172.救われて良かったね。本当に良かった。私たちの分まで生きてね
「では、残った二人を人族として葬還する儀式を執り行います」
お父さんの声と共に、再び青い光が円形の舞台を包む。
あたしたちも、他の人たちも、少し離れた処で見守る。
教会への青い通路が再び通り、その中を白黒長帽子の弟子二人が、担架のようなもので女性を舞台へ運び込む。
担架が、宙に浮いた状態になっている。
彼らは教会に往復して、もう一人も同じように運び込んだ。
青い光でよく見えないだけど、女性たちは例のポンチョを着たままで、意識はないみたい。一人は小柄でまだ若そう。もう一人は成人してるね。二十代半ば、かな。
「皇龍公国第八皇位継承者、アーデリカ様で御座います」
横で見守るふくよかさん、ケイトが説明してくれる。
皇位継承者?
「お仕えしておりました」
少し涙ぐみながら、ケイトが話す。
「もうお一人は、アーデリカ様にお仕えする侍女で公爵夫人のイライザ様です」
……へえ、じゃあこの三人が、一緒にオークの捕虜にされちゃったって事なのね?
「居住していた城をオークの軍勢に攻め落とされて、私たちは虜囚となり、昼夜問わず辱めを受け続けてきたのです」
そうなんだ。
「ようやく、ようやく解放されるのですね」
ケイトは何かを堪えるように、じっと彼女たちを見つめている。
白黒長帽子の偉い人が、青い光に包まれた舞台の中に入る。
豪勢な杖を彼女たちにかざし、宙に円を描くように回し始める。
どんどん速く回すと、うっすらと円軌道に光が起こり始めた。
杖を回す手を止めたけど、光は残ったまま。
その円の光が、眠る二人を包むと。
二人とも、宙に浮かぶ担架から降りて、立ち上がった。
目に光。表情に力。
意識を、取り戻している。
「姫様、先生……」
ケイトが泣きながら青い光の壁を越えて中に入ろうとする。
でも、超えられない。
意識を取り戻した二人が、ケイトに微笑みかける。
そして、周囲を見回し、一緒に捕虜になっていた女性たち一人一人に笑顔を向ける。
救われて良かったね。本当に良かった。私たちの分まで生きてね。
声は聞こえない。
でも、そう言っているように、聞こえた。
「ああ……」
ケイトが堪え切れない様子で、膝から崩れ落ちる。
でも、顔は彼女たちに向けたままだ。
まるで最後まで焼き付けるかのように。
白黒長帽子が、厳かな口調で彼女たちのために祈る。
「生命と死の裁定者として、貴女らを人族の元に還さん。貴方らの生涯をここに刻み、魂石とせん。高貴なる・終焉」
光の輪が強く輝き、彼女たちも呼応して輝く。
身体が縮みだした。
笑顔のまま、消え行くように小さくなり、やがて人の形を失う。
後に、ほのかに黄色味を帯びる、大人の男性のこぶし位の大きさの石が二つ、残された。
「人族としてその生を全うした証し、魂石である」
そう宣言し、弟子たち二人に手渡す。彼らも恭しく、受け取った。
青い光が消え、彼らも舞台から降りてくる。
葬還の儀式が終わったらしい。
そうか。オーク・ジェネラルに取り憑かれていたあの子、消えちゃったんだね。
これで良かったのかは分からないけど。あたしは出来る限りの事はしたよ。
だから、これでいいんだよね。




