152.「お帰り、お疲れー。爺ちゃんが奥で待ってるよ」
トルモルト教会所属の中年メイドさんに、具合の悪いデンを預けて。
あたしらはマクロン閣下の孫娘さんが経営するという魔法用品店に向かう。
いや、店に用事というより、迷宮出入りの管理者でもあるマクロンに、戦利品や討伐した魔物を買い取って貰いに行くんだよね。
10分も歩かなかったかな。結構近いんだ。
「高級住宅街は、元々それほど広くないんですよ」
「限られた者しか住めぬかなら」
ふーん。でもマムちんはあんなスラム街に住んでるよ?
元はオラクルの大聖女だったんでしょ?
「マム先生は、ガードクリスタルの守護者として、領主様のお館にお住まいだったの」
「今の教会は?」
「布教のために建てたのよ」
ああ、そっか。元から住んではいなかったんだ。
大聖女の地位を失って、残ったのがあの教会ってわけか。
こっち側に住めるって事は、マイアミやダナンもそうだけど、マクロン閣下も結構な有力者なんだよね。
「ちなみにわしもマイアミも、トルモルト教会所属じゃから、あそこに住んでおるだけだぞ」
少し言いにくそうにダナンがいう。どうせ後からバレることらしい。
「まさか、あのエロハゲの所有ってこと?」
「頼むからエロハゲとか言うな。我々の偉大なる聖人様なのだぞ」
困った顔の、心底困った顔の、マイアミ。
でも、知らん。
それはソッチの都合でしょ。
こっちはコッチの都合があるの。
「ちなみにザイモン様は、男爵位の貴族でもあられる」
へーあれが!
貴族って、大したことないんだね。
みーよが、大きくため息をつく。
後でしっかり言い聞かせておきますから。
いや頼む、本当に頼む。
なによ、そのやりとりー
あたしがただの分からずやみたいじゃないのさー
魔法用品店のドアをくぐると、こげ茶の髪をツインテールにした、緑色の瞳がクリクリとよく回る若い女性が出迎えてくれる。
「お帰り、お疲れー。爺ちゃんが奥で待ってるよ」
ちょっと高音の声。ハキハキした、少し早口な話し方。
「いつもの所か?」
「そだよー」
マイアミが頷いて、そのまま店内の奥にある入口に入っていく。
ここってもしかして、前にオラクルの塔から転移してきた入口じゃなかったっけ?
ん?
あの塔に戻るの?
イヤでも違う。階段が下じゃない、上向きだ。
ん?
前は下から昇ってきたよ?
どーなってんの?
上下関係がこんがらかりそうになっているあたしを、誰も気に留めないで。
登り切った階段の先にある扉を、マイアミが開けると。
なんか広い部屋に出た。
前後左右に30メートルはあるかなぁ。
高さも10メートルはあると思う。
床は板張りのフローリングスタイル。
壁は漆喰を塗ってあるね。
窓もないのに、天井自体が光っているらしく、昼のように明るい。
家具とかは一切置いていない、殺風景で広々してるお部屋。
そのど真ん中に、マクロン閣下がいつもの魔法使いスタイルで立ったまま待っていた。
「ご苦労だったな。全部見せてくれ」
「はい、閣下」
「お願いします」
マイアミとみーよが進み出て、それぞれ手や杖をかざす。
各々の信奉する神様に祈ると、手から煙が出てきたり、杖が光ったりした。
いつみても、不思議だしよく分かんないけど。
続々と戦利品が、広い床を埋め始めた。
マイアミは大カマキリと大蜘蛛を。
みーよはコボルトたちが使っていたクロスボウを、全部で45台。コボルトガードの使っていた大剣と山賊刀。あと、魔石を沢山。ゴミと言われてるゴブリンのと、半分ゴミのコボルトのと、こっちは価値がありそうなコボルトガードの魔石。
大蜘蛛の巣から引き出した遺品も、並べていったね。全身鎧、長剣、大盾、小剣。拾った硬貨は、出す意味は無いらしい。
「ほほう、大漁じゃな」
マクロン閣下はまっすぐ伸びるあごひげをシゴキながら、ご機嫌そうに呟いた。
「そういえば、カマキリと大蜘蛛の魔石って、どうすんの?」
あいつらも、魔物なんでしょ?
「ああいうデカイのは、魔石を抜くと、身体が崩れてしまうでな。外側の素材なら大丈夫なんじゃが、マクロン閣下は中身の方もご所望なんじゃ」
ダナンが丁寧に教えてくれた。
ふーん。
「カマキリと大蜘蛛は、それぞれ大金貨2枚。コボルト・ガードの魔石は一頭に付き大金貨1枚。大剣と山賊刀は合わせて大金貨1枚。
クロスボウは一台につき金貨1枚。小さい魔石は全部合わせて、ん-金貨5枚というところかのう。ザコは装備も全部合わせて金貨50枚でどうじゃ?」
ザコは、つまり大金貨5枚ね。
全部合わせて大金貨12枚。1200万円か。
山分けで、ウチらに大金貨6枚、600万円。
ついでにマイアミ達から、3日分3人分の食事、宿泊のお世話で金貨9枚を頂けるのね。
「蜘蛛の巣から出て来た遺品の買取は?」
「それは契約外じゃな。冒険者ギルドに届けると良かろう。運が良ければ遺族からお礼が出そうじゃな」
「みんな、異論はあるか?」
マイアミがあたしとダナンに呼び掛ける。
ん-相場が分かんないけど、儲けとしては十分すぎると思うよ?
「わしはそれでいい」
「んじゃあたしも」
みーよにも異論はないらしい。
「決まりじゃな。金は店で受け取っていってくれ。吾輩はコイツラを処理せんとな」
なんかウキウキした感じで、マクロン閣下が手を振ってくれる。
あたしたちも礼を言って、部屋を出た。




