18.「はい。これも聖女の務めですので」
みーよが、少し水を飲んで、口を湿らせる。
何か、考えがあるらしい。
村長も、そんなみーよの様子を見て、改めて向き直った。
「こちらに来るまでの間に、ゴブリンを10匹、討伐致しました」
「おお、それはありがたい。代替わりしてからというものの、オラクルの大聖女様は、こちらまでは巡礼なされませんので」
「そうですよね。困ったものです」
「あなたさまのような方が大聖女に成られて下されば、みな安心して暮らせるのですが」
大聖女?
巡礼?
何の事?
まあ、後で聞けばいいか。
「それと、オオカミを4頭、巨大な熊を1頭、討伐しております」
みーよが何でもない事のように言うと、村長さんの顔色が変わった。
「な、なんと……」
「光の女神アーリューシャイン様のお導きにより、この村にたどり着くことが出来ました。もしも宜しければ、こちらに寄贈致しますが、いかが致しましょうか?」
寄贈? 村に? タダで? えーもったいないよー
……なんて、言わない。
考えるのは、みーよのお役目。
考え無しに動くのは、あたしのお勤め。
で、みーよはこっちの世界の人なんだから、きっとこれって、なんか意味があるんだよね?
「見せて、頂いても?」
「勿論で御座います」
「で、では、外へ……」
村長さん、なんか半信半疑だね。
オークの時は、アギト・ナイフ見せたら一発だったのにね。
言われるままに外に出ると、村長さんは納屋の方から、木製の大きなテーブルみたいなものを取りだそうとしていた。
大きいんで、一人で持つのは無理よ?
ま、あたしは持てるけど。
手伝ってあげると、感謝された。
みーよが杖をかざし、両ひざを揃えて窮屈そうに前かがみになり、祈りを唱えると。
杖からの光と共に、オオカミの遺骸が4頭、そして食べかけのデカい熊ちゃんの遺骸が次々に現れた。
テーブルが、ミシミシと音を立てる。
「おお、本当に!」
村長さんが感嘆の声をあげる。
何かやってると、村の建物から幾人かやってくる。
農家のおかみさんみたいな恰好の女性陣が、なんかキャーキャー言って喜んでるよ。
その後ろで、おばあちゃん? が目に涙を浮かべてるし。
ふっくらした村長の奥さんも目を丸くしてるし、子供たちがツンツンと熊やオオカミを突っついて遊び始めた。
「本当に、寄贈して頂けるのですか?」
改まった様子で、村長が尋ねてくる。
「はい。これも聖女の務めですので」
へえ、聖女ってそんなことするんだ?
「寄進は、いかほど……?」
「お気持ちで充分で御座います」
寄進?
ああ、お金貰えるんだね。
村長は少し考えて、自分の家に戻った。そしてすぐに出て来た。
「今あるだけの金貨ですが、宜しいのでしょうか」
「はい、結構です。光の女神アーリューシャイン様に感謝を」
「感謝を」
村長に合わせて、居合わせた村人たちが唱和する。
で、うわぁあと嬉しそうに叫びだす。
「貴重な肉だ!」
「やった!」
「早速、捌いてしまおう」
それからの村人たちの行動は、速かった。
肉を解体するための櫓みたいなものが組まれ、吊るされたオオカミが次々に毛皮を剥がれていく。熊は最後に捌くみたいね。
「みんな、喜んでくれて、良かったね」
「そうね」
みーよは、冒険者ギルドに卸してもいいけれど、世話になった村に寄贈した方が良いと判断したらしい。村長さんに貰った金貨は、相場としては低めだけど、それでもいいんだって。やっぱりそーなんだ。
オオカミはめったに捕れない、貴重な獲物。被害がでると、罠を仕掛けて退治するけど、狩猟対象にするには割に合わないんだって。
何日もかかりきりになって、得られるものが少ないのなら、本当に困った時以外、手を出したくないらしい。
ただ、肉も毛皮も有用なので、加工の手間が掛かっても十分におつりがくるみたい。
肉は干し肉にして保存食。主にスープの材料にする。
毛皮は鞣して冬用の衣類へ。とても重宝するのだそうです。
熊は、ホントに狩るのが難しい獲物。
獲物というより害獣扱いで、村の近辺に現れると、総出で追い払いに掛かるか、冒険者ギルドに依頼を入れるみたいね。
当然、肉も毛皮も高級品扱い。今回の場合は、村長が買い取って備蓄に回すらしいね。すぐには食べないんだね。美味しいのにね。
ま、喜んでもらえるなら、あたしも文句はないけどさ。
で、巡礼っていうのは、この村を含める周辺の村々を回って、豊作や安全を願う儀式を行うことらしい。
具体的には、村の周囲に設置された結界石に、理力を注ぐって訳だね。
で、同時にその年の収穫物の一部を、税として取り立てていく訳だから、割と大がかりな事みたいだね。
だから誰でもできる事ではなく、村々を治め、治安を保つ大都市を守護する大聖女が取り仕切らなければ、意味がないんだって。
なので、ただの野良聖女のみーよでは、執り行えないんだってさ。
下手な事をしていると、勝手に税を取り立てているのではないかと見なされて、反乱者と決めつけられることもある。
で、その大聖女様の巡礼があれば、作物は豊かに育ち、魔物は寄り付かなくなるのだとか。
それって、結構大事な行事なんじゃないの?
今の大聖女様とやらは、そういうことをしてくれていないの?
サボってんの?




