161.みーよの長い髪に隠れて、よく見えなかった
院長室を出て。
「ん-なんか緊張した」
「郁ちゃんでも緊張することあるんだね」
「あるよーあるある」
笑いながら談話室に入ると。
子供たちが、ちびちゃんも含めて勢ぞろいしていた。
「院長先生のお話、終わった?」
「終わった?」
リコットが少し緊張した面持ちで。
カンタがそれ以上に緊張した面持ちで。
で、少し顔が青ざめてるアリと。
その横で、何かを決意しているシュランと。
さらにその横で、ちびちゃんたちが「はなしおわったー?」とマネをしている。可愛いなぁ。
おいですると、二人とも寄ってきた。
「真面目な話なのね?」
あたしの代わりに、みーよがみんなに言う。
あ、まじめな話なの?
ちびちゃんたちを構っていてもいいの?
……ダメらしい。
と、後ろから、マムちん。
「メルとギンは、私が預かりますよ。さ、いらっしゃい」
「はーい」
「あーい」
あら、トコトコと歩いてマムちんの所に行っちゃった。
こりゃ、あたしたちが迷宮探索してる間に、相当揉めてたみたいね。
みーよが、みんなに座るように促し、あたしも一緒に座った。
口火を切ったのは、なぜかみーよだ。
「シュラン、それでいいのね?」
「うん、このままじゃダメなんで」
そういうシュランの顔を、悲しそうに見つめるアリちゃん。
なになに? なんなの?
「兄ちゃんだけ、ずるいよ……」
横でブツブツいうカンタ。
「カンタには無理だって」
その横で怒っているリコット。
だから、何の話?
「郁ちゃん、あのね」
あたしの顔を見て、ああ、ちゃんと話してなかったね、と、説明してくれた。
あたしがこの世界に来る前。
みーよは付き人のいない野良聖女だった。
本来は、男性が付き人になるべき。
でも、なってくれる人は中々いなかった。
でも、でも、でも。
いるじゃん、そこに。
シュランが。
じゃあ、なんで付き人に成らなかったの?
アンタ、マイアミみたいな後出しジャンケンする卑怯者でも無いでしょ?
うん、答えは簡単だね。
みーよ、すぐ死にそうだったから。
巻き込まれたら、シュランも死んじゃうもんね。
付き人は、聖女が死んだら死ぬ。心臓を掴まれてるからね。
あたしはみーよが何であれ、付き人に成るけど。
シュランからすると、そうもいかないよね。
それまでは教会の生計を、薪拾いして賄ってたしね。
「で、今頃になって、みーよの付き人に成りたい、なんて言い出してるのね?」
あたしが少し威圧を掛けてジロッと睨むと。
お、シュラン、ちゃんと睨み返してきた。
うん、それでこそ、あたしの弟子だね。そう、教えてきたよ。
おろろ、アリちゃんとリコットが、ちょっと怯えてるよ。
うーん、君らを威圧してるんじゃ無いよ?
こらこらカンタ、アンタ、何を喜んでるのさ。
イクミねーちゃんが怒ってるゾ、じゃないんだよ?
これはチョットした試験。これでビビるようなら、付き人なんか止めときなって話。
チラッと、みーよを見る。
まだ、あたしのターンでいいの?
いいよ。
以心伝心して。
「あたしは、この世界に召喚されて、すぐにみーよの付き人に成ったよ。何の迷いも無かった。
シュラン、アンタはその時、何してたの? ビビってたの?」
「お、俺は……」
お、ビビったかな?
じゃ、この話は終わりだね。
他の子たちは反対してるみたいだし、この程度で引き下がるようじゃ、話になんないからね。
「アリの付き人に成りたかったんだ」
お、そう来たか。
うわ、アリちゃん、顔が真っ赤だよ。
リコットも、つられて少し赤くなってるね。
カンタだけは、何の事? って顔してるわ。
「だから、急にマム先生に、ミヨの付き人に成れって言われても、嫌だって断ったんだ」
うん、そういう理由で間違い無いんだね。マムちんからはチラっと聞いてたけど、アンタの口からもハッキリ聞いておきたかったんだ。
「そしたらさ、ミヨが、ミヨねーちゃんが、うんうん、それでいいよ、いいんだよっていって、頭をくしゃくしゃにして……」
あらら、シュランも赤くなってるよ。
ん?
みーよまで?
「でも、その後のミヨ姉の苦労を見てると、なんか、俺、どうしたらいいのかなって思ってた。ずっと思ってたんだ」
まあ、アンタが付き人に成ってれば、みーよも、もう少し苦労しなくて良かったかもね。
でも、洗脳が解けていないみーよと、小僧っ子のシュランのコンビか。
どっちかか両方が、簡単に死にそうな気しか、しないなぁ。
それに、もしも上手く行ったとしても、そのうち、あの真っ赤っ赤が襲ってきそうな気がするけどね。
「この間、俺たち、領主様の娘様に襲われただろ?」
そうね。忘れないわ、あれは酷いわ。
「あの時、俺は、アリを守れなかった。だから……」
「だから?」
「力が欲しい。みんなを守れる力が」
「で、みーよの付き人に成るの?」
ふふん、と鼻で笑いたくなるのを、何とか堪える。
ああ、浅はかだなぁ、シュラン。
でも、青春だよねぇ、シュラン。
「アリが聖女に成れたら、改めてアリの付き人になる。それまでの間、俺に力の使い方を教えて欲しい、です」
深く頭を下げるシュラン。
みーよが、あたしの顔を見る。
どうする?
うん、ま、そういう事なら、あたしは構わないけど。
ただ、みーよの事を守れなかったり足手まといにしかならないようなら、遠慮なく排除するけど、それでいいのね?
分かった。
以心伝心を済ませて。
「前のわたしだと、付き人は郁ちゃん一人しか無理だったけど」
杖を掲げて力を込めると、急に強く輝いた。
「今の、大聖女を目指す者としてのわたしなら、付き人が増えても大丈夫なんだよね」
シュランの顔が輝いたのは、杖の光に充てられたから、じゃないね。
光が消えるとともに、みーよが真顔になる。
「アリは、それでいいのね?」
「だ、だって、私じゃ……」
「アリは、聖女には成らないの?」
「う、うん、いや、いや、でも……」
なんか、揺れてるなぁ。
「アリお姉ちゃん、お姉ちゃんが聖女様にならないなら、私が聖女様になりたいっ!」
お、リコットがハッパを掛けにきたね。
それとも、本心かな?
「アリお姉ちゃんは、一度ちゃんと教えて貰ってるんでしょ? 私は、私はなんにも教わってないもん!」
そうなの?
基本位は、出来るんじゃないの? 分かんないけど。
「やだ、シュラン兄ちゃんが付き人になるなら、俺も付き人になる!」
今度はカンタか。
「やだ、やだもん、俺もなるもん! 付き人になるもん!」
顔を真っ赤にして叫ぶカンタ。でっかい声だなぁ。
「カンタ、さすがにお前はまだ無理だ。小さすぎる」
「やだ、やだもん、絶対にやだー!」
あたしの声にも耳を貸さずに、半ば泣き喚くカンタ。
これ、ドウすんの?
シュランの顔を見ると、ただ苦笑いしていた。
ああ、そっか。そういう事か。分かった。
「シュラン。アンタ、イーシュの後押しがあったね?」
げ、バレたのか。
分かるよ、そりゃ。あたしはアンタの師匠だよ。
「付き人は、一度成っても、そのままじゃ無くていいんだって、言われました」
ふふん。アイツめ、余計な事を。
明日のシゴキ相手は、イーシュだな。タァップリと苛めてやろう。
「みんな、静かに」
みーよが杖を床に打ち付けると、すぐに静かになった。
「シュランのことは、シュラン自身が決める事よ。そしてわたしが付き人に誰を選ぶかは、わたしが決める事。いいわね?」
「はい」
「はい、ミヨお姉ちゃん」
「は、はい……」
「う、グスン、は、はい……」
シュランとリコットは、比較的スッキリしてる。
最近、一緒に買い出しに行ってるから、その時にでも、二人で話しているのかもね。
アリとカンタは、まだ収まりがつかないみたいだね。
「シュラン、分かっているとは思うけど、付き人は、聖女が死んだら一緒に死ぬの。でも、付き人が死んでも聖女は死なないわ。だから、命を懸けてわたしを守らなければならない。あなたに、その覚悟は出来ているの?」
「出来てる、いや、出来ています」
真剣な、すごく真剣なシュランの顔。
それを見つめるアリちゃんの、すごく、とてもスゴく悲しそうな顔。
「分かりました。そこに跪きなさい」
シュランが、みーよの言う通り、両ひざをついて跪くと。
みーよも同じように跪き、杖をシュランの頭の上に突き出す。
彼女の祈りと共に、杖の先端が光り出す。
みーよが片手を伸ばし、彼の胸に当てると。
手がそのまま、胸の中に入っていく。
やがて引き抜かれ。
杖の光もすっと消えた。
「付き人シュラン、これから、よろしくね」
「はい、聖女ミヨ様」
みーよが軽く、シュランの頭を抱えて抱き寄せた。
シュランの顔は、みーよの長い髪に隠れて、よく見えなかった。




