185.なによ、あんただって、泣いてるじゃない
「なんか、一日が目まぐるしいんですけど」
ため息をつくシュラン。
そういえば、車酔いはどうなったの?
「あ、そうですね。忘れてました」
ま、そういうもんだよね。
目まぐるしいのは、移動が格段に速くなったからだね。
村まで片道30分を切るからね。
注目浴びまくりだけどね。
うん、このトラックがあれば、狩りができるね。現地に行って、ドローンで獲物を探して、追いかければいいんだもんね。
でも、車の音で分かっちゃうか。無理かなぁ?
オラクルに帰還。
さすがに車は街の中には入れられないんで、みーよが光の奇跡で消しちゃった。
ただ、トラックとドローンは一度創ったんで、次回からはもっと早く出せるし、理力の負担も少なく出来そうなんだって。
あと、シュランの付き人としての力が格段に上がったので、聖女であるみーよの力も増しているんだってさ。やっぱり、付き人あっての聖女みたいね。
気を失ったまま毛布に包んだ女性を抱えたあたしが、門番を睨みつけると、どうぞお通り下さい、だって。当然でしょ?
道行く人たちがチラチラ見てるけど、無視無視。
ギルドに行きたいけど、先に青の教会に行く。
あらぁ、新しい患者さんかい?
おっかさんに呆れられるというか、喜ばれるというか。
あの村、お金あまり無さそうだから、期待できないけど、いい?
構やしないよ、儲けるためにこんな事してるわけじゃないさね。
ルブラン、出番だよ。
そんなやり取りのあと、彼女を預かって貰うことが出来た。
ギルドで、依頼達成証明を受け付けた受付嬢。
みーよ、あたし、シュランのギルドカードを確認して。
受付嬢に、ちょっとビックリされた。
少々お待ちください、だって。
なんだろ? 戦利品や魔石の鑑定も頼みたいんだけど。
あら、ギルマスじゃん。よく会うね。
何よ、お二階? 大したことじゃないでしょ?
大したことなのね。シュラン、二階級特進だって。
いきなりEランクって、スゴイね。
ギルドカードも、木から石をとばして鉄になったよ。
「い、いや、俺なんか、なんにもしてない…………」
謙遜してるけど、最初にゴブリンどもに奇襲かけたの、アンタでしょ?
あれは正直、助かったよ。
それに、最後のホブにとどめを刺したの、アンタだし。
あたしの声にとっさに反応できたんだから、当然でしょ?
そもそも、アンタのランクが上がってくれないと、もっと稼げるところに連れていけないのよ。だからそれでいいの。
コイツ、結構使える。
なので、これからも、タップリとシゴいてあげるからね。
戦利品の鑑定も、思ったよりは色を付けて貰えた。
ゴブの魔石が50個で、大銀貨5枚。安いなぁ。
ホブの魔石が3個で、金貨1枚と大銀貨5枚。そうか、ホブは1匹に付き大銀貨5枚なのね。こっちも安いわ。
戦利品のクロスボウが、出来があまり良くないけど、1台につき大銀貨5枚。10丁なので大銀貨50枚。金貨にして5枚。これは美味しいね。
棍棒は大銀貨5枚。大ナタも同じ。合わせて金貨1枚。
山刀は金貨1枚だって。
後、依頼達成の報酬で金貨1枚だね。
合計、金貨10枚。思ったよりは、まあまあの稼ぎじゃない?
「アギト・ナイフを研ぎに出したいんだけど、シュランの小剣はどうする?」
「え、いいんですか?」
「いいもなにも、大事な商売道具でしょ?」
「じゃ、じゃあ…………」
大丈夫よ、あそこの鍛冶屋、腕がいいから。
帰りに鍛冶屋に寄って、あたしとシュランの武器を研いでもらうことにした。
あたしのは金貨1枚。シュランのは、そんなに傷んではいないけど、心意気が良いということで、大銀貨2枚で引き受けてくれた。
明日の夕方には、二本とも仕上げてくれるって。
イイ人でしょ?
よく分かんないですけど、職人さんって感じでした。
武器屋に冷やかしに寄ったら、あたしの予備武器に棍棒を勧められた。
ん-棍棒ね。さっきギルドで鑑定して貰って売り払ったんだけどね。
軽いし、それなりの威力だし、お勧めですよ?
見た目がカッコワルイ。パス。
そうですか。では、またショートソードをお貸しいたしましょう。
コイツの分も、いい?
もちろんですとも。
で、またしても借りちゃったよ。
こっちの武器屋も、ホント気に入ってるんだよね。気が利くんだわ。
気づけば、もう夕方。
シュランとリコットが行きつけだという肉屋に寄って、羊肉の売れ残りをお買い上げ。安くして貰えちゃった。
我が家の教会。うん、キレイ。
走って出迎えてくれる、ちびちゃんたち。
ほっとした顔のアリと、元気なリコットは、見習い聖女の服を着ている!
新顔のエレナは、メイド経験豊富なケイトと共に、教会の家事全般を引き継いだみたいね。
エレナはともかく、ケイトには賃金が発生するということで、その辺も話し合わないとね。
みんな、ただいま。話したいことが、たくさんあるよ。
私たちも、いっぱいお話ししたいことがたくさんあるの。
お帰り。はじめての冒険はいかがでしたか?
マムちんの、穏やかな笑顔。
そういうつもりじゃなかったんですけど、割と稼げました。
え?
奉納しても、よろしいですか?
え? シュランを連れて行ったんでしょ? そんな危ない所に?
そのシュランが大活躍でね。
う、うそぉ!
ホブゴブリンを1頭、倒したよ。
ギルドで、Eランクになったよ、二階級特進。
うわ、まさか、ありえない、なんでなんで?
その辺も含めて、先に奉納させてね?
はい、院長室に全員集合!
はい、今日の稼ぎ。金貨じゃらじゃら。
10枚あるけど、メンテで使うんで、経費は引かせてね。
女神ちゃんの公正な分け方で、教会に4枚ね。あたしら6枚だけど、代わりにお肉買ってきたよ、これ、おごり。
金貨10枚!
とりわけ、カンタが感動している。
シュラン兄ちゃんが稼いできたの?
い、いや、俺じゃなくて…………
いや、いい仕事したよ。ランク特進は当然だと思う。これだけ出来るなら、稼げる迷宮に連れて行ってもいいと思うよ。
で、金貨1枚、これ、シュランの取り分。
え? なんで俺に?
教会に奉納後の分け前は、半分がパーティー用の経費。残った半分をメンバーで分ける。
金貨6枚の半分は経費。武器の整備や補充、冒険中の飲食、移動、その他諸々に使う。
残りは3枚。メンバーは3人。だからアンタにも1枚。あたしはみーよに預けてるけど、アンタは自分で好きに使いな。
俺の稼ぎ…………
うわー兄ちゃんすげー
カンタの憧れが眩しい。こんな身近に、夢をかなえた人がいる。
イクミねーちゃんは、師匠は、最初から手の届かない人だけど。
シュラン兄ちゃんは身近にいるからワカル。努力って報われるんだ。
しかも俺、才能があるらしいし! やるぞ、やってやる!
その横で、アリちゃんが震えている。
危ないことして、心配で心配でしょうがない。
でも、ちゃんと稼いでくるんだね。
シュラン、あんた、本当にスゴイよ。
あれ、なんで涙が出てくるんだろう? あれ?
あらあら、シュランも震えてるよ。
なに泣いてるんだよアリ。変だろう?
なによ、あんただって、泣いてるじゃない。
え? そ、そうか? オカシイな……
そんな子供たちの様子を見守る、マム院長、ケイト。
さぁさぁ、お肉預かりますよ。焼いてしまいますからね。
積もる話もあるでしょう。談話室にどうぞ。
~ ・ ~
夕食後、マム院長と相談。移動手段確保。村々を巡って、巡礼の真似事をしても良いだろうか?
公に行うと、謀反と思われるかも。巡礼と収税は、基本的に同時に行うので。
でも、誰かが巡礼を行わないとマズイですよね?
そういう村は、魔物に困っているはず。依頼を受けて、ついでに結界石のメンテを行う形なら大丈夫ですよ。
分かりました。仰せの通りに致します。
周辺の村々から支持が集まれば、領主様も無視は出来ない。
身内だということで惑わされず、公正に判断して頂ければ、どちらが大聖女に相応しいのか、きっとご理解頂けるはずだわ。
でも、くれぐれもオラフレア様に非礼な事を行わないようにね?
承知しております。郁ちゃん次第ですが。
え? あたし? ちゃんと言うこと聞いてるもん。
マム先生とみーよ、互いを見合って、ため息。
ま、まあ、付き人が頭を下げるのは、聖女だけですから。
ご理解頂けますよね、多分。
た、多分、ね。
(つづくっ!)




