186.まさに、チビ郁美だね
アリちゃんとリコットが、聖女見習いに戻って。
ケイトとエレナが家事全般を引き受ける形に。ケイトはそのうち、給金を決めないとだね。
シュランが冒険者登録して、いきなりEランク。
進展がないのは、カンタ。最近、生意気を言い出してるのでキツメにしごいているけど、頑張って食らい付いている。
うん。才能あるし。この辺で、ご褒美出してもいいよね。
みーよに相談してみると、この教会限定なら、かなりいい感じで行けるとのお話。
だってさ。カンタ、ちょっとおいで。
みーよと二人で、朝稽古を始める前にカンタを呼び出す。
シュランも、わんこ二人も、イーシュも、なんだなんだと見守っている。
「郁ちゃんが認めたので、カンタにも同じ防具を出してあげるね」
「え!」
「付き人が認めないと、女神さまは許して下さらないんだからね?」
「は、はい」
そう言って、みーよは杖をカンタの腕に当てた。
杖が光り、あたしと同じ、ガードグローブが、カンタの手や腕を覆う。
「足も同じものね」
エンジニアブーツが、カンタの両足を包んだ。
「うわ、うわぁ! スゴイスゴイ!」
跳ねまわって喜ぶカンタ。
「カンタはわたしの付き人ではないから、この教会の敷地内限定よ。外に出ると消えてしまうからね?」
「分かった!」
そういって外に出ようとするので、首根っこをとっ捕まえる。
「何やってんの!」
「スラムの連中に見せびらかそうと思って」
うん、相変わらず、アホな子だね、アンタは。
昨日と同じ、雪玉をかわす訓練から始める。
3回目に上から降ってきた雪玉。投げた犯人が誰か、もうバレちゃったらしい。カンタは雪玉をかわしながら上、というよりあたしの方に注意を払っている。やるねぇ。
もう、イラドの下手くそな雪玉は見切っちゃったんだね。成長早いなぁ。
「あ、当たんねぇ……」
「ホントにスゴイな」
4人がかりで四方から投げてるのにね。昨日に比べて、格段に上手くなったね。
「雪玉が、尽きました」
「こっちも」
あら、50球投げきらせたか。
「お疲れ。第一段階、卒業だね」
「えへへ、やったぁ!」
嬉しそうなカンタ。ふふん、いい気になるのもここまでだよ。
「じゃ、あたしが直々に相手してやる。一対一、離れたところからスタートだね。あたしに触れば勝ち。雪玉がぶつけられたら負けだ」
「フフン、今の俺は絶好調だもんね!」
ガードグローブとエンジニアブーツに身を包んだカンタ。自分の事をチビ郁美とか思ってるんだろうね。
本物との違いを、タップリと教えてあげるね。
壁際まで離れて。
あたしは机の上に雪玉を25個。
「いつでもいいよ。来な」
「お願いします!」
律儀に叫んで、カンタが元気に走り出した。
こっちもカンタに向かってダッシュ!
「え?」
はい、戸惑った顔面に雪玉を叩き込んだ。
「ぐえぇえ! ず、ずるい!」
「それ敵に」
「ぐ、ぬぬう……」
アッハッハ、ホントにコイツ、可愛いなぁ。
他の男連中が、呆れたような、でも感心したような顔で見つめている。
はい、全員集合。
「カンタ、敵が近づいてこないだなんて、どうして思い込める?」
「そ、そりゃ、机の上に雪玉があるから……」
答えながら、気づいたみたいね。
「持って近づくなんて、思ってもみない、けど」
そう。実戦なら当たり前に近づいてくるよね。
あたしがスリングをぶん回しながら接近するように。
なんならそのまま武器にして使うみたいに、ね。
カンタ、アンタはあたしが真っ赤っ赤の付き人たちと闘った姿を見てるだろ?
アンタがチビ郁美を気取るなら、この程度は教わらなくても理解しないとね。
「で、でも、4人で囲まれてた時とか、近づかれて投げられたら、いくら何でも」
「向こうが近づいてくれるなら、そのまま組み付いて仕留めればいいだろ?」
「……や、いや、それは……」
熊やオオカミを狩った話も、したはずだけどね。
こっちには追い足がないけど、向こうが襲ってくる分には別だよね、ってね。
「師匠、なんか、ホントに凄いや」
カンタに感心されてもねぇ。
「で、どうする? 続きをやる? 今日はあきらめる?」
「やる。でも考える時間が欲しい」
「そうか。じゃ、他にあたしに挑戦したい奴はいるかい?」
お、イーシュが手を挙げたね。
「よし、いいよ。ルールはカンタの時と同じだ。でもアンタ、ロクに雪玉をかわせないだろ?」
「拳で叩き落としますよ。色々、教わったんで」
そうだね。打撃技も基本的な事は教えたね。
「あえて近づかないで、弾切れを狙うのかい?」
「その辺は、ナイショでお願いします」
言うようになったねぇ。
この手の輩には、雪玉なんて投げないで、とっとと近づいちゃえば済む話。
でも、本人のやる気に免じて、投げ道具で付き合ってやるか。
イーシュが壁際に離れて。
「じゃ、始めるよ」
大きく振りかぶって、全力でイーシュの腹を目がけて雪玉を投げ込む!
イーシュが振るった拳はむなしく空回って、どてっぱらに命中した。
「ぐ、ぐへぇ……」
思わずうずくまる、イーシュ。
「一発アウト。ダラシナイねぇ」
横で見ていたカンタが、目を剥いている。今までのって、本気じゃなかったの?
「し、師匠、は、速すぎなんだけど……」
「あら、スリング使うともっと速いんだけどね?」
何でもない事のように言うと、納得半分の顔になった。
後の半分は、こんな化け物が近づいてきながら雪玉を全力でぶっ放してきたとき、どうしようって事を考えてるんだね。
ふふ、あたしは普段通りなんだけどね。
ついでに言うと、スリングに雪玉入れたままで、間合いに入ったら振り回すけどね。
今回の場合は、そこまでやってない。なんなら組んだり殴ったりもない。
訓練用。考えさせるため。お遊びともいうかも。
さ、どうでる?
「イーシュさん、もうちょっと粘って。何の参考にもなんないよ」
「お、お、おう……痛ってぇ……」
まだゴホゴホ言いながら、気丈に答えるイーシュ。
カンタに煽られてるようじゃ、マダマダだねぇ。
「イクミさん、もう一回お願いします」
「いいよ。構えな」
イーシュは、身体を小さくして、顔と上半身を両腕で覆うように構えた。
腰が、がら空きだけど?
腕の隙間から、あたしを観察するイーシュ。なんか狙ってるね。
ま、いいや。
もう一度、大きく振りかぶり、腰の辺りに全力で投げ込む!
とっさにガードを下げて、かろうじて腕に当てて、直撃を避けるイーシュ。
「や、やった……」
でも、あたしが左腕で横手変則気味に放った、力のない雪玉が、吸い込まれていくかのように顔面に命中した。
「ぐあっ!」
「なんで油断するかなぁ?」
「う、うそでしょ? あんな全力で投げてるのに!」
「両手に雪玉持ってるんだ。こんなのは普通にできるよ」
「うう……」
むしろ、何で出来ないと思うのか、そっちが不思議だね。
「で、カンタ。なんか分かったかい?」
「分かった。ちょっと待ってて」
たーっと教会の中へ走って行って。
模擬剣を持って戻ってきた。
「これ、使ってもいいんでしょ?」
「なんでもいいよ」
なんだ、その程度か。
ま、もう少し付き合ってやるか。
カンタはぶんぶんと模擬剣を振り回すと。
「よし、コイ!」と気合十分に叫んだ。
どうやら、剣を振り回して防ぐ気らしい。
そんな単純なもんじゃないんだけどね。
両手に雪玉を持って、カンタ目がけて走り出す。至近で打ち込めば終わりだねっと。
ん、なんか空気が違う。嵌められかけてる。そう感じる。
本能が働くまま、急に後ろを振り返る。
「げ!」
雪玉の乗った机をひっくり返そうとしていたシュランの顔面目掛けて、雪玉をぶん投げてやった。
間一髪でかわすシュラン。へえ、やるじゃないのさ。
「こぉらぁ!」
叫びつつ、背後のカンタを見る事なく、左手の雪玉を脇の下から投げつけた。
「それは反則って、敵に聞いてみろとでもいうのかぁああ」
わざとらしいかな? 叫びながらイーシュを追いかける。
後ろをカンタが追ってくるんだろ?
注意が逸れているあたしの背中にタッチだろ?
べしゃっ。
命中音。
「わ。な。なんでぇ!」
足を止めて、ゆっくり振り向くと。
実に、実に悔しそうなカンタの、雪まみれの顔が見えた。
「今のは惜しかったでしょ?」
「まーさーかー、見え見えじゃないか」
とは言ってみたけど、中々の出来だったよ。
弟子たち、成長してるねぇ。
単純に力を振り回すわけじゃない。そういう小ズルイ技を使ってでも、守りたいものを守り抜くように教えている。
それを、自分で工夫して応用してるね。エライエライ。
そう思って、カンタの頭をくしゃくしゃに撫でてやったけど。
「こ、子ども扱いぃ!」
撫ぜて欲しい。
でも、子ども扱いはイヤだ。
だから、両方欲しい。
拒否していれば、子ども扱いはされていないことになる。
でも、頭は撫ぜて欲しい。
フフ、わがままで欲深いな、カンタめ。
あーあ、あたしもギルティに、あたま撫ぜて貰いたいなー
そうだね。なんでも欲しがる気持ちは必要。
勝ちに貪欲でないと、土壇場の勝負に勝てなくなるもんね。
カンタ、やっぱりお前は才能あるよ。
まさに、チビ郁美だね。




