145.別にアンタが出したわけじゃないでしょうが
マイアミが祈ると、大蜘蛛は黒い煙と化して、その掌に吸い込まれて行った。結構、相当、かなり、大きかったんだけどね。
「デン、コイツの巣は分かるか?」
デンが頷き、こっち、と合図する。
「このデカさじゃ。相当貯め込んどるんだろうな」
貯めこむ?
「ええ。蜘蛛ですから、捕えた獲物を巣に引きずり込んで、蓄えておくんですよ。遺骸は毒で溶かされますが、溶けない遺品はそのまま残りますよね」
なんかコワイこと言われた気がするけど。
「生存者の可能性は?」
マイアミは少し考えた。
「今の所、この迷宮は我々が独占契約を結んでいます。ある程度探索を終えたら、マクロン閣下は冒険者ギルドに権利を売り渡して、一般の冒険者にも門戸を開放するおつもりのようです」
そうなんだ。よく分かんないけど。
「ああ、我々の入った入口に関して、という意味ですよ。他にも入口があるのかもしれませんので、そこから他の冒険者が入ることは否定できませんね」
ん-オラクルの冒険者で、ここに入れるのはマイアミたちだけ、って事?
「なんで、そんなめんどくさいことを?」
「この迷宮は比較的最近見つかったばかりなので、危険度を探ったりマッピングを済ませておいたりと、やることが結構あるんですよ。我々が行き詰まったら、そこから先は上級ライセンス持ちしか入れないようにするとか、閣下も色々と考えておられるようです」
ふーん。頭のいい人たちの話は、よく分かんないね。
ま、生存者はいそうにはない、というのは分かったよ。
デンの後をついて行くと、やや奥まった通路が広くなり、行き止まりになっていた。
はっきり目に見える糸が天井から幾重にも広がり、中央に空洞を作り出している。確かに、移動型の蜘蛛の巣だね。
「変に糸を切り裂くより、そのまま中に入った方が良いでしょう。蜘蛛の卵があるかもしれないので、それだけは気を付けてください」
卵。うへぇ、気持ち悪いな。
「みーよは外で待ってて。ダナン、護衛と見張り宜しく」
「うむ」
こういうのは身軽な人が入るもんだね。
マイアミが微妙だけど、来るのね?
「大きいものは、そのままトルモルト様に奉納しますので」
そうしてくれると楽だわ。
デン、マイアミと一緒に巣の中に入ると、天井から何個か糸でくるまれた繭を見つけた。
床にも、何かの遺品らしいものが転がってるね。
「持てそうなものは、一旦外に出すよ」
「はい。デン、吊るされた繭の糸を切って下さい」
デンが頷き、あたしに指示を出す。
繭を抱えると、身軽なデンが糸を切ってくれる。
抱えたまま外に出す。
そんな作業を5回、繰り返した。
「ダナン、捌けそう?」
「こっちは任せて貰ってよいぞ」
「マイアミさま。ここにキャンプ地を設置しますか?」
「そうですね。暫くかかりそうですし、休みながらやりましょうか」
主のいない蜘蛛の巣の前でキャンプか。
まあ、迷宮探索らしくていいか。
天井の処理が終わり、床のゴミのうち、使えそうなものを選別して外に運び出す。
「力のある人がいると、はかどりますね」
一緒に作業するマイアミに褒められた。
デンは細かい所に気づいてくれるし、自分で持てそうにないものを指示してくれる。
そうだね、アンタ力がないから、そういう役回りがイイね。
ざっと片づけて、巣の外に出た。
蜘蛛の卵なんて気持ち悪いものが無くて、良かったよ。
「一旦、休憩しませんか?」
みーよがコーヒーとお菓子を用意してくれていた。
「ありがたいわい」
「そうしましょうか」
折り畳みチェアに、男衆二人がどっかりと腰を下ろす。
あたしも濡れたタオルを貰い、顔を拭いた。
「なんじゃこの手ぬぐい。目が細かいのう」
同じくタオルを貰ったダナンが驚いている。
「シャワールームには、大きいタオルも用意してありますよ?」
「うむう、こんな所で全部脱ぐのは、のう」
気恥ずかしいの?
あたしは全然気にしないけどね。
でも、昨日、鎧は脱いでたでしょ?
ま、時間の問題だね。
「清めの部屋といい、この黒い飲み物といい。迷宮に潜っておる感覚が鈍りそうじゃわい」
コーヒーを、実に旨そうに飲むダナン。愚痴ってはいるけど、満足そうな顔だね。
「ええ。一日金貨1枚でも、惜しくないでしょう?」
ご満悦なマイアミの顔。
別にアンタが出したわけじゃないでしょうが。
ダナンは、なんか口惜しそうな顔をしてはいるが、コーヒーの美味しさには勝てそうもないらしい。
そもそも、こんなコーヒー飲んだ位で鈍るような感覚なら、最初からそんなもん、無いようなものよ?
それはともかく。
「みーよ、コーヒーメーカーセットって、ウチらの教会に常備できないかな?」
マムちんにお酒を常備で出せるなら、コーヒーも子供たちにも飲ませてあげたいな。
「帰ったら、アーリューシャイン様に伺ってみるよ。わたしと郁ちゃんのレベル次第になるとは思う。まだ常設は解除してないけどね」
パーマメント? アンロック?
みーよにとっての、こっちの話らしい。首を振られた。
多分、マムちんのお酒コーナーを常設したので、コーヒーメーカーセットは後回しってことかな?
ま、その辺はホント、あたしにはさっぱり分かんないしね。
「お前らの教会に行けば、これが毎回飲めるということか?」
ダナン、アンタ、ウチらの教会に用なんか無いでしょ。
そもそも、マイアミが入り浸るのでさえ、うんざりしてるのに。
そうか、コーヒーメーカーセットなんか常設したら、さらに入り浸りが増えるのか。
ん-考え物だねぇ。




