14.アヤシいジュースにご用心
「どうする? まだ先は長いんでしょ? 今夜はここで泊まる?」
「そうだね。でも、その恰好をなんとかする方が先だね」
みーよは、てきぱきとシャワールームを杖で召喚び出し始めている。
集中が必要なので、こういう時は話しかけない方がいい。
でも、一生懸命になにか作業している人をみると、ついつい茶々を入れたくなるのは、あたしの悪い癖だなぁ。
そこを何とか我慢して、替えの制服と、ついでに下着まで用意してもらって(ヒョウ柄のブラとショーツだった。あたしの好みだった)シャワー直行―
うわあ、戦闘と解体で、確かにスゴいことになってるわ。
ガッコの制服で押し通すって、大変なんだね。
でも、曲げないもんね。
それにしても、魔法でこう、パパっとキレイになりましたーみたいなもん、ないのかねぇ?
いやでもねー、そこまで楽をしちゃうと、人としての大切な何かを失ってしまうような気もするのよね。
自分で自分をキレイにするって、自分で自分を大切にすることだと思うんだよね。人里を離れた処で旅をしているんだけど、だからこそこういう時に自分を大切にできるかどうかって、価値観が問われていると思うんだけどね。
ま、あんまり難しい話は、みーよに任せるわ。彼女は、そういう価値観を大切にしているんだから、みーよのしもべであるあたしは、仰せのままにするだけだね。
それに、シャワーとても気持ちいいし!
きれいさっぱりして、鼻歌唄いながらシャワールームを出ると。
アウトドアテーブル、椅子、そして冷たい飲み物がご用意されてました!
「ど、どうしたの?」
「ん-光の女神さまが、サービス、だって」
程よい大きさのブリキのバケツに、大きな氷がごろごろ入っていて、その中に500ml位かな、ガラス瓶に入ったレモン色とメロン色の瓶が1本づつ入っている。
「ポーション。結構上級。この世界では、ガラス瓶はかなり珍しいの」
「へえ……」
「下級ポーションは、それはもうひどい味。これは、結構おいしいと思う」
「みーよは、見たことあるの?」
「ううん、初めて。オラクルの街では、下級ポーションしか扱っていないと思う。こういうポーションを作れる人って、とてもレベルが高い人だし、自分専用の工房が必要だから」
ん-そんなに貴重なものなら、売れば?
「あ、今ここで飲んでくださいって」
ん-なんかアヤシーなー毒でも入ってるとか?
「あやしくないですほんの気持ちなんですほんとうです、だって」
そんな風に言われると、ますますあやしーんですけど。
ってか、みーよにあたしの心を読まれてますよネ?
「美代子ではなく、わたくしが信徒であるあなたのこころを読み取っているのです、だって」
光の女神様が?
なんで?
「なんでといわれても、あの、その、んー女神様スイマセンよく聞き取れません。……はい、はい、感謝、感謝なのです、だって」
感謝? あたし、なんかしたっけ?
「オオカミの奉納へのお礼、だって。でも、ポーションを売られるのは困るのだとか」
あーオオカミね。まあ、解体、頑張ったもんね。
でも、あげたんじゃないよ?
預かって貰ってるだけだよ?
いや、女神様がオオカミのお肉が大好物だっていうなら、譲ってあげないこともないよ?
「……人間って、ホント難しい、だって。いえ、郁ちゃんがちょっとヘンな娘なだけですから、ね?」
みーよ、どさくさに紛れてあたしの悪口言ってない?
「言ってない言ってない」
なんだかなー
「ま、いいや。頂けるものは頂きます。みーよはどっちがいい?」
2本あるってことは、あたし“たち”へのご褒美なんでしょ?
あたし、みーよがいないとなんにもできないし。だから二人分ってことでいいんだよね。
「郁ちゃんが選んでよ。わたし、なんにもしてないし」
いや、してるよ。たくさんしてる。とても感謝してるよ。
でも、こういうのってお互い譲り合って、いつまでも決まらないんだよね。
速戦即決派のあたしは、じゃあ、とメロン色を選んだ。
コルク栓なんだ。あたしは指で引っ張り上げたけど、みーよは……開けられないよね? 開けてあげる。
「すごい力だね」
「たいしたことないよ?」
現代でも、コルク栓は中々見ないね。多分、温めた中身にコルクで蓋をして、中身が冷えると気圧の関係でコルクが中に引き込まれて密閉されるんだと思うんだけど。
なんか、そんなワイン厨房の動画を観た気がする。
ん? 確か、コルク抜きみたいな道具、無かったっけ?
冷やしてあるのに、コルクを抜く道具が、ないね。
女神様、感謝の割には、結構な抜け作だね。
「あーもーあんまり女神さまの悪口言わないでっ! わたしのあたまに金切り声が響くんですけど!」
あぁ、みーよはそうなんだよね。声が聞こえて召喚されたんだったね。高感度の適応者なんだったね。
ん-それって、あたしのせいかな?
女神様本人が、おまぬけなだけじゃないの?
「もーやめてー!」
……ゴメン、みーよには関係ない話だったね。
でもさー女神様、だったらあたしの心を読むのを止めてくれる?
聞かなくていい話は、聞かない方が精神衛生上、安定するよ?
メロン色のポーションは、普通にメロンの味がした。
レモン色の方は、みーよが酸っぱそうな顔をしているので(不味くは無いらしいけど)、そういう味なんだろうね。
冷えてて美味しかったし、なんか、力が漲って、行動が早くなる気がした。でも、気のせいかもしんないけど。
みーよ曰く「ヘイストポーション」らしい。
ちなみにレモン色のポーションは「ブレインポーション」で、知力が高まるらしい。
普通に美味しいジュースをどうぞ、わーいありがとー頂きまーすでいいと思うんだけど、あんまり言うと女神さまがヒステリーを起こしそうなので心の中で留めておく。ま、心を読まれるのであんまり意味ないかもしんないけど。
アヤシいジュースにご用心、としか思ってなかったけど。
「ホントに貴重なポーションなのよ? 郁ちゃんの武勇に対する女神さまのお気持ちなんだから、あんまり失礼な事言わないでね」
……はい、気を付けます。善処します。前向きに検討します。
……自信、ないけど。




