136.良くも悪くも世の中が自分中心で回っている御方なの
朝ごはんを食べた後、みーよに今日はどうするのか尋ねられた。
特に予定はないけど。
バカンスしてる?
いいねぇ。
で、お庭にキャンプセットとサマーベットを用意して貰った。
ご丁寧に冷えたビールセットも、ですか。
んーゴロゴロ、幸せー
どうも、教会の中でゴロゴロすると、みんなの邪魔になるらしいのよね。
お掃除とか、お勤めとか?
外壁工事も終わったんで、外の風に吹かれながらゆっくり過ごすのもイイもんだわね。
あと、出来れば地面に芝生を敷きたいわ。
あると、なんかキャンプ地っぽくならない?
稽古の時に、服に土が付きにくくなるし。
ミドリが、緑の安らぎとかの教会で聖女やってるんだっけ。
今度会ったら聞いてみよう。
ん、なんか、ゴロゴロに飽きた。
「みーよー、飽きた」
「言うと思った」
うぬう、お見通しなのかー
「冒険者ギルドでも、覗いてみる?」
「行く!」
そういえば、昨日、おっきな生きた亀を持ち込んでたオッサンがいたなぁ。
スゴク強そうだった。
ついでに、猫人間も初めて見たわ。
布人間もいたね。
誰なんだろ、色々凄かった。
……みたいな話を、道中、みーよに話すと。
ああ、という顔をされた。
「オーク軍討伐の時、オラクルにはエース級のパーティーが二組いるって言ったでしょ」
「なんか言ってた。シュトルムが、一対一では闘いたくないとか言ってた」
「そういうことはよく覚えてるのね」
「まあね」
興味のあることは覚えるよ。
「……もしかして、だけど、絡まれたりした?」
お、鋭いね。
「あたしからは、絡んだりしないよ? おっきな亀の上に乗って、大通りをパレード中だったし」
「そうよね」
「そうだよ、大体あたし、昨日は二日も寝込んでたらしくて、フラフラしてたしね」
「そうよね。安心したわ」
心底ホッとしているみーよに、実は飼い猫に絡まれてた、だなんて言えないなぁホッ
~ ・ ~
なんか久しぶりな気がする、冒険者ギルド。
建物の前にある噴水も、この時間帯はあんまり人がいない。
以前は、建物の中に入れなかった野良聖女たちがたむろしてたんだけどね。
中に入ると、お、熱気ムンムンだね。
何人かが、あたしたちに気づいて、自然に前を開けてくれた。
いや、別にそんな緊急の用事は無いのよ。
ってか、初めて入った時とは、全然態度が違うんですけど。
前は、ダメ聖女とオンナの付き人、扱いだったもんね。
「あ、いらっしゃいませ。二階へどうぞ」
最初に会った受付、トロ子ちゃんじゃないのさ。元気してた?
っていうか、そんな大層な用事じゃないんだけどね。
あれ、みーよは用事ありで来てるのね?
そのまま二階に案内されちゃってる。
あたしは付き人。お仕事しなくちゃ。
待ってーなんてドタドタしないもん。
当然のように、背後に張り付くんだもんね。
「よく来てくれた。青き清浄の調べ教会での活躍も、聞いているぞ」
受付嬢が淹れてくれた、薫り高い紅茶を飲みながら、ギルドマスターが応接室であたしたちの事を褒めてくれる。
例によって後ろに立っていようかと思ったけど、座るように促されちゃった。
「で、お前らの話は、ザイモンたちの事だな?」
「はい。近況と、助言を頂きたく」
ザイモン?
あ、昨日、亀の上に乗っかってたヤツのことか!
「昨日、あいつらは極上の獲物を引っ提げて帰って来た。生きたままアレを持ち帰れるだけで、実力だけならA級なんだがな」
うん、確かに大亀、生きてたね。
「そうだな。お前ら、間違いなく目を付けられるな。俺に相談にきて正解だわ」
そうなの?
「ザイモン伯は、良くも悪くも世の中が自分中心で回っている御方なの」
へえ。
つい最近、同じようなのに出会った気がするね。
なんか、真っ赤っ赤だった気がするわ。
「味方にすると頼もしいけど、敵には回したくない、みたいな?」
「うん、そんな感じ。怒らせると誰も止められないのよね」
へえ、そうなんだ。
うん、ちょっとだけ、怒らせたかも、しんない。
いや、飼い猫の躾をしといてね、と言っただけだもん。
あたしは悪くないもん。悪くない。
「オラフレア様の件だけでも大変なのにな。また厄介なのが最悪のタイミングで帰ってきやがった。俺も頭が痛いわ」
「ご理解頂いて、ありがとうございます」
「いや、こういうのも俺の仕事だからな。C級に成りたての組合員に変なちょっかい出されると、俺のメンツが潰れるんだわ」
「こないだ、自分の不始末は自分でつけろみたいなこと、言ってなかった?」
野良聖女ズが自分の報酬を受け取れないのは、自分たちのせいみたいなことを、さ。
「C級以上は別だな。ギルドにとって使える奴と使えない奴の区別は、キッチリ付けとかないとな」
なーんだ、結局自分が良ければそれでイイのか。
「それがイヤなら自分の力で上がって来い、という事だ」
まあね。それは一理あるね。
「お前ら、しばらく遠くの仕事を引き受けてこい。顔を合わせなければ、そのうち向こうも落ち着くだろうし」
「ザイモン様と郁ちゃんは、直接出会うとホントに危ないですからね」
「全くだ。オラフレア様の件は、こっちでなんとかしておく。街の中で暴れられるのは、俺たちも迷惑なんだ……
どうした、イクミ?」
「ザイモンって言うんだね。昨日、逢ったよ?」
ギルマスとみーよが、顔を見合わせる。
「え、さっき、もめごとはなかったって? パレード見物は、出逢ったって言わないよ、ね?」
「ん-飼い猫に、絡まれた、んだよ、ね」
「飼い猫……ワーキャットのペルージャのこと?」
「あぁ、何かそんな名前だった。そう呼ばれてたと思う」
「なにも、しなかったのよ、ね?」
みーよの顔色が、変わっている。
ヤバいもんに触れちゃった、みたいに。
「いや、うん、絡まれたんで、ちゃんと躾けとかないと殺しちゃうよ、って注意した」
またも、ギルマスとみーよが顔を見合わせた。
「ザイモンは、何もしなかったのか?」
「郁ちゃん、襲撃されなかったの?」
「いやいや、イキナリそんな事にはなんないでしょ? 向こうもパレード中なんだし」
「いや、アイツはそういうの関係無いんだ。ヤル時はヤルんだ。なんたって世界が自分中心に回っているヤツだからな」
そうかなぁ。確かに強そうだったけど、話自体は通じたけどねぇ?
「なに企んでやがんだ? まあ、見当は付くが……」
ギルマスが腕を組んで、考え始めた。
「こっちでも調べとく。お前ら、とりあえず街の外で仕事して来い。しばらく帰ってくるな」
そういって、呼び鈴を鳴らした。
受付嬢がやってきて、ギルマスと二言、三言話し合う。
部屋を出て少しして、また戻ってきた。
「まだ依頼版に出していない分だ。好きなのを選んでくれ」
また、急な話だねえ。それに、公正じゃなくない?
「ギルドからの直接依頼だから、その辺は気にしなくていいよ」
ただ、とみーよが付け加える。
「ただ、マイアミ様からの依頼は、お断りしなくてはならないわね」
マイアミ?
そーいえば、今朝は来てなかったね。
い、いや、来なくてイイよあんな奴。
ん?
これじゃ、あたしがアイツのこと気になってるみたいじゃないのさ。
そ、そんなこと、ないもんネー
「いつでもイイんでしょ、あんなもん」
「んーそう言う事じゃないのよ。マイアミ様は、トルモルト教会の正会員」
「知ってるよ?」
「ザイモン様は、トルモルト教会の、聖人なのよ」
「……は?」
ゴメン、何言ってるか、分かんない。
いや、言ってる事は分かるんだけど、意味が分かんない。
「トルモルト教会は武を重んじる。だから、正会員の中で一番強い人が聖人になるの」
「それが、アイツ?」
マイアミを見てると、もっと礼儀正しい所なんだと思ってた。
マムちんの旦那さんも、トルモルト所属だったんでしょ?
想像がつかないというか、見込み違いというか。
「要は、強ければ何でもいいよ、という所だからね。人格的なものは、人それぞれなのよね」
そういうもんですか。
でも、それって……
「じゃあ、あたしがアイツより強ければ、あたしも聖人に成れちゃうって事?」
みーよとギルマスは、再び顔を見合わせた。
顔に「言うと思った」と書いてある。
「だから、出来るなら出逢わせたくは無かったんだが」
「郁ちゃんって、そういう人だよね。知ってた」
そんな、ため息までつかなくったって。
「問題なのは、ザイモンも同じ事を考えてるって事だ」
同じ?
「アイツが、世界は自分中心に回っていると思っているのは、自分が一番強いと思っているからだ。俺もアイツには、家庭を持って落ち着けと諭しているんだが、聞く耳をもたん。子供でも出来れば、世の中はそういうもんじゃないと分かってくれるかと思うんだがな」
子供中心の生活になる、までは行かないけど。
子供のために何かしてやろうと思うって事?
まあ、分かんなくもないわ。
で、それがあたしと同じ考えって事?
「自分が一番強いと思ってる所に、お前みたいなのがやってきたら、どうなる?」
ん-あたし、自分の事をそこまで思ってないけど。
「まあ、目障り、かな」
みーよが、あたしをジトっと見る。
「嬉々として潰しに行くんじゃなかったっけ?」
そ、そんな野蛮な事はしないよ?
しないと思うよ。
多分、しない。
そんな、わけは、ない、わ。
「少なくとも、ご挨拶には、いくね」
そして、あたし、昨日、ちゃんとご挨拶したわ。
かなりキッチリと。
あーなるほど。
これ、アイツ、来るね。
俄然、やる気出て来たわ。
「みーよ、やっぱり約束は守らないとダメだよ」
「急になに言い出すの?」
またコイツ、なんか企んでるな、みたいな顔しないで。
「マイアミたちのお誘い、それに乗っかろう。迷宮だっけ、そこ行こう」
「え、いや、だって、ザイモン様が……」
「いいじゃん、偶然バッタリ出会っても。あたしたちはそっちに用事があるわけじゃないもん。たまたまだもん。悪くないもん」
「いや、悪い悪くないの話じゃないと思うんだけど……」
みーよは、あたしの顔を見て。
これは、止められないと悟ったらしい。
「分かった。片づけられる問題は、さっさと解いちゃった方がいいよね」
「なによ、試験問題?」
「似たようなもんでしょ」
そんな、肩をすくめられても。
あたし、ああいう試験はホント、嫌いなのよ。
「試験問題、嫌いなんじゃなかったっけ?」
嬉しそうだよ、とっても。
そんな風に付け加えられた。
そうかな?
……そうかも。




