149.男どもに様付けするのって、どうもムズムズするのよね
「第13階層、じゃな」
入った瞬間、ダナンがそうつぶやく。
通路の造りが、かなりきちんとしている。
大蜘蛛のいた処は、単に岩をくりぬいただけって感じだったけど、こっちは角張っていて、床には石畳が敷き詰められている。
「こういう管理が行き届いているフロアは、転移陣が設置されている場合が多いんですよ」
マイアミも周囲を観察しながら、そんなことを言い出した。
「階層主も、いるかもしれません。気を抜かないでください」
いや、抜いてないよ?
ま、余計な事は言わないで置くけど。
デンが周囲を警戒しながら50メートルほど進み、合図を送る。
一直線の通路は、あたしたちがデンに追いついたところで終わっており、十字路になっていた。どの道も一直線だ。
みーよの灯が、少し奥まで照らしている。
マイアミが羊皮紙に何か書き込みながら、右を指示する。
迷宮の構造から、中心部はそっちの方だと見当をつけているらしい。
そんなこと、わかるんだねぇ。
しばらく進むと、また十字路。
「ここも、右に行ってみましょう」
言われた通りに進んでみると、やがて道が少し下り始めた。
途中で階段になり、30段位降り終えると、また平らになった。
「第14階層、じゃな」
何で分かるんだろうね?
「他の通路も気にはなりますが、恐らく何らかの罠が仕掛けてあるのでしょうね」
何気にいうけど、マップを見ただけで構造とか通路とか、分かっちゃうマイアミも凄いんだね。
「ここからが本番ですね。第13階層で迷わせている間に、防衛の準備をしているはずですよ」
誰が?
なんて聞かない。
誰でもいいよ。何が来ても、こじ開けるだけだし。
「通路が整えられているので、恐らくコボルトの奴隷兵がいるのでしょう。そして、彼らを使役している者たちも」
「オーク?」
「判りませんが」
と話している間に、奥の方が騒々しくなってきた。
「出番じゃな」
ダナンが前に立つ。
「ミヨ殿、光の障壁を」
「はい」
この通路で迎え撃つのね?
「デンは下がって。イクミ、合図したら飛び出して下さい」
マイアミもダナンと肩を並べる。
「武神トルモルト様、御身に仕える僕の武勇を、どうぞご照覧下さい」
両手をあげて宣言すると、両手から黒い煙が出てきて、長弓の形になった。
そのままダナンに手渡す。
丸盾を背中から取り出し、裏側に手を入れて、抜き出すと。
ごっそりと矢が出て来た。
え?
その中に入ってるの??
ダナンが床に何かを置き、貰った矢を突き立てる。
マイアミは丸盾で、ダナンを守るらしい。
そのまま弓に矢をつがえ、放った!
まだ結構距離はあるけど、犬の鳴き声というか、悲鳴が聞こえた。
ダナンは気にせず、第2、第3射と矢を放って行く。
向こうから、クロスボウを構えた犬の顔をした小鬼たち、コボルトが走り寄ってくる。
途中で止まり、弓を構えるが、ダナンが片っ端から射抜いていく。
反撃の矢が飛び始めたけど、マイアミが丸盾で防いでくれた。
みーよの光の障壁の中で、あたしたちは戦況を見守る。スリングの石は補充してあるけど、こんな弓矢の撃ち合いに参加するためのものじゃないからね。
10匹位仕留めた処で、コボルトたちが引き気味になる。
「イクミ、いけ……」
当然!
いけ、まで聞いて、即ダッシュした。
あたしの走る音に恐怖でもしたのか、振り返ったコボルトの首を半分斬り落とす。
振り向かない。次の獲物がすぐ目の前。
右脇に刃を入れ、すぐ抜いて次を探す。
3匹固まっている。こっちをみて何か言おうとしたけど、言わせない。
クロスボウを抱えたままで逃げるのは無理よ。逃げるなら捨てなさいよ。
立て続けに3匹とも屠って、そのスキにバラバラに逃げるコボルトを見定める。
これとこれはイケル。あれは追い付かない。でも、逃がさない。
ナイフ収納。スリング準備。石セット。射出!
後頭部に命中。そこに倒れてなさいね。後で止め刺すから。
もう一個セット。一番遠いのはさすがに当たらない。次のは大丈夫。射出!
逃げきれないと悟った周囲の4匹が、クロスボウを捨てて短剣を引き抜く。
そうそう。敵わぬまでも、抵抗しなさいな!
スリング収納。アギト・ナイフ、出番だよ!
短剣を突き出してきたコボルトの腕自体を、下から上に薙ぎ払う!
盛大に出血するのを無視して、右にいたヤツに襲い掛かった。
ひるんでいる隙に首をかき斬り、振り向きざまにもう一匹の心臓を刃で止める。
もう一匹は短剣を捨てて命乞いを始めたけど、容赦なんかしない。
スリングで気絶させた2匹も止めを刺して。
腕を斬り落とした奴は、そのまま息絶えていたが、確認のため、首筋にナイフを突き立てておいた。
手傷を負わせたまま置いて来たコボルトは、ダナンとマイアミがそれぞれ止めを刺したらしい。
「一匹逃がしちゃったね」
「上出来だろう」
「後ろから見ていて、恐ろしいというか、頼もしいというか」
どっちなのよ?
どっちも、か。
「コボルトの死骸の処理は後回しです。来ますね」
デカいのが二匹、怒りに身を震わせながらこっちに走ってくる。
「コボルト・ガードです。オーク・コマンダーと同じレベルです」
マイアミが早口で説明する。
「ダナン、一体任せていい? 時間稼ぎでいいから」
「一対一なら、負けん!」
ホントかなぁ?
まあいいや。
「マイアミ、デン、みーよをよろしく!」
みーよが光の障壁を張り直したのをチラッとみて確認する。
デンは、もう本調子じゃないね。当てにはしない。
マイアミも、出る幕じゃないね。そこにいてね。
スリングを構え、左の2メートル越えの狼頭に向けて放つ!
お、デカい山賊刀? みたいなので弾かれた。
まっすぐなのに、先端が湾曲してる、変な刀だなぁ。
重そうな武装だけど、器用に使いこなすんだね。
「ダナン、左貰うね」
あたしもダッシュ!
なんか後ろでギャアギャア言ってるけど、知らん。
共通語じゃないから、分かんないし。
狼頭がいきなり山賊刀で斬りつけてくる。
半身回してかわすけど、そのままデカい図体で体当たりか。
石を持った手にスリングを預け、アギト・ナイフを抜いてカウンターで脇腹に突き刺した。
けど、剛毛に阻まれて刃が上手く通らない。
「グルルゥウ!」
闘志全開だね。鼻息荒く、こっちを振りむく。
向こうでも、ダナンとコボルト・ガードが闘い始めている。お互い、真正面からぶつかり合っているみたいで、戦斧と大剣の撃ち合う音が響く。
あたしのお相手も、そっちが気になるみたいだけど。
なによ、あたしじゃ物足りないとでも?
スリングに手持ちの石二つを無理に押し込んで、ぶんぶん回す。
警戒したその顔に、スリングを掴んだまま叩きつけてやる!
間合いが急に広がったんで、かわせずに鼻っ柱近くに撃ち付けたけど、ひるむ様子がない。硬ったいなぁ。鼻先のホントに先端じゃないと効果無しか。
お返しとばかりに山賊刀を振り回し、前蹴りもオマケに飛んできたけど、さすがに見え見え。後ろに軽く飛んでかわす。
くるっと後ろを振り返り、背中を見せると、かすかな戸惑いを感じる。
だよね。これは、こうすんのよ!
振り返りざま、スリングの石二発をそのままぶっ放つ!
当たんなくていい、タダの牽制だし。
スリングは捨てて、アギト・ナイフを両手で握る。
ヤツの腹目がけて、ドスのように突き刺そうとする。
さすがにこっちのモーションが見え見えなので、ヤツは山賊刀で迎え撃ちに来たけど。
これ全部フェイント。
刀をかわして、振り下ろしきった腕を、両手持ちの渾身の力で斬り落としてやった。
「グアアァア!」
ガランという音と共に、山賊刀が地面に落ちる。
腕から噴き出し、床に広がるヤツの赤い血。
こんなもんじゃ、まだ死なないんでしょ?
もちろん、放っとくと危ないんで、止めは刺さないとね。
落ちた山賊刀を掴んでみると、造りは悪くないけど、あたしには扱いにくそう。
まあ、いいや。
アギト・ナイフを収納し、山賊刀を両手で握って大上段に振りかぶる。
あたしという死を見つめる、コボルト・ガード。
次の瞬間、ヤツの首は、胴体とサヨナラした。
この、湾曲している部分が、切れ味鋭いらしいね。
で、ダナンは?
おお、倒してるんじゃん。
「そっちも、終わったか」
「まあね。アンタも結構ヤルじゃん。ボロボロだけど」
「ば、ばかいえ! わしにとっては楽勝じゃわい!」
なんでもいいよ。倒してさえくれれば。
捨てたスリングを拾い直して、一応、周囲を探る。
気配、無し。血の匂いが濃厚だね。
デンが早速、コボルトどもの魔石を回収し始めている。
結構ヤラレて調子悪いんだから、おとなしくしてればいいのに。
「怪我は?」
「多分大丈夫」
みーよに手渡されたスポドリを飲みながら、身体の点検をされちゃう。
「ダナンの方が酷いんじゃないの?」
あれとまともに殴り合いとか、正気じゃないわ。
「マイアミ様が見て下さるわ。ダナン様は、ああやって身体を張ってわたしたちを守って下さってるのよ」
まあ、狭い通路だからね。
全身鎧でデカい戦斧を担がれたら、かわすスペースがないね。
お互い、倒すしかないか。
ま、あたしはすり抜けられるけどね。
にしても、男どもに様付けするのって、どうもムズムズするのよね。
ちゃんと強かったり尊敬できるところがあれば、それはそれでいいんだけどね。
どうも、あたしの性には合わないわ。
まあ、そういうことをしなやかに出来ちゃうのが、みーよのいい所なんでしょうけどね。
「ホントに大丈夫そうね」
「でしょ。魔石の回収、手伝ってくるわ」
あたしは、デンの手伝いに向かった。




