142.ダナンとどめぇ!
第10層。
「ここで詰まってるのね?」
転移陣を出て、周囲の様子を伺う。
みーよの杖から放たれる光に照らされて、かなり広い空間の奥まで見えるんだけど。
それでも、気配を伺う。
空気の流れ、淀み、臭い。
つまり生き物の気配、だね。
「ある程度まで、マッピングはしている」
マイアミが見せてくれた羊皮紙の地図、結構、細かく探査されているのが分かる。
「第九層までは、順当に稼ぎながら潜れたんじゃがな」
「ええ。ここからが急に手ごわくなりましたね」
「前の階層に戻るのは?」
「無理じゃな。一度、十層の資格を得ると、戻れなくなる仕様のようじゃ」
ダナンが、髯をシゴキながらそう言う。
ふぅん。それって、もうワナだよね?
深くに潜らせて、戻れなくなった所で美味しく頂く。
できれば、客も連れてきて欲しい。
多めだと困る。お一人につき、もう一人、とかね。
ダンジョンマスターっていう位なんだから、人間的なモンが運営してるんでしょ?
そういうワナを仕掛けて、彷徨ってきた冒険者を捕獲しようとしてるのは、充分に考えられるよね。
でも、だから帰ろう、逃げようとは、ならないよね?
そのために、あたしらを誘ってきたんでしょ?
「みーよは、一回ここに来てるのね?」
「わたしの時は、第7層だったの。いきなり大蜘蛛に襲われて、がんじがらめにされて、あれはもう、ダメだと思ったわ……」
「まあ、そういうこともあるわい。わしが蜘蛛を仕留めて、繭を切り裂いたら、中でションベン漏らして気絶しておってな」
あっはっは、じゃないわよ。そりゃ誰だってトラウマになるわ。
「その後、どっちが担いで帰るか、コイントスしましたね」
「おかげでしばらく、わしの鎧が臭ってなぁ」
何で楽しそうなのよ。ホント、男ってデリカシーないんだからぁ!
みーよが照れてるじゃないのさ。
くそぉ、ションボリなクセにぃ。
「それはともかく、マッピングはしてるんじゃが、下への入り口がまだ見つかっておらん。探索を続けたいんじゃが、かまわんか?」
お、話が戻ってきた。
「休憩にしますか? もう少し進みますか?」
みーよも、冷静さを取り戻したね。
「もう少し探索してから、ここに戻ってきたい。拠点の準備は?」
「すぐ出来ます。わたしが拠点を離れると、消えてしまいますけど」
「承知した。では、まだ行っていない方角に、進んでみよう」
デンが、慎重に先を進む。50メートル位、まだほのかに見える辺りまで行って、立ち止まってあたしたちを見る。
ここまでは、とりあえず安全、という意味らしい。
そして、追いつくと、再びあたしたちを置いてゆっくり歩きだしている。
うん、これは時間が掛かるわ。
「トラップもありそうですし、万全を期しているんですよ」
「うん、そうだね……」
ん、今、何かに見られたね。
「マイアミ、何か来る」
「え?」
「みーよ」
「はい」
みーよが光の障壁を祈り求める。
ダナンがデンに合図を送る。
すぐ、デンが戻ってきた。そのまま光の障壁の中に入る。
来てる。もう近い。でも姿が見えない。
「みーよ、灯」
「はい!」
光の球が、一段と強く輝く!
強い光で、迷宮の壁に寄せた保護色が、役に立たなくなったらしい。
壁の色にそっくりだったんだけど、今はハッキリ照らし出されている。
大きな、ホントに大きなカマキリだ。
体長、約10メートル。頭は天井にくっつきそう。
長い鎌が二対。360度回る頭。なんでもかみ砕けそうな口元の牙。
昆虫動画で観た。
ついでに、武術動画でも観た。蟷螂拳とか言ってた。
「ダナン、いける?」
「ヤバイかもしれんな」
とか言いながら、戦斧をしっかりと構える。
「鎌に挟まれると、そのまま口元に持っていかれて喰われるね。アンタの鎧、どこまで持つの?」
「挟まれてそのまま切られることは無いとは思うんじゃが。あの顎の牙は、持たんかもしれん」
うわぁ、こっちを品定めしてるよ。誰から喰おうかな、だねぇ。
「んじゃ、弱らせるから、とどめをお願い。マイアミ、多分、光の障壁は長く持たない。身体を張ってみーよを守って」
「承知した」
アンタの承知は当てになんないけど。時間稼ぎ位はしてよね。
「デン」
「任せろ」
出来る子デンには、余計な事は言わなくていい。助かる。
「出るわ」
スリングに石を仕込み、手には3つの石。
みーよが、光の祝福を掛けてくれる。
手足が白く光り、力を感じる。
あたしは多分初めての、オーク以外のデカイ魔物に挑む。
髪がぶわっと逆立ち、筋肉がはちきれんばかりに膨らむ。
「せやぁ!」
光の障壁を飛び出し、そのままスリングをカマキリの左目に向けて撃ちこむ!
軽く後ろに、振動するようにして下がるカマキリ。動きが速い!
足装備、ロケットブースターをイメージ。左脚のブースト点火! 右も!
そのまま、一気に斬り込む!
スリングに石セット、射出!
鎌を目元にあげて防がれた。
もう一発セット、射出!
こっちも鎌で防がれた。けど、その陰に隠れて再ダッシュ!
狙いはお前の細い首。切り裂いてやる!
あ、鎌の隙間からこっちを見てる。
来る!
「フィールドパンチ・ディフェンシブモード全開!」
両腕を顔の前に立てて、力場を防御モードで放出!
大カマキリの鎌が、回避不能な速度であたしを襲ってきた。
ぐわっ、力場ごと挟まれる!
バチバチと音を立ててるけど、これ、持たないかも!
スリングと石を捨てて、アギト・ナイフを抜く。
急所の関節目がけ、斬りつける!
か、固いっ、でも、もう一撃!
あ、力場がもう持たない、挟まれる!
と、カマキリがぐらついた。挟まれる圧力も、急に無くなる。
デンが、ヤツの足元に斬りつけたんだ。
「ナイスぅ!」
防御力場がまだ残っているうちに、挟まれた鎌の部分から這いずるようにして、ぬけだした。
そのままカマキリの腕にしがみつき、頭部を目指す。
うわ、コッチ見てる見てる!
逆側の鎌を構えている。来る!
クソぅ倒れそうで、倒れてくれない。デン、まだ?!
右手のフィールドパンチは、まだ残量があるね。左が限界か。
ま、一発撃てれば充分。
喰らえ、オフェンシブ・モード!
あたしの腕から放たれる力場が、今にも襲い掛かろうとしてきたヤツの鎌に直撃した。
のけぞるように弾かれて、カマキリが戸惑う。
そのスキに、あたしはヤツの頭へ。
鋭い口元の牙で噛みつこうとしてきたけど、これはただ良く回るだけで、可変域はそんなに広くない。
カチカチとあたしの頭の付近で音がするけど、全部かわす。
しがみつきながらなんで足場が不安定だけど、飛び降りても大丈夫なまでには、頭が下がっている。
イケる。
「そらぁ!」
身を投げ出すように、アギト・ナイフをヤツの首に引っ掛けて。
体重を掛けて、ぶら下がるようにして地面へ飛び降りた。
手ごたえあり。
切り落とせなかったけど、半分はかき切った。
カマキリが、よろめく。
「ダナンとどめぇ!」
「おう!」
大上段に振りかぶった戦斧が、カマキリの頭部を真っ二つに叩き斬った。




