間抜けなだけで、武装解除しとけば小さなケガで済んだ話なんだけどねぇ。
「わたしは、そういうものだと受け止めてたんだけど。再婚って……」
「あー、なんか、ゴメン」
父ちゃんも父ちゃんだけど、母ちゃんも母ちゃんだよね。
いや、まあ、大人の話だし、浮気でも不倫でも無いし、誰が悪いとかじゃないとは思うけど。
みーよからしたら、ねぇ。
「ううん、郁ちゃんのせいじゃないよ。悪いのは、わたしだし」
なんで、みーよが悪いの?
大人が勝手に離婚した再婚したってだけの話でしょ?
「わたしがもっとちゃんと、パパとママの仲を取り持っていれば、離婚しなくて済んだのかな、って」
「あーそれはないよ」
「え?」
その辺は、あたし、自信ある。
「あたしたちじゃどうにもできないことはある。大人の恋愛事情に、首を突っ込んでも無理なもんは無理だよ。そーいうところで自分を責めても意味ないよ。無理は無理だから」
あたしのパパが、小学卒業の辺りで失踪しちゃったのも。
あたしのパパが、中学卒業の辺りで爆散しちゃったのも。
あたしには、どうにもできなかった。
母ちゃんも、どうにもできなかった。
でも、今でも、あたしはパパが好き。大好き。
それで、いいんじゃない?
相手のことは変えられないよ。自分で変わらないと無理。
自分のことは変えなくていい。自分の事は自分で決める。
……なんてことを、分かるように、言えたかな、みーよに話した。
ま、パパの爆散は機密事項だから詳しくは言えないけど、画面に出てくるパパのことは、みーよも知ってるからね。
これ、機密事項の意味あるのかしらん?
みーよは、ちょっと泣いて。
軽く慰めてあげて。
元にはもう戻らないけど、もう一回、みーよママに、自分の気持ちだけでも伝えてあげたら? だって実の娘じゃん、というと。
なんか、納得してくれた。
みーよも、あたしも。
お互いに、安心したんだね。
そのまま、あたしたちは眠りについた。
(つづくっ!)




