179.そんな小型犬の吠え声なんて、話にもならないんだけどねぇ?
翌朝の稽古。
昨日みーよに出して貰った雪玉製造機をフル稼働させて、倍の200個を用意。
今日の参加者は5人。
シュラン、カンタ、イーシュ、マイアミ、そしてイラド。
うん、名前覚えた。全部言えた。
で、カンタに見せるための稽古。
コイツ、お手本みせないとダメなタイプだからね。
他の4人には、あたしの四方に散らばって貰う。距離は5メートル前後。
それぞれに机を置いて、その上に雪玉を50個ずつ。
あたしの周囲1メートル位の地面に円を描く。
この外に、あたしは出ない。出たら負け。
「こんなもんかしら」
「いくらなんでも、これは無理じゃね?」
シュランが呆れた顔であたしを見る。
君らは手持ちの雪玉を一発でも、あたしの頭か身体に当てたら勝ち。
あたしは手足を使って弾くか、身をかわすだけ。
四方から投げ込まれるので、まさに十字砲火。
これは、あの真っ赤っ赤の付き人に手ひどくやられたイーシュの為でもある。
あんなもん、避ければいいのよ。
で、避け方を見せてあげる。
まともにやり合ったらダメに決まってるでしょ。
マイアミとイラドには、一発でもぶつけることが出来たら、デートしてあげると約束している。うん、あたしってば、悪い女だわ。
なので、わんこどもはスゴク張り切っている。それこそ、カンタ並みにね。
で、当のカンタは真剣そのものであたしを見ている。
次は自分だと分かっているからね。
少しでも目に焼き付けて、勝つためのヒントにしたいよね。
「よし、いつでもいいよ。来な」
地面の丸い枠から出ないので、いつもの武装であるアギト・ナイフや腰袋は外してある。身体が軽いね。
「よ、よし、みんな行くぞ!」
「おー」
「お前が仕切るな」
「イラドさん、張り切ってますね……」
そう声を掛けながら、シュランがさりげなくあたしに雪玉を下手投げで投げ込んでくる。
ふふ、学んでるね。
気を逸らして、そのタイミングで死角から攻撃。
しかもそれはフェイント気味。本筋は別から。
これは当たらないので、あえて無視。
で、後ろからマイアミが投げるのが本物ね。
頭を軽くそらしてかわす。見えなくても問題ない。直接狙ってきてるのが分かるし、この距離なら狙いは正確。自分の頭という的をずらせばいいだけ。
右のイーシュと左のイラドが同時に上下に分けて雪玉を投げてくる。
上は当たらない。下は、当たるね。
エンジニアブーツを軽くあげて、雪玉にローキック。
前後から同時。
後ろのマイアミの狙いが正確。胴体狙い。これはかわせない。
前のシュランも結構正確。こっちもかわせないね。
身体を回して、両手で払うように、同時に拳で雪玉を壊す。
左右の雪玉も、ついでに手で払う。
お次は二連撃、でもこれ当たらない。無視。
こっちもか。的外れな方向だね。無視。
「本当に、見えてないのかよ……」
「なんで分かるんだ……」
イラドとマイアミが、化け物でも見るような目であたしを見ている。
ほらほら、手が止まってるよ。
シュラン、ヤケにならない。狙いがなってないよ。
イーシュは真面目。一定の間隔で雪玉を投げてくる。
ただ、動作が雑。それじゃ当たらないね。
この中で一番投げるのが上手いのはマイアミ。次がイラドだね。
でも、速度も大事だけど、まずは狙いとタイミングをずらさないとダメなんだけどね。
マイアミはその辺、分かりやすすぎ。正確に投げてくるんで、逆にかわしやすい。
イラドはその辺が雑なんだけど、んと、荒れ球っていうのかな、ちょっと気を使わないと、まぐれで当てられそう。
自然と、主にイラドの方を見てしまう。なんか、勘違いされそうだね。
腕を振るって3方向からの雪玉を打ち払い、空いた片手でイラドからの雪玉を叩き落とす。
足は、基本的に低い弾道の時にしか使わない。しかもモーションの速いローキックしか必要ない。
足元攻撃、割と狙い目なんだけどね。
蹴った時には片足立ちになるんで、上半身への防御がちょっとおろそかになる。しかも上下に注意を払わないとダメだから、防御側は結構な負担なのよね。
と、攻撃が、止まった。
「あれ、もう終わり?」
4人とも、肩で息をしている。
まあ、全力かどうかは知らないけど、みんな、それぞれ50球投げ込んだからね。
「な、何で当たらないんだよ……」
「お前、凄すぎだろう」
「師匠、本当にスゴイですね」
「なあ、これ、カンタには無理じゃね?」
シュランの言葉に、カンタが反応する。
「で、できるもん! イクミねーちゃ、じゃない、師匠が投げるんじゃ無ければ」
「だって。もうチョイ付き合ってあげて」
はーい。
少し苦笑いするものや、あきれてるのもいるけど、みんな素直だね。
今度はカンタが真ん中。4人が周囲を囲む。
雪玉は4人合わせて全部で50個。一人12から13個。
あたしの時の4分の1だね。
「これじゃ少ないよー」
カンタは無視。
「3セット。雪玉補充無し。キッチリ仕留めてあげて」
あたしの言葉に、カンタを囲む4人が頷いた。
「行くぞカンタ。恨むなよ」
シュランが速いスピードで投げ込んだけど、カンタは難なくかわす。
で、後ろから投げたマイアミの雪玉も、身体をひねってかわした。
おお、分かってるじゃん、よく見てるね。
イーシュの雪玉もかわし、イラドのもかわそうとして……命中。
「あ、あれ?」
当たったカンタもビックリしている。
「はい、1セット目終わり」
「ちょ、ちょっと待って。今の、絶対にかわせたのに」
納得いかないカンタ。
「イラドはコントロールが悪いんだよ。だから一番危険なんだよね」
「ええーそんなのズル……」
「それ敵に」
「言ってごらんか。ちぇっ」
おお、俺、なんか褒められたみたいな顔のイラド。
いや、褒めてはいないよ。
もうチョイ観察すると、投げるモーションが分かるから、当たる当たらないが判断できるようになる。そうなれば、もうアンタに注意することは無いね。だって命中率が悪いのは間違いないから。
その辺、カンタに分かるかな?
でも、後ろからの攻撃を簡単に避けている。
やっぱりこの子、才能あるんだ。
2セット目、カンタは結構粘った。10球かわして、またもイラドの荒れ球に自分からぶつかりに行って、おしまい。
悔しそう。スゴク悔しそう。うん、可愛いなー
3セット目。カンタは自分で身体をゆすって、的を絞らせ無くしている。考えたね。
で、ちゃんと気配を察して背後の攻撃もかわしている。で、かわしたつもりで当たるのは、狙われた所に雪玉が来ないからだと学んだらしい。
そういう下手くそが、そうかイラドなんだと覚えたんだね。賢いね。
なので、注目するのはイラド。他はカンでかわす。
身体が小さいんだから、元々当たりにくい。
かわし方さえ覚えれば、結構いい所までいけるんだよね。
でもね、こういうのはね。
カンタの目が逸れたスキを見計らって、雪玉を一個、くすねる。
真上に放る。
攻撃が止んで、カンタが、あ、俺全部かわし切った、スゴイでしょ!
その表情の真上に落ちてくる雪玉。
「ぐえぇ!」
雷にでも撃たれたみたいに、茫然としている。
どこからヤラれたのか、全く分かっていないみたいだね。
うん、マダマダだね。
「惜しかったね。お前の負けだ」
ニヤニヤしながら言ってやると、ぐぬうぐぬうと吠えて来た。
そんな小型犬の吠え声なんて、話にもならないんだけどねぇ?




