182.ドローン
馬車で3時間の距離なんだけど。もう着いちゃった。
30分、掛かってないと思う。太陽がまだそんなに動いていないし。
なによシュラン。顔が真っ青よ?
よたよたと降りて、そのまま地面に吐き始めた。
なによ―情けないなー
みーよは平気なの?
「後ろに乗ってるし、この車が揺れるのも知ってるから。
……シュラン、癒しが必要?」
窓を開けて、みーよが呼びかけている。
かぶりを振ってるけど、本当に大丈夫かな?
で、村の門番さん。槍を構えてたけど、あたしが車から降りると、大丈夫だと判って穂先を下げたわ。
「久しぶり」
「な、あ、あれ、なんだ?」
まあ、ビックリはするよね。
「んと、付き人用の馬車ってところかな。置き場所ある?」
門番、少し考える。
「村の中はマズイ。門の横でいいか?」
「おっけー」
「壁にぶつけるなよ」
「誰に向かって言ってんのよ」
この天才様がそんなヘマするわけないでしょ。
言われた通り、きれいに縦列駐車したよ。自分でも、相当上手いと思う。
結局、みーよに癒して貰ったシュランと共に、村の門をくぐる。
門番にカードを見せると、C級だと分かって、ちょっとビックリされた。
でも、当然だと思い直して。
で、C級ライセンス持ちに、わざわざゴブリン退治に来て貰えるなんて、と感動された。
いや、そんなに恐縮しなくても、この新人の訓練を兼ねてるから大丈夫だよ、と言っておいた。
すると、なおのこと感動された。器の広い聖女様扱い、らしい。
人の心って、よく分かんないわ。
村長さんの家に行くと、大層喜んでくれた。
中に入って話を聞くと、ゴブリンども、結構な数になっているらしい。
大聖女様の巡礼があれば、ここまで周辺を荒らされることも無いのに、と愚痴ってから。
あたしたちの事を頼りにしている、頼む、もう収穫間近なんだと訴えられた。あんなにゴブリンがウロウロしてたら、危なくて収穫なんかできないんだって。
ま、その割には、報酬が少ないんだけどね。
あれじゃ、よほど暇でもないと、誰も来ないよ?
で、その暇人なあたしたちに、今までの被害状況を訴える村長。
牛が1頭、豚が5頭、鶏は半分、女性が1名、攫われた。
「なにそれ、ヒドすぎじゃないの?」
あたしの太い眉をしかめると、村長はそれ以上にヒドい顔をした。
牛と女性は、外の農作業中に集団で襲われて、男たちも抵抗したんだけど、どうにもならなかったんだって。最後まで牛を守ろうとした農家のおかみさんが、そのままゴブリンの群れに呑まれちゃって、取り戻せなかったんだそうです。
豚と鶏は、オラクルに売りに行こうとした荷馬車ごと襲われて、そのまま御者は逃げ帰ったので、命は助かったんだって。
これ以上被害が続けば、村を捨てることも考えなければならない。だけど、今年の収穫があるので、ここで踏みとどまれば、まだやっていける。村の存亡の、かなりの瀬戸際なんだって。
あたしの横で、なぜかシュランが泣いている。そこ、泣くところ?
みーよは冷静に、ゴブリンの巣がある方向を村長から聞き出した。
村を守る結界石についても尋ねていた。どうも、余り手入れをして居なかったみたいね。こないだのオークの集団を、冒険者ギルドが壊滅させたんで、もう大丈夫だろうと判断したのだそうです。
逆に、オークの脅威が無くなったので、ゴブリンがはびこってきたみたい、というのは、みーよに、後から聞いた話。
巡礼はそういう結界石の管理なども行うので、こういう村にとっては本当に必要な儀式なんだけど、大聖女様が執り行ってくれないなら、高位の聖職者を呼んで、管理して貰う必要がある。そして費用がお高いんだって。
大聖女の巡礼なら、領主に税金を納める時に一緒に巡礼して下さるので、そういうことを考えなくても良かった。
自分のミスだと、村長さん、嘆いてたよ。
力なくうなだれる村長さんと、彼を支える奥さんや子供たちに見送られて。
あら、働いていた村人たちも手を止めて、あたしたちを見送りにきたよ。
一緒に村の門をくぐって、トラックの側に戻る。
当然というか、村人たちがピックアップトラックに注目している。
なにあれ?
馬車?
馬がいないぞ?
付き人が押して動かすとか?
ああ、きっとそうだ。荷車なんだ。
……うん。全部違うよ?
と、みーよは杖を再び掲げて、祈り始めた。
かなり集中している。
近くにいるあたしとシュラン、遠くで見ている門番や村人たちは、見守るしかないね。
やがて、杖が光って、線が何かを形作り始める。
円形の枠に囲まれたプロペラが4つ。アームで互いと中心を結び、その中心部にカメラ。
これも見たことある。ドローンだね。
みーよが祈りを止めて、ちょっと一息ついた。
「リモコン操作。わたしは動かし方が分からないけど、郁ちゃんはなんとかするんでしょ?」
渡されたリモコン? これ、タブレットだね。
電源はこの辺。よし入った。
試しに現代に繋がる……わけないか。
初期設定?
ハイハイ。この辺を操作して、こうして、こうやって、はい出来た。
んと、バッテリー計、方角計、高度計、速度計。
モニターで進行方向と下方向を切り替えかな。同時に映せたり、ん、出来た。これで切り替えね。
「準備できたよ。飛ばしていい?」
「ホントに操作できちゃうのね。わたし、全然分かんないよ?」
「この程度ならチョロいよ? んじゃ飛ばすね」
タブレットのパワーレバーをスライドすると、音もなくドローンが飛び上がった。出力は特に指示しない限り、一定って感じ。一応、三段階に分けられる。
前後左右はタブレットの傾きで操作。速度は設定以上には変えられない。
うん、オモチャだね。
で、ゴブリンの巣窟は、あの辺なのね。
飛ばしていく。
上空から見ると、よく分かるね。確かに結構な数がいるわ。
洞窟が見える。あの中にも、なんか潜んでいそうだ。
バッテリーは十分。このままドローン固定。
「シュラン、これ持ってて。変なとこ触るんじゃないよ」
「俺がですか?」
なんか、おっかなびっくりなシュラン。ま、気持ちは分かるけど。
「遊びに来たんじゃナイんでしょ。あたし運転があるから、アンタがこれを管理して」
そ、そうか、と納得したらしいシュラン。
「結構デカイ仕事になるよ、報酬は安いけどね。気を入れな、下手すると死ぬよ」
「は、はい!」
あたしたちがトラックに乗り込むと、村人たちが、なんか騒いでいる。
あれ、押さないの? 乗り物なの? どうやって動くの?
うん。ま、気持ちは分かる。分かるけど。
「じゃ、行ってくるね!」
変に心配されても困るんで、窓を開けて声を掛けとく。
「あ、お、お願いします!」
「頑張ってぇ!」
戸惑いつつの村人たちに見送られて。
あたしたちはそのまま、ゴブリンの巣窟の方向に向かった。




