16.彼女の出身地の民族衣装なので、お気になさらずに
翌朝、簡単に朝食を済ませて、あたしたちは再び村に向かって歩き出す。
一応、馬車のわだちが残っているので、迷うことはないんだけど、人の気配はまるでしない。
背の高い草原地帯を、少し用心しながら抜けていく。
藪に隠れて襲撃するには、もってこいだからね。
もう少し、視界を広く取れたらいいんだけど。
「依頼された村へは、馬車に乗っていったのよね」
馬車なら高い位置に乗れるから、もう少しマシなんだろうね。
やがて道は小高い丘に向かい、草の背丈も普通の高さに戻っていく。
低地は水が溜まりやすいので、大きな植物が育ちやすいみたいね。
……なんか、いるね。
藪に半分隠れていたまま道を進んでいたあたしたちの全身が出て来たその時を、どうやら待ち伏せしていたみたいね。
「みーよ、伏せて」
丘の上から、矢が次々に飛んでくる。
命中率はそんなに良くない。2本、命中しそうなのをガードグローブで弾いた。
小学生くらいの大きさ。尖った耳。吊り上がった目つきの悪さ。青緑の肌。申し訳程度の腰巻の他は、何も着ていない。
短い弓と矢。全部で10匹位かな?
「小鬼よ」
みーよの顔に、緊張が走る。
そうね。確かに小さいけど、それなりに警戒しなきゃならない相手にしか思えないね。
「みーよ、光の障壁、張れる?」
「大丈夫」
「んじゃ、ちょっと蹴散らしてくるわ」
「ヤツラ、毒や罠を使うから気を付けて」
おっけー
こんな所で待ち伏せて、遠くから弓を打ってきて終わりって事はないよね?
仕留める気で射ってないもんね。
有利な丘の上に陣取って、へっぽこな矢を撃ってくれば。
狙われた方は、丘の下から飛び道具を撃ち合うよりも、怒って蹴散らしに来るだろうとか、考えてるんだろうね。
へえ、あたし相手に、ね。
スリングと石をセット。
お望み通り、前にダッシュ!
草原で罠といえば、落とし穴か、仕掛け網。
怒っているふりをしながら、地面を探る。
ほら、そこの草の形が、なんか変。
急ブレーキと同時に、地面から網が持ち上がった。
ほーらやっぱりね。木を無理やり折り曲げて、バネ仕掛けで絡めとる作戦だったのね?
と、ヤツラ、散り散りに逃げ出し始めた!
追う?
でも、みーよを置いていけない。
くそぉ、逃がしてやるかぁ。
と、みーよが杖を掲げて何か祈っている。
「光の女神アーリューシャイン様、どうぞ邪悪なる小鬼どもに深き眠りを! 睡眠!」
杖が強く光ると、逃げ出し始めたゴブリンたちがバタバタと倒れていく!
「やるじゃん!」
あたしは奴らにドンドンとどめを刺していく。
そのまま寝てていいよ。永久に起きないようにしてあげる。
「わたしのレベルだと、立ち向かってくる相手には半分くらいしか利かないんだけどね」
「逃げ出す相手には、ちゃんと利くのね」
「術が効くかどうかは、相手の気持ちの強さが関係するのよ」
ふーん。
ゴブリンの死骸をまとめながら、みーよの講釈を聞くあたし。
悪鬼の体内にある魔石のうち、ゴブリンは飛びぬけて価値が低いそうで。
捨ておいてもいい位だけど、一応抜いておいた。
弓と矢はゴミ同然らしい。悪さは一人前で、魔石や装備はゴミ同然。
ホント、最低だな、この魔物。
みーよが残らず浄化して、一丁上がり。
「地域住民には感謝されるのよ。放っておくと増えて、手が付けられなくなるから」
なるほどね。儲けには、ならなさそうだけどね。
~ ・ ~
それからの旅は、特に目立った魔物や野生動物に出逢うことは無かった。
半日ほど歩いて、太陽が午後の時間帯に傾きかけ始めた頃、中継地点らしい、木の柵に囲われた村が見えて来た。
みーよたちが中継地として一泊した、という村は、周囲を木の柵で囲われていた。先を尖らせた、高さ2メートル前後、太さ30から50センチ位かな、位の高さの丸太をずらっと並べて守りを固めている。
でも、例のオークとか、でかいオスモーサンタイプがちょっと押したら簡単に壊れそう。
あたしでもイケルかな。しないけど。
んー魔物対策、というより、野獣対策かな。オオカミ除けにはなりそうだね。
ま、無いよりはマシ、程度だね。
一応、門番らしい男が見張りをしている。
「あの、スイマセン!」
みーよが、小走りに駆けていく。
チョコチョコしていて、可愛いね。
門番はちょっと驚いた風だったけど、みーよがちゃんとした法服なので、気を取り直したらしい。
後からノコノコと付いて行くあたしの方をみて、今度はちゃんと驚いてくれた。
べ、べつに驚かしたいわけじゃないんだもんね。
なーにーよーそんな顔しなくていいじゃないさ。ちゃんとシャワー浴びたし、血だらけの制服も着替えたよ?
「聖女様、こちらのお方は?」
門番の言葉は日本語じゃない。英語、でもないな。でも、なぜか理解る。
この世界に来る前、パパが何か言ってた。共通語、コモンとかなんとか。魔法だっけ理屈だっけ、なんか、お互いに話がしたいなーと思えるもの同士だったら、何とかなっちゃうんだよ、とか。
あたしたちの元の世界では翻訳機が普通にあるので、言語の壁というものは存在しない。インカム付ければ全部解決。相手の声がそのまま変換されて聞こえるし、こちらも同じ。
ま、魔法とか理力とか(あ、理力か、パパが言ってたのは。んーなんか違う気がする、忘れた)存在する世界なんだから、その辺は摂理として何とでもなるんだね。
この手の小説では、言語翻訳のスキルを付けといたぞ、とか恩着せがましく付与されるのがお約束だと思うんだけど、元々、そういう理念の(あ、思い出した、理念だ)言語があるなら、聞いたり話したりに困ることなんかないのにね。
……だから、余計な話はイラナイんだってば。ホント炎上するよ?
……誰にイッテンダあたし。
「わたしの付き人です。恰好は……彼女の出身地の民族衣装なので、お気になさらずに」
民族衣装!
ま、間違ってはいないね。そうね、そういう言い方もあるよね。
えー可愛いでしょおかしくないでしょあたしらしいでしょ?
「そ、そうですか……」
ちょっと不審げな門番さん。まさか、この格好だから村に入れないよ、とか言わないでよね。
「依頼のあった村への調査の帰りなのですが、村長さんにも報告したい事が御座います。中に入れて頂けますでしょうか?」
ちょっと偉い人のように、でも物腰は丁寧に、みーよが門番さんに話している。
懐から紐に繋がれた、んー金属かな、素材は分からない、プレートみたいなものを取り出す。
門番も慣れた手つきで、同じようなものを取り出して、かざしている。
カードとカードをタッチするみたいな感じ?
門番は自分のプレートをしばらく見つめ「確認しました。どうぞお通り下さい」と言った。
なに? こんな文明なんかなさそうな村に、そんな高度なセキュリティとか?
分からないまま、みーよに付いて、村の中へ。
地面は土。舗装という概念はなさそうだね。
ぐるっと見渡して、家の数は10、もうちょいありそうかな。
畑や果樹もあちこちに見られる。
鶏も放し飼いなんだろうね。雄鶏が警戒してこっちを睨みつけている中、雌鶏が6羽位いるかな、気にしないで地面をつついている。
何匹か、豚もいるね。こっちを気にも留めないでうろついてる。
小型の犬も2、3匹、ちょこちょこと歩いている。こっちは半分野良かな?
あたしたちを気にしているのは、半分は番犬のつもり、半分は人懐っこさかしらん。
家は土壁で出来ていて、屋根は藁。
オークに襲われた村も、こんな感じだった。
でも、木の囲いがあるだけ、まだ全然マシなんだね。
広さは、直径200メートル位かなぁ。入口は、さっき入ってきた一か所だと思うけど、はっきりとは分かんない。ま、あの程度の柵なので、あたし一人なら、なんかあっても問題なく逃げ出せる。みーよをどうしようかなぁ。
ま、逃げなきゃいいだけの話かな。
屋外で作業している村人も結構いる。みんな、こっちを見ている。よそ人が珍しいのかしらん。
主に、視線は……あ、あたし、か。
「まあ、この世界の人にとっては、学校の制服は珍しいからね」
そうなんだろうね。あたしにとっては普通なんだけどな。
よく、奇異の目で見られるのがイヤで、自分の服を売っぱらってこの世界のものに着替えるとかあるけど、それって自分を曲げてるってことじゃない?
あたしは曲げないもんねー
「大丈夫よ、郁ちゃんはそのままで」
ありがとみーよ! 大好きよ!
でもさ、みーよは、すっかり、この世界の人になっちゃったんだよね。
んー現代に連れ戻さなきゃなんないんだけど、どーしよーかなー
こういうのは、速戦即決ってわけには行かなそうだね。
苦手だけど、様子を見守りましょうか。




