176.ズルい? はん、寝言なんか聞きたくないよ、カンタ
教会に戻り、女の子たちは夕食の支度を始めるらしい。
あたしは仕事も終わったし、ゴロゴロしようかな、と思ってたけど。
シュランの真剣な目に、ほだされちゃった。ウフフ。
剣の振るい方をもう一度教え直して。
実戦さながらに、盾を持って振るう練習をさせる。
カンタも、俺にもなんか教えてと、せがまれたんで。
みーよにお願いしてみると、光の奇跡で雪玉製造機を出してくれた。
以前に、動画で観たことがある。
地球の雪国で、雪を手のひら大のボールに握って、石みたいに投げ合う遊びがあるんだよね。
これなら当たっても痛くないし、飛び道具対策のいい練習になりそうだなって、思いついたんだよね。
半円に彫られた、縦横5列ずつの型が2枚、蝶番で繋ぎ合わされている。
二つの型を合わせて、しばらく置いて元に戻すと、白い球が25個、出来上がり。
テーブルを出してきて、ゴロゴロと乗せる。
これを4回繰り返して、100個の雪玉が出来上がり。
「あたしがコイツを投げるから、避けながら近づいてきな。あたしに触れたらお前の勝ち。身体にぶつけられたら負け。離れた処から、身をかわしながら近づく訓練だよ」
「分かった、ヤル!」
お、カンタの目に闘志が宿ったね。
シュランも手を止めて、見守っている。
20メートル位、壁の位置まで離れてもらって、合図する。
「いいよ、来な」
カンタが走り出す。
下手投げで雪玉を放ってやると、難なくかわした。
甘い。
2球目は、肘を支点にして素早く投げると、顔面に見事に命中!
「うわっ!」
ひっくりかえって、何が起こったのか分からない顔をして。
なんかスゴく悔しそうだ。
「速度を変えるなんて、ズルイよ!」
「アハハ、それ、アンタを殺そうとする敵に言ってごらんよ?」
「ぐうぅ!」
スゴく、悔しそうだね。
「お手本を見せないとダメみたいだね。シュラン、ちょっと手伝って」
「はい」
今度はあたしが壁際まで離れる。
シュランとカンタ、二人で雪玉を投げてもらう。
「本気で、当てるつもりで来な」
「はい!」
「師匠、絶対に当ててやるもん!」
カンタ、張り切ってるね。
「この距離だ。2回投げれるかどうかだよ」
シュランとカンタが頷き、二人で少し話し合う。
「よし、いいですよ!」
「じゃ、いくよ」
あたしは走り出した。
カンタがあたし目がけて雪玉を投げてくる。
ああ、かわした方向にシュランが投げるって作戦だね。
でも、カンタの雪玉は、あたしからそれている。狙いが定まっていない。
そのまま突っ込むと、慌ててシュランがあたしを狙う。
投げる寸前、左下に前転。
ゴロンと回り、そのまま投げ終わった動作のシュランに組み付いた。
「うわわ!」
引き倒し、鼻っ柱にコツンと一撃を軽く入れ、そのままカンタに飛び掛かる。
「わ、わ、わぁ!」
腰と片足に手を廻し、そのまま持ち上げながら、頭を下に向けてやる。このまま地面に叩きつければ、首の骨が折れるね。
「はい、死んだ」
「く、くそぉ!」
ジタバタ藻掻くけど、ダメだね。
ゆっくり降ろしてあげる。
なんか、スゴく悔しそうなカンタ。
「何がダメだった? どうして間違えた?」
聞いてみると、額にしわをいっぱいに寄せて考え始める。
いやぁ、可愛いなコイツ。
「シュランはどうだい?」
「えっと、カンタが投げたのを、師匠に見切られてましたよね」
「正解」
「ああん、兄ちゃん、それ、俺が言おうと思ってたんだ!」
「それじゃ遅いだろ」
こんな簡単な事を即答できないんじゃ、とは、言わないでおく。
代わりに。
「あたしが最初にゆっくり投げた時に、カンタはどうするべきだった?」
自分の行動を考えさせる。
「……当たらないんだから、かわさないで距離を詰める」
「そういう事だね。飛び道具は、最小の動きでかわす。そして、相手が投げる直前を見極めてかわすんだ。そうすると、狙いを変えられないからね」
「そっか……」
「師匠、俺は……」
「シュランは盾持ちなんだから、まずは味方を盾で守るのが第一だね。近づく必要があるときも、盾で身を守りながらになるね」
「お、俺も盾を持ちたい!」
「盾を持つと、速く動けないよ?」
「う、ううん……」
また、カンタが考える。
「師匠、盾持ちの俺を相手にする場合は、どうするんですか?」
シュランも考えたみたいだけど。
「飛び道具なんか使わないで、そのまま引き倒すよ?」
言葉に詰まって、うなだれるシュラン。
「でも、聖女を守るためには、盾が必要になることがあるんだ。それでも、守るだけじゃダメだから、飛び出していく力と勇気が必要なんだよ」
二人が、あたしに注目する。
「カンタ、アンタは才能があるんだから、力と勇気を磨けばいい。そうだね、この雪玉が全部無くなる前に、あたしに触れられたら、冒険に連れていく事を考えてもいいよ」
え、いいの! やったぁ!
え、いいんですか? 大丈夫なんですか?
二人の反応が楽しい。
「シュランはそのまま剣の素振り。心配しなくても、これ全部カンタにぶつけるから大丈夫だよ」
うわぁ、鬼だ。
シュランが憐れむような顔を、カンタに向ける。
当のカンタは、まったく気にしていないみたいだね。やる気十分だね。
「よし、じゃあ壁まで離れな。続きをやろう」
「うん!」
シュランは一つため息をつくと。
まあ、自分じゃないからいいか、と思い直したらしい。
離れた処で、ひたすら小剣を振るい始めた。
「師匠、行きます!」
「来い!」
こっちに走ってくるカンタ目がけて、今度は全力で雪玉を投げる!
「ぐわぁっ!」
あ、やり過ぎた。モロに当たって吹っ飛んじゃったよ……
ダメージは負わないけど、衝撃は受けるのかしらん?
20分で全部投げ切っちゃった。
そうだね、言ってなかったね。あたし、右でも左でも投げられるんだよね。
全力で投げる時は身体全体を使うけど、肘だけとか腕だけとか、上半身だけとかでも投げられるんだよね。
カンタにしてみれば、上下左右のあちこちから飛んでくる雪玉を察知しなきゃならないからね。頭がこんがらかっちゃうね。
それでも、後半はいい所まで近づけるようには、なってきたね。
ま、近づくと狙いがより正確になるんで、その一押しが大変なんだけどね。
ぜぇはぁ言ってるけど、やっぱり才能はあるんだよね。
「し、師匠、もう一回……」
倒れそうにフラフラだけど、目が死んでない。
「雪玉はまた今度にしようか。ここまで近づいたことにして、今度はあたしの拳で相手してあげる。あたしは片手しか使わない。アンタがあたしに一撃、は無理だから、触ればイイことにしてあげるよ」
「わ、判った」
身体はフラフラ、でも闘志はまるで死んでない。根性の塊だね。
あたしは身体を低くして、手招きする。
「来な」
「お願いしますっ!」
頭を下げて、そのまま突っ込んできたところを、掴んで地面に叩きつける。
「ぎゃっ!」
「相手を見ないで突っ込まない。それでどうやってかわすつもり?」
「は、はい!」
今度は頭をあげて、あたしの出方を伺う。
「見ているだけじゃ終わらないよ」
「は、はい」
挑発したけど、乗ってこないね。
それじゃマイマイと一緒だね。
あたしの方から踏み込んで片足を掴んで持ち上げると、実に簡単にひっくり返った。
「あたしは片手しか使わないけど、コッチから行かないとは言ってないよ」
「は、はい!」
待つのもダメ。当たり前でしょ?
それじゃ訓練にならないじゃないのさ。
起き直って、再び構えるカンタ。
右にフェイントして、向かってきたけど、見え見えだね。
ただ、あたしが右手しか使わないとみて、反対の左から来るのは、考えてるんだね。
下から変則軌道の右アッパー。
左足をクロスさせるように踏み込んだから、きちんと体重は乗せている。
受け止めようと構えた両手ごと、力ずくで宙に浮かせてやった。
バランスを崩して浮かんでいる所に、踏み込んでデコピン一発。
本気なら右ストレートだよ。
仰向けにひっくり返るカンタ。
「もうフラフラだね。終わりにしよう」
「まだまだ……まだまだ……ぜぃ、ぜぃ……はい」
ああ、もう体力の限界だね。立てないみたい。
抱き起して、建物の壁にもたれさせて。
一応、あたしたちの様子が見えるようにはしてあげる。
模擬剣を取って、シュランに手招きする。
「待たせたね。こっからが本番だよ」
「はいっ!」
汗でぐっしょりのシュラン。アンタにはちょっと重い装備だけど、まじめに剣を振るってるね。
「打ち込むから、防ぎきりな。できれば、その場に踏みとどまりな。後ろに聖女様がいるつもりで、守り切るんだよ」
「はい!」
二度、三度、模擬剣を振るう。軽いなぁ。
おおざっぱに、まずは上段から一撃。
がっちり盾で受け止めた。
お、小剣で反撃とは、やるね。
軽く後ろにステップを踏んでかわすと、下段から突き上げる。
こっちも盾で受け止めたね。そして反撃。
中々、様になってるじゃないか。
これは、本気でもいいのかな?
「師匠、顔が怖いんですけど」
「あら、そう?」
そんなに嬉しそうかな、あたし。
「愛弟子の成長が喜ばしくてね」
「そいつはどうも」
あまり力を込めると、折れちゃいそうだけどね。
適度に力を込めて、横なぎに剣を振るうと、盾で受け止めたものの、ぐらついてる。
ほれ、隙あり。
がら空きの胴体を蹴っ飛ばしてやると、ゴロゴロと転がっちゃった。
「大丈夫ぅ?」
「い、いや、結構、キツイっす」
腹を抱えて、なんとか起き上がろうとするシュラン。
「いや、アンタにじゃないよ。模擬剣に言ったんだよ」
「……ひどい」
「それ、敵に言ってごらんよ」
「わ、わかってますよ……」
当たりが、扱いが、カンタとは段違いだ。
シュランは自覚しているらしい。
そしてカンタもそれを、まざまざと見せつけられている。
ズルい?
はん、寝言なんか聞きたくないよ、カンタ。
冒険に出たい?
身体が出来上がってからの話だって言ってるでしょ?
少なくとも、こうしてあたしが蹴飛ばしてもぶん殴っても大丈夫な位に大きくなってから、そういうことは本気で言いなよ。
「もういいかい? 次行くよ」
「は、はいっ!」
シュランの声が、カンタの耳に、教会全体に響いた。




