137.あれはあたしのオモチャなのに!
仕事溜まってるんだよなぁ、ああでも、観たい。
よし、これもギルドマスターの仕事だ!
なんか、小学生みたいな言い訳をして、ギルマスも付いてくる。
トルモルト教会は、領主様のお城がある中心部に近い、高級住宅街にあるらしい。
オラクルの街は、領主様の一族や、身の回りのお世話をする人々、近衛兵などが済むお城が第一層。
身分の高い人たちが住むお屋敷や、その他の高級住宅街、専門の商店を含む居住区が第二層。
大通りや冒険者ギルド、あたしたちの住むスラムや奴隷管理区、普通の住宅など、その他もろもろが第三層に分かれている。
それぞれ城壁で囲まれていて、出入りには許可証が必要だね。
第二層は、行った事がある。マクロン閣下の転移術で、経営しているお店に帰還したんだった。
ま、それを言うなら第一層のお城にも入ったことがあるんだけど、あれはよく分かんないというか、空間が繋がっている? だけだしね。
あの時は理力切れのみーよを抱えたままだったし、あたし自身、結構フラフラしてたからなー
うん、そうだね。マイアミがいてくれて助かったかもしんない。
そっか、あたし、結構アイツの事、頼りにしてるんだねぇ。
い、いや、これは恋心なんかじゃないよ。断じて違うもんね。
見慣れない高級な街並みを、キョロキョロしながら眺めつつ。
これからマイアミに会いに行くんだ、という自分の感情をどう扱ったらいいんだろう、と、迷ってみたりしている。
あたしから会いに行く事って、無いじゃない?
でしょ?
だから、ドキドキしてもしかたがないのよ。
これは、恋じゃない。恋じゃないもんね……
違う。
トルモルト教会が、近いらしい。
もう、背中がピリピリし始めている。
いる。奴がいる。
感じた瞬間から、マイアミの幻想がすっ飛んでいった。
ま、所詮、その程度の男よね。
トルモルト教会は、まるでお屋敷のような美しさと広さだった。
高い塔のような造りを戴いた、広々とした教会棟。
住居棟は3棟。それぞれ独立してるけど、奥の通路で繋がっている。
アイボリーの漆喰で全面が塗装されている。周囲を囲む壁も、同じ色。
お金を掛けて、きちんと手入れされている。
シンボルになる建物だもん。こうじゃないとね。
ウチらの教会も、補修して良かったわ。高かったけど。
鉄格子の扉を開けて、中に入る。
ん?
広場の中央に、天幕が張ってある。結構大きめ。直系10メートル位の円形。高さは3メートル位かな。
前に旧時代の動画で見た、ゲル、だっけ。草原に住む民族の移動型住居が、こんなんだったと思う。
ンと、この布、昨日見た。
大亀を運んでた、あの布と同じ色だもん。
どういう仕組みか知らないけど、デカい荷物を運搬したり、天幕になったりするのね。便利ね。
でもさ、建物あるんだから、こんなの、必要?
と、天幕の隙間がモソっと揺れて、中から猫耳の顔がこっちを覗いて来た。
昨日の猫娘だ。
うにゃ? という顔をして、出てこようとして、何かに引っ張られて、引き下がった。
で、なんか、胸の間からポロンと、見えた。
服、着てなかった。
いや、もともと服なんて、あの変なデニム生地のチョッキだったし。
元々は服なんか着ないんでしょアンタ、な獣娘だけどさ。
そっか、寝る時は真っ裸なのね。まあ、そうよね。
と、もう一人、こっちを寝ぼけた顔で覗いてきた……
肌が、黒い。
綺麗な、銀髪。
そして、耳が、耳が、長い!
長くて尖っているんですけど!
細い目、高い鼻、薄い唇。
どの人種でもない。亜人だ。
うわぁ、エルフだ。それもダークな方。
初めて見たわー!
あたしたちを見て、ポヤポヤして。
はっと気づいて、胸を隠して引っ込んだ。
そう、この娘も。
少なくとも上半身は、裸だった。
君ら、裸で寝る趣味でもあるの?
どうやら、そうらしい。
さっきから感じているピリピリの元凶が、天幕の裾を払って、堂々とお出まし下さったわ。
ザイモン、だったよね。
こっちも上半身は裸。スゴく引き締まった筋肉。張りのある上腕二頭筋、大胸筋、腹直筋。
申し訳程度に巻いている腰巻の下も、引き締まった脚部が地面を鷲掴みにしているようにさえ見える。
「なんじゃお前ら。儂のお楽しみを邪魔しに来おったか?」
お楽しみ。
裸の男女が密室で行う事、の、事よね?
しかも、同時にお二人、なのよね?
それと、もうお昼近いんだけど?
ま、まあ、朝からビール呑んでダラダラして、飽きたんで、みーよの付き添いで漸く冒険者ギルドに顔出しに来た、あたしが言っても説得力なさそうだけどね。
「こんな時間までダラダラしている奴に言われたくないぞ」
ギルマスが、調子を合わせてきた。
「それに、こちらはお前に用があるわけじゃ無いそうだ。それを見届けに来た」
え?
別に見届けなくても?
「なんじゃそうか。儂に抱かれに来た訳じゃないのか」
抱かれに?
んなわけあるかぁ!
なるほどね。こりゃ確かに、世界が自分を中心に回ってるわ。
「だがまあ、そっちの細っこいのはともかく」
ねめつけるような、視線。
「娘、お前は抱き心地が良さそうじゃな」
ハゲのオッサンのクセに、なんかヒデェ事言い出したなぁ。
髪の毛が、ふわっと逆立つのを感じる。
「郁ちゃん、どうどう」
どうどうって、馬じゃないんだから。
んもぉ、みーよめ。
最近、増々あたしの扱いが上手くなってきちゃって、んもー!
「ザイモン様、お久しぶりで御座います。今日は、別の要件で伺いましたので、これにて失礼いたします」
慇懃無礼に頭を下げて、さ、いこっ、とあたしの背中を押すみーよ。
「待てぇ。儂の話はまだ終わっておらんぞ」
ツカツカとこっちに歩いてくるよ、禿げ親父!
目つきがヤラしい。絶対になんかしてくる!
「お、お待ちくださいザイモン様!」
お、騒ぎを聞きつけたのか、建物からマイアミが走ってくる。
「その者たちは私の客人故、どうか、お気持ちをお納め下さいますよう!」
スゴい速さで走ってくるね。君、そんな速足あったんだね。
「やかましい!」
後ろも見ないで、ハゲが裏拳!
タイミングドンピシャで、マイアミが吹っ飛ばされた。
少しは手加減しなさいよ。
あれはあたしのオモチャなのに!
「あ、なんか文句があるのか、娘?」
もう目の前まで来ちゃったよ。
「アイツに用事があったのよ。気絶させてどうするつもりよ」
「知らん。それよりお前の乳を揉ませろ」
どうしてそうなる。
「抱き心地を確かめてやるわい」
「みーよ、もういいんだよね?」
みーよの手が、震えている。
あたしも、だけどね。




