163.あたしら付き人は、聖女以外に下げる頭は持ってないのよ
武器防具で合計金貨9枚。90万円。ん-買い物したねぇ。
「師匠、お金は稼いで返しますから」
「いいよ。可愛い弟子へのご祝儀で。そう思うなら、働きで返しな」
お金はそれなりに散財してるつもりなんだけど。
実は、手元に結構余ってるんだよね。
大きく使ったのって、教会の補修費半分持ち、子供たちの新品の衣服、模擬剣やスリング、アギト・ナイフの研ぎ代、冒険者ギルトで暴れたときの、エール飲み放題……位かしらん。
今回の、シュランの武器防具セットが一番大きいかもね。
「あたしも、もう少しゴッツい武器とか欲しいんだけど、何買ったらイイか分かんないんだよね」
「師匠が、ですか?」
「ん-、こないだオークジェネラルの憑依体と闘って、その時にアギト・ナイフがあまり通用しなかったんだよね」
「へ、へえ……」
この人でも、通用しない事ってあるんだ。
みたいな顔をされたんで。
「ほら、青の教会で二日くらい“にゅういん”(あれ、コモンが働かない)、寝込んでいた時、あったでしょ?」
「あ、確かに。あの時、そんなのと戦ってたんですか?」
寝込んだ、は分かるらしい。
オーク・ジェネラル、は、もう想像の外みたいね。
「そうよ。このお仕事、結構命がけなのよね」
などと会話しつつ、冒険者ギルドに到着した。
「もしかして、俺も登録するんですか?」
「そ。みーよの付き人だから、手続きは早いと思う」
時間帯も、ちょうど空いてるからね。
中に入ると、ギロリと睨んでくる、くすぶった冒険者たちの目、目、目。
「うわぁ」
「ビビるんじゃないよ」
あたしが連中を睨み返すと、途端に小さくなったり目を逸らしたりした。
「な、なんなんです?」
「アンタの初心者“ちっく”(コモンめ仕事しろ)、んと、それっぽい恰好をみて、舐めて掛かってきたんだよ」
「そ、そうなんですか?」
そりゃそうでしょ。
アンタが幾ら大人な戦士のふりをしてても、傍から見ればまだまだガキンチョが一丁前の格好してるぞ、カモだな、にしか見えないもん。
冒険者なんて、所詮は荒くれもんの集まりにしか過ぎないのよ?
色々、甘いなぁ。
これは、一人前に仕込むのが大変だわ。
そのままカウンターについて、シュランの登録を頼む。
この辺は心得ているみたいで、シュランは身体の中から身分証明に使うマインド・クリスタルを出してきた。ホント、この仕組み、不思議。
受付嬢が受け取って、奥で何か調べて。
「聖女ミヨ様の付き人を確認致しました。冒険者ランクはG級で宜しいですか?」
ああ、イイんじゃない?
「ランクってなんですか?」
誰か、説明して無いの?
あたしは受付嬢の顔を見る。
あ、向こうもあたしを見てる。説明してないの?
うん。これはあたしが悪い。ってか、説明苦手なのよ。
承知してくれたみたい。受付嬢はシュランに懇切丁寧に説明してくれた。
なんなら、冒険者の心得まで解説してくれた。サンキュー受付ちゃん。
で、聖女と付き人2人。登録者が3人になったので、パーティーの名称を付けて貰いたいんだって。
なにそれ?
冒険で一緒に組むメンバーが2人までは、個人に依頼という形だから、名称はイラない。
でも3人以上で活動するなら、そのパーティーに依頼という形になるので、冒険者ギルトとしてはパーティーの名称で管理したいらしい。
もちろん、今まで通り個人で依頼を受ける事は可能。
いずれにしても、依頼を受けた場合の成否の判定の記録に必要なんだってさ。
なんでもいいの?
はい。でも、聖女ミヨ様にご相談された方が宜しいかと。
そりゃそうだね。分かったよ、言っとくね。
面倒ごとはさっさと片づけるに限る、と思ったけど。
みーよに相談するのが筋だね。正論だわ。
危うく自分で決めちゃうところだったね。
ん?
もしかして、受付のトロ子ちゃんに、あたしの性格、見透かされてる?
手続きが終わって、依頼板も覗いてみる。
コラ周囲、面白そうな顔で見てるんじゃない。また暴れてやろうか?
「スゴイですね。こういう風になってるんですね」
Gランクでも受けられそうな依頼が、少しだけ残っている。
常設の依頼らしい。薬草を摘んだり、街の中での清掃業務とかだね。
後は、屋敷のゴミ片付けと、ペットの犬の散歩?
これは誰も引き受けずに、そのまま残っていた。
なんでだろうと思ったら、報酬が安すぎた。
後は、特に絡まれたりされることもなく、ギルドを後にする。
あたしがいないと、いいオモチャにされるんだろうな。
と、同じように思ったらしくて。
「ギルドの中にいた冒険者の皆さんは、あそこで仕事が来るのを待っているんですか?」と聞かれた。
「単に、仕事にあぶれただけだと思うよ」
「で、なにもしないで、ずっとあそこに?」
「そだね。エールをちびちび舐めながら、何か面白そうなもんがないかとか、誰かカモでもやってこないかと、待ち構えてるんだね」
シュランは、少し考えた。
「ミヨ様は、あの連中がたむろする中に入って行って、お仕事を探していたんですか?」
「らしいね。野良聖女とかションベン聖女とか泣き虫聖女とか言われてたんだって」
「それって、付き人が、もしいたら……」
「イーシュから聞いてるんでしょ? 聖女は付き人がいてこそだって」
「は、はい……」
何事か、考えてるね。考えてる。
「もしかして、ですけど」
「なに?」
「師匠がミヨ様と一緒に、あのギルドに入った時も?」
「正解。散々言われた。ついでにみーよを裏切って逃げ出したパーティーの連中にも、分け前を全部寄こせって言われた」
うわぁ。
シュラン、そういう顔をしてるね。
よく分かってるね。
「一応、どうなったか、聞いても?」
「全員ぶっ潰したに決まってるでしょ?
ついでにみーよを裏切って逃げ出したパーティーの連中は、みんなが見ている前で、床に頭をこれでもかと、たあっぷりと擦り付けさせて謝らせた」
「で、で、ですよね……」
普通はそこまでしない。でも、この人はヤル。絶対にヤル。
うん、そうだよシュラン。こういうのは、舐められたら負けなの。
あたしら付き人は、聖女以外に下げる頭は持って無いのよ。
その辺も、キッチリ教えてあげるね。




