171.それを探すために、もうちょっと生きてみな
成り行きを見守っていたお父さんが、手を一つ叩いた。
「救済の力を加えて頂けるのであれば、その証をお示し下さい」
記録官じいちゃん、白黒の長帽子、そしてみーよ様が、もう一枚の大金貨を差し出す。
その金貨たちも青い光を纏い、オークの捕虜にされた女性たちがいる青い光の中へ飛んでいった。
中でくるくる回りながら待機している他の大金貨たちと合流し、それぞれが散らばって女性たちの頭上にとどまった。
「意志と力は示され、晴れて彼女たちは人族の元に帰還されました!」
お父さんの高らかな声に。
各宗派の人たちが拍手を送る。付き人のあたしたちも一緒に手を叩く。
アオイが杖を振るい、青いサンダルが床に現れる。
青い光の壁も消えて、舞台から彼女たちがサンダルを履いて降りてくる。
教会から、何組かの家族? 親族? が出てきて、彼女たちの何人かと抱き合ったり喜んだりしている。
数えると、4組いるね。迎え入れてくれる家族がいるのが、8人のうち、ちょうど半分だったんだね。
残ったのは、3番、4番、5番目に状態の悪かった女性と、一番軽かった少女。うん、全員、あたしが深く関わっている人たちばかりだね。
みーよは、家族が受け入れてくれる人たちを見ながら、説明してくれた。
「家族が受け入れてくれる場合は、彼らが望むなら青の教会へ感謝の寄進をするのよ。でも、その財力がなくても、各宗派の人たちが示した恩恵の半分が女性たちに与えられるから、受け入れてくれる家族と共に、生活の基盤は作れるわ」
あの大金貨は、そういう意味があるのね。
半分は彼女たちへ。もう半分は青の教会へ、って事ね?
でも。
「じゃあ、宗派の人たちは払い損なんじゃないの?」
「度量の大きさを示すことで、会議の時に発言権が得られるわね。ん-順列ができる、っていえばワカルかしら?」
順列。そんなのあるんだ。
「何かとあるわよ。今回は大地母神が譲ってくれたので、助かったわ」
「譲らなかったら?」
「より大きな恩恵を示せる方に場が傾くんだけど、最初に場に示された大金貨の枚数を超えると、この救済全体が破綻しちゃうの」
「へえ、そうなんだ」
「ザイモン様は、そういうことに関心を持たれないと思ってたけど、逆にムキになられちゃって。困った人よね」
苦笑するみーよ。
「ヴァラミンは順列が掛かるから、気にしないわけにもいかないんだけど。どこかで借りを返さないとね」
ふーん。色々考えてるんだねぇ。
「で、家族のお迎えがない女性たちは、どうするの?」
「各宗派で引き取ることになるわね。で……」
おいでされて、みーよと一緒に残された女性たちの所へ。
「光の女神アーリューシャインの聖女、ミヨです。女神さまは皆さんの中から二人を、その庇護の元に招かれております」
彼女たちが、互いの顔を見合わせる。
じいちゃん二人も、顔を見合わせた。
「聖女ミヨ、それで良いのか?」
「家族の元に戻った者から一人を選んでも良いのだぞ?」
「いえ、無理を言い出しておりますので、これは、させて下さいませ」
記録官と白黒のじいちゃんコンビの気遣いに、軽く首を振るみーよ。
「わ、私、お世話になっても、いい?」
一番最後にオークたちから助けて、一番最初にオークの束縛から解放した少女が、大きな目をくりくりさせて、あたしたちに声を掛けて来た。
みーよが頷く。
「いいって。おいで」
わっ、という感じであたしに駆け寄る小さな女の子。
抱きしめてあげると、顔を摺り寄せて来た。
「名前、聞いたっけ?」
「ううん。エレナ、エレナだよ!」
「そっか、エレナ、よろしくね」
「うん!」
リコットより少し上の年に見えるね。仲良くしてあげられるといいんだけどね。
「あ、あの、私も……」
こっちはふくよかさん。初日にオークの束縛から助けた、確か5番目に状態が悪かった人だったね。
殺して欲しいとお願いされたけど、アンタがオーク化したら、ちゃんと殺してあげると約束したんだったか。覚えてるよ。
そうだね。3番目の色白さんのことも覚えてる。中身がとても強かった。
最初からアギトナイフを抜いて、殺す気で掛からないとダメだった。腕が折れていても平気で殴りかかってきた。アナコンダで絞め殺してナカミを吐き出させたけど、喉に詰まって本当に死にそうになった。おっかさんが吸いだしてくれなければ、本当に殺していたよ。あの時、おっかさんの本当の凄さがわかったわ。うん、これは頭が上がらないわ。
4番目のスラブ美人の、イーシュが苦労していた彼女の事も、よく覚えてるよ。アオイがイーシュを付き人に戻して、初めての患者さん。付き人がこじ開けた方が治りが早いみたいなんで任せてみたけど、暴れ出して拘束を振りほどいたんだったよね。アナコンダを仕掛けたけど、あたしの事をナメて掛かってきたんで、そのまま絞め殺したんだったっけ。技が極まってしまえば、本格的にオーク化したって無駄な事がワカラナイらしいね。ザコのくせに生意気な奴だった。こういうのは、気合と根性なのよ。イーシュにはそれが足りてないのよね。
で。
みーよ、どうする?
この辺は、あたしが決める事じゃないと思う。
みーよは、記録官や白黒と少し話し合った。
で、色白さんは記録官。スラブ美人は白黒長帽子が引き取ることにしたらしい。
容態が悪かった者を率先して引き受けた、という形で、メンツを保ちたいのだ、というのは後から聞いた話だけどね。そういうの、メンドクサイね。
で、ふくよかさんがあたしたちの所に来ることになった。
名前はケイト。30歳。皇龍公国出身で、お屋敷勤めのメイドさんだったんだそうです。
元の国に家族はいるけど、恐らく死んだものとみなされていて、故郷に帰る手段もその気も無い、とのことです。
あまりハッキリとは言わないけど、帰ったら殺されるかも、少なくとも受け入れては貰えない、位のものらしい。
死んでもいい、いっそ殺して欲しいんだけど。
おっかさんに、こうして生き残った以上は、もう少し何か出来るかもしれないじゃないか。それを探すために、もうちょっと生きてみな、と言われたのだとか。
で、療養中に色々考えていたんだけど、あたしの顔を思い出して、行くならあそこにしようと思っていたんだって。
考えても考えても、もしもダメだったら、あたしが殺してくれるだろうから、が理由らしい。
そんな重たいモノ、想って貰いたくないんだけどね。
うーん、まだ病んでるなぁ。
そんなケイトの事も、小さいエレナが元気に抱き付いて「わかる! わかるよ!」と顔を摺り寄せる。
ケイトも、うっすら目に涙を浮かべて、エレナの頭をなぜている。
あの醜悪な空間に長い間、閉じ込められていた同士の絆は、とても深いんだろうね。




