169.……君ら、あたしをなんだと思ってるのよ。
奴隷管理区を抜けると、青い屋根が見えてくる。
何日か通っただけなのに、なぜか懐かしく感じるのは、気のせいか知らん。
きれいな馬車が3台、御者と一緒に道路を占拠している。
外の広場には、椅子とテーブルが並べられている。
もう何組か、着いているね。
エロハゲ親父と愛人たちは、まだみたいだけど。来なくてイイけど。
「ヴァラミン? それに……」
野良の黄色いの。名前なんだっけ?
「メロー、久しぶり。ヴァラミン様、お疲れ様です」
そっか、メローだったか。アブナイアブナイ。
「聖女ミヨ。マム・エンデバス様は、どうなされましたか?」
「わたしに、名代として参加するように仰せ仕りました」
みーよが杖を軽く光らせると、ヴァラミンは納得したみたいね。
「ミヨ、久しぶり」
緑の聖女、ミドリちゃん。何とか名前、覚えたよ。
軽く抱擁して、親密なあいさつ。
あら、あたしにも?
「そちらの若い方は、お弟子さんですか?」
ぬ、そっちに興味か。
「一応ね。ンで、昨日みーよの付き人に成った」
「!」
ミドリちゃん、びっくりしてる。
耳ざとく聞きつけた、んと、メローがこっちに向かってくる!
「ど、ど、どういうことですわ!」
「そうなのー! どういうことなのー!」
野良聖女ズめ、そんなにがっつかなくても。
ほら、シュランがビックリしてるでしょ。
「ミドリ、メロー、そういう話は、後にして……」
みーよが執り成しかけたけど。
「そうはいきませんですわ!」
「ズルイ、ズルイなのー!」
息巻くメローと、カンタ並みの精神構造のミドリ。
さすがのみーよも、タジタジだね。
あたしの出番かな?
「いい加減にしなさい!」
あ、ヴァラミン姉ちゃんに首根っこを掴まえられて、引きずり出されるメロー。
「ミドリ、あたしの顔に泥を塗る気かい?」
こっちは、おっかさんに引きずり出されちゃったネ、ミドリちゃん。
その辺にポイして、戻ってきたおっかさん。
「久しぶりだね。体調はどうだい?」
「お久しぶりです。全然元気。こないだ迷宮に、二泊三日で籠ってきたよ」
「そうかい。で、この子が新しい付き人かい?」
ほら、出番だよシュラン。
「シュ、シュランです。よろしくお願いします!」
「アッハッハ、そうかいそうかい」
例によって、おっかさんにバンバンと肩を叩かれるシュラン。
うわ、痛そー!
うん、ちゃんと地面にめり込んでいくね。
「ミヨ、二人目の付き人って事は、いよいよなのかい?」
「はい。機会を得られれば、必ず」
力強く、みーよが答えた。
あの真っ赤っ赤なのと、決着をつけるのね?
で、おっかさんは奥の方に挨拶に向かっている。
オーク討伐の時に、ギルドマスターと一緒にいた記録官みたいな仕事をしていたおじいちゃん神官だね。アストレージとか、言ってたような。
その隣に、みーよと同じ白い法服だけど、縁取りが太い黒になっている、高級そうな法服を着こなし、頭に背の高い帽子をかぶった偉そうな壮年の男の人が、同じ格好の少しグレードの下がった法服と少し背の低い帽子をかぶった青年二人と共にたたずんでいる。
「あっちの白黒は?」
「あれは“生命と死の裁定者”ね。彼らが来るってことは、侵喰が酷かった女性は、やっぱり葬還するんだね」
んと、あたしがオークジェネラルの変異体と闘った時の、宿主の女性の事だよね。やっぱり、ダメだったのか。
「郁ちゃんのせいじゃ無いからね。郁ちゃんは、ホント、良くやったよ」
少しうつむき気味の、みーよ。
「あの時は、本当に死んじゃうのかと思ったよ」
「アハハ、死ぬときは死ぬよ。それが怖くて闘いなんかできないよ」
「んもー人の気も知らないで!」
あら、怒らしちゃったわ。
手をにぎにぎして、機嫌を取る。
「もう、そうやってすぐゴマカスんだから」
と言いながら、まんざらでもないんでしょ?
「あとは、トルモルト教会が来れば揃う……」
みーよが言いかけたと同時に、あたしの背中がピリピリし始めた。
来る。
例の空中に浮かぶ布切れに乗って、エロハゲ親父がやってきた。
先頭を歩くのは、全身布人間。中身は浅黒の耳長、銀髪のおっぱいフリフリ美人なんだけどね。
で、一緒に来てるネコ娘がこっちを睨んでる。
あたし、言ったよね。ペットは躾けておけって。
警告を聞けないなら、しょうがないよね?
殺しちゃっても、文句言わないでね。
「師匠、師匠!」
「郁ちゃん、抑えて、ね?」
左右から、なんか止められてる。
聞く耳持たない方法、なんか無いかなぁ?
もう、髪の毛が逆立ってるんだけどね。
あ、エロハゲが布から降りて来た。
ネコ娘を押しのけて、こっちに走ってくる!
こっちもダッシュ……
あれ?
エロハゲ、おっかさんにガッチリ掴まれた。
え? うそ? あたしの攻撃はほぼ全部かわしてたのに?
あんなのに捕まるアンタじゃないでしょ?
「ザイモン! あたしゃケンカのためにお前さんを呼んだわけじゃないよ!」
「い、いや、しかしだな……」
「つべこべ言わない! この顔に泥を塗るつもりなら、帰っとくれ!」
「く、くそっ……」
うわぁ、鎮めちゃったよ。さすが、おっかさん。
「イクミ!」
「は、はいっ!」
「お前もだよ。場を荒らすつもりなら、最初から来るんじゃない!」
「やっ、そ、そんなつもり、ないです……」
とっさに、答えちゃった。
「じゃあいい。おとなしくしてるんだよ!」
「は、はい……」
あ、あ、あたしが悪いんじゃ……
「声が小さいっ!」
「は、はいっ!!」
直立不動。
全身全霊。
不動不断。
そんなあたしの様子を見て満足したのか、おっかさんはエロハゲの愛人たちに何か言いくるめて、ヤツをそのまま手渡した。
こ、こ、怖かった……
「師匠にも、怖いもの、あるんですね」
「郁ちゃんを従わせるって、スゴいね」
……君ら、あたしをなんだと思ってるのよ。




