183.あれ、あたし、声ダダ洩れ?
巣窟のそこそこ近くまで車を寄せて、一旦停止。
ドローンのカメラを広範囲に切り替えると、あたしたちのトラックも画面の隅に映っている。
道が狭いけど、なんとか車を突っ込ませられなくもないと思う。
「みーよ、この車って、どの程度まで悪路に耐えられるの?」
「ん-光の障壁位かな。岩とか木にぶつけると、壊れて動かなくなると思う」
そっか、運転次第か。
「強行して皆殺しでいい? みーよは車の中にいてもらう感じで」
「そうだね。この車が光の障壁の代わりで、いいと思う。で、」
で?
「かなり理力を使っているから、付き人への祝福までは手が回らないの。郁ちゃんはともかく、シュランは大丈夫?」
シュラン、少し考えた。
「師匠はどう思います?」
お、あたしに聞くのか。
自分で考えな、と突き放してもいいけど。
それはシュランのためにはならないね。
教えるってことは、手取り足取り指示することじゃない。
物事の考え方を、自分で考えられるように教えるってことなんだよね。
その辺が分かっていない“教えたがり”は、嫌われるんだよね。
「作戦として考えるなら、アンタはみーよと一緒にいた方がいい。でも、経験を積むなら、自分で戦わないと身に付かないね」
暗に、ここで日和ってる位なら、もう来なくていいよ、という意味を、分からないように入れておく。
自分の責任で、自分で判断しな。
さ、どう考える?
「師匠と一緒に戦います。それで、攫われているという女性も、出来れば見つけ出したいです」
へえ、合格だよ。なぜ降りて戦うかの意味も、ちゃんと分かってるね。
「よし、じゃそれで行こう。かなり揺れるから、なにかに捕まってな」
タブレットはロックモードにして、グローブボックスにでも突っ込んでおくか。
本当は画面を見ながらナビして欲しいけど、さすがにシュランには無理だろうね。
「師匠、これで道案内して欲しいんですよね」
シュランが、タブレットを見せる。
へえ、気が利くじゃん。
「俺、案内しますから、師匠は運転に集中してください」
あら、役に立つじゃん。
「じゃあ、任せた。落とすんじゃないよ」
あたしは、アクセルを踏み込んだ。
画面の見方に慣れたのか、シュランの案内は的確だった。
細い道だけど、確かに車一台分は走れる。
5分もしないうちに、目的地が見えてきた。
こっちも、見つかってるね。構うもんか。
最後の樹をギリギリでかわして、そのまま車を止める。
キン、カンと、矢が当たる音が聞こえる。
ドアを開け、下方向に転がり出る。
あたしに矢が集中する!
5本。全部当たる。狙いが正確。
脚でドアを蹴飛ばして閉めると同時に、身体を地面に転がしてかわす。
かわしきれない1本が左腕に刺さったけど、ガードグローブのおかげで深手を避けられた。
「痛ったいなぁ」
引っこ抜いて、毒矢かどうか確かめる。大丈夫そう。
と、さらに矢が増えてくる。
全部で10本。半分外れ、半分は当たる。逃げ場がない。全部は弾けない。
4本弾いて。一本を右太ももで蹴りながら貰ってやる。胴体に当たるよりマシ。
狙いが正確すぎ。でも、突っ込まないと話にならないし。
もう何発か貰いながら飛び出すか、と思ってたら。
死角からシュランがゴブリンどもに襲い掛かっていた!
1、2、3、456匹!
立て続けに小剣で切り刻んでいく!
ひるむゴブリンども。全く気が付いていなかったらしい。
あたしも、脚とか腕の痛みなんか気もしないで、一気に距離を詰めてやる。
あたしの顔にひるむゴブリン。そうか怖いのか―
死をくれてやり、その横にいるのも、ついでに巻き込んでやる。
何匹か短剣を抜いたのがいるけど、全然遅い。片っ端から刺し殺す。
うわぁと逃げ出した背中を、シュランの小剣が何匹か斬りつけた。
その間にスリング、石セット。全員逃がさない。全部殺す。
命中率100%で、外にいた連中を全部屠ってやった。
「師匠、大丈夫ですか?!」
「傷のうちにも入んないよ。シュラン、いい仕事するねえ」
「そ、そうですか? 夢中で……」
あら、今頃になって、手が震えてるよ。ひざも、肩も。
「まだ終わってないよ。これだけの数だ。ホブの一匹や二匹……」
ほら、お出ましだ。洞窟の中から、三匹も出てきたね。
身体は2メートル前後。ホブにしては小さい方かな? 成りたてか?
棍棒と山刀と大ナタで、それぞれが武装。防具は無し。申し訳程度の腰巻は、防具のうちには入らない。
みーよは、車を降りている。あの車じゃ、防壁としては頼りないってこと?
でも、並行して光の障壁は使えないんでしょ?
と、あたしに温かい光が注がれる。
なによ、ヒールのために車を降りたの?
危ないから乗っててよね。ま、どうせ壊されるけどね。
「シュラン、みーよの側に。ホブだけじゃない、他のゴブリンにも気を付けて」
「師匠は?」
「全部喰う。30秒持たせな」
「え? え?」
戸惑う暇があるなら、みーよを守りな。
腕も足も、痛みがない。ぶわぁなヒールだけど、痛くないならそれで十分。
真正面から棍棒のホブに突っ込む。
ギロリと睨むホブ。はん、そんなガン飛ばしで怯むとでも?
身を低くして、そのままの勢いで地面を転がる。
思いがけないアクションに、棍棒を叩きつける狙いが逸れたらしい。
脇をすり抜け、そのまま背中側に。
一気に飛び上がり、ホブの両目を塞ぐように捕まえる。
なにかさせる余裕も与えず、そのまま首をアギト・ナイフで掻き切った。
「まず1匹」
右の山刀持ちに、足を振って勢いをつけて飛び掛かる。
待ってましたと斜め上から斬りかかってくるのを、アギト・ナイフの背で受け止める。
でも、その勢いのまま地面に叩きつけられ……
ないで、当たった刃の部分を支点にして、大きく宙返りする。
一瞬、自分が回転しながら、空と地面の方向を見失う。
それはどうでもいい。
山刀を握るお前の位置さえ分かれば、それでいい。
アギト・ナイフを逆手に持ち替え、一回転した身体が、足が、地面に着くと同時に、見もしないで背中の方角に思い切り、打ちつけるように突き刺した。
手ごたえ、アリ。
同時に、みーよたちの方へダッシュ。
大ナタを持つホブが、盾をかざしながら身を挺して聖女を守るシュランに迫っている。
ホブ、こっちを見もしない。
ダッシュ。1、2、3歩で追いつく。
今、初めて気が付いて、あたしを見たホブ。
振り向いたその姿が、アンタの最後を告げるよ。
背中に飛びつき、顎下から脳天にかけて、グッサリとナイフを突き立てる。
うん、知ってる。これじゃ死なないんでしょ。
「シュランとどめえっ!」
「は、はい!」
盾を捨てて両手で握った小剣が、ホブの心臓を一気に貫いた。
こっちを見つめるホブの口から、鮮血が飛び出してきたので、とっととかわして飛び降りる。
「あ、バカ、かわさないと」
「え? ぎゃあ!」
そのまま、倒れてきたホブの身体に、下敷きになったシュラン。
助け出したいけど、ちょっと待って。周囲を警戒。
棍棒ホブ、コト切れてる。
山刀ホブ。自分の心臓の辺りから流れ出ている血を、何とか止めようとしている。まだ生きてる。
で、コイツ。完全に死んでる。シュランを下敷きにして。
シュラン。アンタのことは忘れない。安らかにお眠り。
「しーしょーおー! 勝手に殺さないで下さいよっ!」
あ、生きてたの。そっかそっか。
「そっか、じゃないですよ、もー」
自力で這い出してきたシュラン、13歳。ここに眠る。
「だから、殺さないでってば」
あれ、あたし、声ダダ洩れ?
ちょっと、興奮しすぎみたいね。
んじゃ、まだくたばってない山刀ホブに、とどめっと。
なによ、何睨んでるのよ。言っとくけど、命乞いなんて聞かないからね。
「オマエ ツヨスギル……」
「何を当たり前なことを」
「サイゴニ オマエトタタカエテ……」
「ハイハイ」
聞いてもしょうがないんで、一思いに首をハネてやった。




