13.そういう所よ、アンタの命が終わる理由は
だいぶ強行軍で歩いたんで、午後もだいぶ過ぎたころ、中継地点の村が、見えてきそうな距離になってきた。
うん、囲まれてるね。すごく、遠巻きに。
もうチョイ歩いたら、街に近づき過ぎちゃうもんね。
襲撃するタイミングは、今だと判断したわけね。
どうも、連中はあたしたちを獲物として諦めることを止めたらしい。
「みーよ、自分への光の障壁はどれ位持つの?」
「えと、わたしの意識が続く限りは、持つよ。でも、障壁を攻撃され続けると、意識が飛びそうになるの」
「じゃあ、攻撃されない限りは、大丈夫なんだね?」
「ま、まあね」
そんなに自信はなさそうなみーよ。どれくらいの衝撃で意識が飛びそうになるのかは、何とも言えない。
まあ、攻撃手段を持たない聖女様だからこそ、身を守る光の障壁にはそれなりの耐久性を期待したいけどね。
ま、何匹か見せしめにすれば、コイツはヤバイと思ってくれるでしょ。
後ろから、3匹ほどの狼が走り寄ってきた。
ちょっとした大型犬サイズ。体高70から80cm、体長も同じ位かな。色は灰色、黒、濃い茶色。栄養状態は余り良くなさそう。毛並みが悪いからね。
あたしたちも足を止めて、迎え撃つ姿勢を取る。
前方には4匹が姿を現す。計7匹か、まあ、そんなもんかもね。
後ろから来たのと、前で待ち構えているのがリーダーとサブリーダーかな?
配下はその子供たちでしょーかね。若干、若そうな気がする。
後ろ組の左側のが一番若い。右は少し年上。
前からのは、それなりに成熟してるように見える。
ヤルなら後ろのからだね。家族を離れ離れにするのは心が痛い……
いや、別に何でもないや。憐みとか可哀想とか、あんまり思わないかな。
だって、オオカミだしね。放っといたら、色々とヤラカスんでしょ?
じゃあ、人間の恐ろしさを身体で分からせてあげた方がいいね。
ついでに、魔物じゃないんで、お肉が手に入るね。いいね。
「コイツらって、食べれるんだよね?」
「うん。生とか焼くのは美味しくないんで無理だけど、干し肉にできるよ。肉は市場に出回らないんで、割と人気がある。後、毛皮は高く買い取って貰えるよ」
そりゃいいね。
なんて思っている間に、すっかり周囲を囲まれた。連中、あたしたちを何が何でも逃がさないつもりらしい。
ま、人間の足じゃ到底逃げきれない逃げきれるわけもない。
たまーにこの手の奴らから走って逃げようとする動画や漫画や小説があるけど、無い無い絶対にありえない馬鹿じゃないの?とあたしは思う。
あ、個人の感想ね炎上とか止めてよね。
……誰に言ってんだろあたし。
みーよが、両ひざを地面について、前かがみで杖を伸ばし、何事か囁くと。
杖の先端が光り、あたしたちの周囲、直径2メートルほどを明るく照らす。
少しひるむオオカミたち。でも、引き下がったりはしない。
「あたしのいない側で、少し襲われるかもだけど、ちょっとだけ耐えてね」
「うん」
信頼のこもった瞳を確認してから、あたしは光の障壁の範囲から出る。
ややひるむオオカミたち。
街の方を固めていた4匹のうち、応援が2匹来る。残りは逃がさない要員ね。
とりあえず5匹を相手にして、後の2匹は気にだけ掛けときましょーかね。
囲まれちゃったよ、怖いよぉー、なんて、ね。
アホくさ。
あたしは、んなもん気にもしないそぶりで、中央のリーダー格にずんずんと近づく。
大きく唸り声をあげるリーダーオオカミ。
気にもしないで掴みかかろうかな、と足を寄せるあたし。
あと2歩であたしの間合い。
リーダーが襲い掛かるそぶりを見せて、すぐに下がる。
イヌ科って、そういうのスキだよね。
で、引くと同時に他の方面のオオカミが襲い掛かろうとするんだよね。
そっちに対応しようとすると、他の方面から……
そうやって獲物の神経と心を削っていくんだよね。
ま、削られるのはあんたたちだけどね。
最初から目を付けていた左側の一番若いヤツ。
ゆっくり歩くあたしの挙動に合わせて、襲い掛かるそぶりをみせたタイミングで。
あたしは左に大きく踏み込む。
慌てて下がろうとする若いオオカミ。
遅い。左腕をさらに伸ばして、ソイツの鼻っ柱に裏拳を上から叩き込んだ。
「キャイン!」
ひるんだ隙に、さらに踏み込む。
完全にあたしの間合いだ。
走りっこ追いかけっこ逃げる事に関しては、あんたら四つ足には、人間は敵わない。
でもね、こういう接近戦なら、二本の腕があるこっちの領域なんだよね。
だってアンタら、牙のすぐ上に弱点の鼻があるじゃん。しかも殴ってくださいとばかりに、顔ごと伸びてるし。
ついでにそっちから突っ込んできたそのタイミングで殴れば、下がる足に関しては、こっちの追い足の方が速いんだよね。
脅そう脅そうと繰り返し近づいて遠ざかるなんてやってるから、タイミングも取りやすいし。
アンタが一番弱い、経験がない、みんなといるからって舐めて掛かっている。
そういう所よ、アンタの命が終わる理由は。
前足に軽くタックル。前足ゲット。嫌がって噛みつこうとする間を与えず、真後ろに振り回す。
はい助けに来たオオカミとドンピシャ!
「キャワワン!」
泣け泣け、もっと泣けぇ!
掴んだオオカミの前足がどうなろうと知ったことじゃない。いまのアンタはあたしの武装でしかないのよ。
でもギャアギャア喚くのがウルサイので、一旦地面に叩きつけた。
おとなしくなった。
左端で、衝突のはずみでもんどりうっているオオカミに近寄る。
グルルとか呻いている頭を、思い切り踏みつけてやった。
まだなんか呻いているので、首の辺りをへし折るように踏みつけたら、おとなしくなった。
掴んでいるオオカミも、なんかぐったりしてるので、群れの中に放り込んでやったら、群れは一斉に散らばっていった。
「まだヤル?」
どうせ通じないんだろうな、と思いつつ声を掛けると。
復讐の炎にでも火がついたのか、あたしを半包囲して戦意を示す。
街方面を固めていた残り2匹も、こっちの加勢に駆け付けて来た。
2匹倒して、2匹追加で、残り5匹。
でも、サブリーダーと配下の2匹はやる気だけど、あたしの目の前で子供らしいのを2匹潰されたリーダーともう1匹は、あんまり気乗りしないようね。
というか、お前ら尻尾が引っ込んでるぞ。イヌ科は感情がモロに出ていてイイね。
そういえばあたし、ギルティに「おまえ、でっかい犬みたいだな」とか言われちゃったしー
んー愛よね、愛!
……いや、犬の尻尾と同じで、感情が読みやすいって意味かも、しんない。
みーよに「郁ちゃんチョロイと思われてるんだよ、それ」とか言われちゃったしなー
なんて、イランこと考えてると。
グルゥガルゥとか喚くわりに。
囲いが段々広がっていく。
あーそうか、逃げの算段か。
で、背後を襲われないように脅してんのか。
まーそれならそれでいーけど。
全滅は無理でも、もうチョイ削っておきたいなー
二度と人間を襲わないようにね。
背中に廻した腰袋から、スリングと石を3個取り出す。
何してるか分からないんでしょ、オオカミちゃんたち。
これはねーこうすんのよ!
スリングに石を仕込み、大きく振りかぶってぶん投げる!
正面のグルルと威張っているサブリーダーオオカミの鼻っぱしらに命中!
声にならない呻きと共に怯んだオオカミを、先に仕留めるか、もう何匹か石をぶつけるか、瞬秒考える。でも足はもう動いている。
右、左、視線を交錯させながら、次の石を仕込む。
あ、コイツイケる。
左の、ためらいを見せるオオカミにスリングを放つ!
狙いが甘いのは分かってんので胴体でいいや、当たればいいのよコイツは。
グホゴホと呻くオオカミは放っといて、サブリーダーを仕留めに行く。
さっと目の前をふさぐのはリーダーオオカミと子分が2匹。
仲間を見捨てて逃げないんだ。みーよと村を見捨てた初心者冒険者たちに見習わせたいわね。
でも、命を粗末にするのは関心しないけどね。
スリングと残り一個の石を地面に捨てて(収納する暇がないのよ)、隊長オークの遺品でもある短刀を抜く。
あ、ヤバイとばかりにひるむオオカミたち。
逃げてもいいのよ逃げても。サブリーダーちゃんにとどめは刺しておくから安心してネ。
あら逃げないんだ向かってくるんだ3匹同時に別方向からくれば何とかなると思うんだ。
勇敢ね。
でも、無謀ね。
あたしは左脚をひらひらさせて気を引いて、廻し蹴りの要領で左旋回しながら短刀を時間差で振り回した。
手ごたえあり。
でもそんなの気にしないで、地面すれすれに水車蹴りにシフト。
こっちも手ごたえあり。
最後に、のしかかってこようとするオオカミの顎を片手で押しのけて、背後に廻した短刀を首筋辺りに突き刺した。
血が飛び散るのが分かるけど、この血しぶきはさすがにかわせない。
気にしないでオオカミの身体を押しのけて、他の、転ばしただけのオオカミの上に、今度はこっちが飛び掛かる。
爪の抵抗を受けたけど、ネコ科じゃないから大したことは無い。
そのまま柔らかそうな腹に、短刀をぶっ刺す。
嚙みつこうと抵抗する牙の上の鼻っ面を張り飛ばして、喉笛に刃を当てて引き裂いた。
切れ味いいわ、この短刀。
起き直って周囲の確認。
みーよ、無事。
死んでるオオカミ、今のを含めて4匹。
戦意喪失なサブリーダーオオカミは、鼻を完全に潰している。
やみくもに振り回した短刀が当たったオオカミが、立ち直ろうとしている。
こいつは厄介。致命傷じゃないしね。
胴体に石をぶつけたヤツは、ひるみ気味。
ゆらりと立ち上がったあたしに合わせるかのように。
オオカミたちは互いをかばい合いながら、立ち去り始めた。
仲間の、死骸を残して。
どいつもこいつも傷だらけ。
誰に立ち向かってしまったのか、よーく思い知ったらしい。
んー、もうちょい、削りたいんだけどなー
あのサブリーダーだけでも仕留められないかな?
まー走って追いかけてもどーにもならんよね。
スリング、拾わなきゃ無理だね。まにあわ、ないよね?
「郁ちゃーん!」
みーよが駆け寄ってくる。
「ひどい傷よ! もう、無理してぇ!」
へへへ。ちょっとやり過ぎたかもね。
「傷、見せて!」
「はいはい」
返り血が酷いけど、これはしょーがない。組み打ちだったしね。
まーオオカミさんとじゃれ合うのって、中々機会が無いしね。
お腹を引っ掻かれた傷が、まーヒドいかな?
他は、大したことないと、思う。
「たいしたことあるよー割と咬まれてるよ」
そぉ?
まあ、ガードグローブの上からでしょ?
「防具外して。中も診るから」
「はいはい」
みーよはあたしのお腹に手を当てて、光をかざしながら、周囲の傷も見せるように催促する。
そんなに過保護じゃなくてもいーのになー
「ほらぁ、おっぱいも傷ついてるじゃない! 女の子なんだから、もっと身体は大切にしてっ!」
あーそっか忘れてた。あたし女のコだったね。ついでにジョシコーセーだったわ。
思い出させてくれてアリガト、みーよ。
最初にあたし“が”襲った若いオオカミに咬まれた腕は、プロテクトガードを貫通しきれなかったらしく、無傷だった。ま、すぐに振り回したし、力を込めて咬めなかったでしょうしね。真っ先に狙われて、相手無傷で仲間にぶつけられて、地面に叩きつけられてお亡くなりになった挙句、群れ全体の士気を大きく下げちゃうだなんて、可哀想で役立たずな一生だったね。あんたの死骸は丁重に活用させて貰うネ。
両足もエンジニアブーツで守られてるんで、無事。つま先と靴底に鉄板が仕込まれている安全靴仕様なもんで、蹴り技の威力倍増なのよね。
やっぱ、手足は守っておくものよねー自分にも相手にも壊されないようにしとくのって大切よね。
胴体は、まーしゃーない。耐衝撃チョッキ着ると、どうしても動きが鈍くなるからね。あんまり過保護にすると、あたしの良さも無くなっちゃう。
ドーリングでも、あんまり機体の損傷を気にしすぎると、思い切りが無くなって勝てるもんも勝てなくなるからね。
でも、ま、傷は少ないに越したことはないんで、街とやらに着いたら、防具は見るだけ見ておこうかしらん。
その傷を、杖を片手で立てて先端を光らせながら、もう片手であたしの胸の傷に手をかざして、コッチも光らせて治してくれてるみーよ。
額には、うっすらと汗。割と大変そう。
傷口はポカポカと温かい。光そのものが、温かいんだね。
仕組みとしては、細胞を活性化させて傷を癒すらしい。旧時代に、そんな治療器があったとか無いとか、詐欺だとか実際に効果があったとか、そういう通販番組で実際の治療映像を観ながら、パパとワイワイ言い合ってたなー
あんとき、あたしはンな事ありえないーと言いまくってたけど。
今、実際に治療を受けて、分かる。これ、効くわー
「わたしの治癒術は、そんなに大した効果はないのよ?」
あたしの感心した顔を見て、みーよが少し謙遜してる。
治療が進んで、しゃべれる余裕ができて来たらしい。
「こんなことできるなら、治療しますよーって言ってバイトできるんじゃないの?」
「ん-治療した後、お金払ってくれる人が、いなかった……」
そういえば、なんか言ってたね。
こんなに気持ち良いのに、ちゃんと治るのに、誰にも感謝されなかったんだ。
この世界の人たち、ひどい奴らばっかりだなー。
ソイツら、ちょっと殴ってもいい?
「いや、わたしがダメというか、満足させられる治療じゃなかったのよ」
「んなことないでしょーもう傷が塞がってる」
「でもそれって、放っておいても治る程度でしょ?」
「そっかなー、ちゃんとしないと傷跡が残りそうだよ?」
「郁ちゃんが言うセリフじゃないよね?」
あ、藪蛇だった。テヘっ。
「でもね、この世界の人って、生きていくので大変だから、そういう傷なんてあんまり気にしないんだよ。……あ、貴族様は別ね」
あーうん、そーかもね。
仕留めたオオカミを、解体する。
オークどもみたいに、魔石は出ない。
代わりに、肉と毛皮が手に入る。
で、そのためには解体が必要なんだってさ。
光の女神様、死骸をそのままお預かりはしてくれないのだそうで、面倒だなーもう。
「普通は、仕留めた獲物はその場で解体だから。面倒だからそのままポン、は、ダメだよ」
いいじゃんケチめ。減るもんじゃないでしょ。
見様見真似以前に、あたし、解体なんてやったことないんだけどね。
でもなーお肉だしなー
内臓を抜く必要があるのは知ってる。肛門の辺りに切れ込みを入れて、内臓を引きずり出すのも、合ってるんだと思う。
穴を掘るスコップとか、解体用の丈夫なビニール手袋は出してくれるのにね。死骸はそのままじゃダメというのも、女神さまの思考回路って分からんわー
手袋なんていらないもん、素手でいいもんとか言いたいけど、あればあるで便利だしね。
血抜きして内臓を抜いた所で、収納というか、奉納の許可が下りた。女神さまの目には、死骸ではなく、毛皮付き頭付きの精肉と見なして頂いたらしい。
本当は毛皮も剥がしてしまいたかったんだけど、今のあたしじゃ精一杯。
街に着いて一息入れたら、解体作業を習うのもいいかもしんない。
オオカミ4匹分、奉納いたします。どうぞお受け取りください。
あたしの無言の祈りも聞いてくださったのか、みーよの杖からの光を浴びて、獲物たちは光の中へ消えていった。




