134.うん、降参降参。参った参った。心配かけて、ゴメン
懐かしい、というほどでも無いんだけど、なんかホッとするウチらの教会。
足場が全部取り払われている。
外壁も全部直し終わったみたいだね。
こっちにも漆喰を塗ってくれたみたいで、スゴク綺麗。
壁の上は、飾りレンガを付けてくれたみたいで、とてもオシャレな造りになってるね。
正門にも、きちんと木製の両開きの扉が据えられている。
くぐってみると、看板もちゃんと直ってるし、外観も白の漆喰が輝いてる。
うん、職人さんたち、いい仕事してくれたみたいだね。
住居棟の入り口から、ただいますると。
うわっという勢いでちびちゃんたちが走ってきた。
おーよしよし、やっと帰れたよーほら高い高ぁい!
二人分、上に下に転がしてあげて、両肩に担いでいる間に、みーよが出迎えてくれた。
「ただいま、やっと退院できた」
「お帰り。ほんっとに心配したんだからぁ!」
おっと抱き付いてこられても、ほら、ちびちゃん担いでるから……
ま、いいか。
両手が塞がってるので立ってる事しか出来ないあたしの腰に胸に腕を回して、みーよ流の抱擁を仕掛けられちゃった。
うん、降参降参。参った参った。心配かけて、ゴメン。
~ ・ ~
夕食に、またお肉を出して貰えちゃった。
あたしが帰って来たのを見て、シュランとリコットが大急ぎで調達してきたらしい。へえ、リコット、市場でお使いが出来るようになったんだ。
話を聞くと、こないだ買った新品のお洋服を着ていったので、足元を見られなくなったんだとか?
そうなの?
単に市場に行くのに着てみたかっただけじゃないの?
まあ、いいけどね。
お洋服の力かどうかは分かんないけど、どうやら、鹿肉のいい所が手に入ったらしい。
みんなでお祈りして、マム院長が切り分けて、あたしが一番大きなもも肉を丸ごと頂いてしまいました。
いいの?
いいんです、いっぱい食べてください。
イクミねーちゃん大活躍だったんだって、スゴイね。
だから、いっぱい食べてね。
そうですかスイマセン、と食べ始めると。
いままで寝たままで、なんにも食べていないことを身体が思い出しちゃったみたい。
食べ足りなくて、鹿の肋骨の辺りを片側全部、骨までしゃぶった。
エールもパンも、みんなが唖然とするような仕方で飲み食いしていたらしい。
ん、あんまり、覚えてないけどね。
食べつくして、ふー食べた食べた、したけど。
マムちんとみーよの3人で、晩酌タイム。
やっぱりというか、当然というか。
あたしがいないと、みーよは付き人の奇跡を起こせないらしい。
なので、マムちんの晩酌は、地元産のワインとおつまみだったようです。
まぁまぁ、今日は美味しいお酒が飲めるのね、と、マムちんご機嫌だね。
付き人の奇跡を私用で使うのはイケマセン、じゃなかったの?
ま、ご機嫌なら、そんなことはどうでもいいか。
次回の仕事は、トルモルト教会の方々と迷宮に行こうと思っていまして、その準備というか、吟味をしているのですが。
マム先生のご意見を伺いたいのです。
そんな風にいって、みーよが出してきた光の奇跡は、SAKEだった。
んと、なんだったっけな、旧時代の映画に出て来た。うん、任侠もの。
仁義とか切る奴。えっと、日本酒、日本酒だね。
また、珍しいものを出してきたね?
ちゃんと一升瓶。1.8リットルと、規格が決まっているんだったよね。
オーナー御用達の朝日寿司に、この瓶がずらっと並んでたのを思い出したわ。そうか、普通に買えるんだね。
「なんです、これは?」
あたし以上に、マムちんがびっくりしている。
「付き人の故郷というより、わたしの先祖が愛飲していた飲み物です。こちらのコップをお使いください」
シンプルだけど美しいグラスに、とぉくとぉくとくとくと、なんともイイ音を奏でながら透明な液体が注がれていく。
「葡萄ではなく、コメと呼ばれる穀物で造られたワインです」
ふぅん、ワインなのか。じゃあ、あんまり強いお酒じゃないんだね。
あ、スイマセン、あたしにも頂けるんですね?
当然でしょ、なんですか。そうなんですか。
「おつまみは、保存の利くものしか出せないのですが」
そういって、魚の干したもの、それもカッチカチに干されたものを出された。
歯が立たないんじゃないの?
え? 叩いて食べるの?
まな板を敷いて、この上で叩けって?
あ、木槌ね。小さいね。もしかしてこれ専用?
軽く? はい、軽くね。
コンコン。
もう少し強くてもいいの?
うん大丈夫。机は壊さないようにするね。
こんなもん?
いかがですか、マムせんせー
そうですか、美味しいですか。あたしも一口。
うん、美味しいね。魚の味が凝縮されてるわ。へえ、こんなのあるんだ。
「この辺の系統は、最近アンロックされたばかりなの」
アンロック?
「ううん、こっちの話よ」
みーよが、なんか変な事言い始めた。
「変な話を混ぜてくるのは、郁ちゃんもだよね?」
うう、聞かれてるのか―
「わたしもわたしで、色々と忙しいのよ?」
まあ、分からなくもないんだけど。
まあ、説明されてもさっぱり分かんないんだけど。
分かんない顔をしているわたしの手元を見ながら、みーよは他の魚の干物を次々に出してくる。
鮭とば?
燻製タコ?
焼きめざし?
エイのひれ?
「この辺は、叩かなくても食べられると思うよ」
なんか、見たことも食べたこともないものばっかりだね。
……いや、どこかで見た気もする。ううん、“観た”気がする。
うーん、思い出せないけど、なんか観たわ。
「いかがでしょう先生。今回の遠征に、出来れば携帯したいのですが」
「どれも美味しいわ。そしてこの透明なワインに、とても合うのねぇ」
すっかりマム先生がご機嫌だね。
いや、確かに美味しい。そしてSAKEに合ってるわ。
同じ地域で作られるものだから、相性がいいという事かしら?
これって、みーよのご先祖様が食べていたものなんでしょ?
旧時代の出身人種とか国籍なんて、意味なんか無いと思ってたけど。
ちゃんと、意味はあるのかもしれないわね。
~ ・ ~
シャワールーム、なんか、すごく久しぶりな気がする。
オーク・ジェネラルと闘って、発勁と寸勁を打ち込んでぶっ倒して、あたしも同時に気絶して、起きたら入院してたんだったよね。
気を失っている間に、おっかさんに身体を洗われたらしいんだよね。
うん、シャワーってより、身体を自分で洗うのが久しぶりなんだね。
自分の身体を人任せにしないで清潔に保つ。大事な話なんだと思う。
マシンの整備と同じ。源さん、いつもSweet Bombをキレイにしてくれてありがとう。
で、あたしも、あたしの身体を清潔に保ち、労わるのは大切な話なんだよね。
身体をロクに洗わない輩なんて、ロクでもないよね?
お着換えしてポンチョ姿になったら、ものすごく眠くなった。
あ、寝ているちびちゃんたちの匂い、うん、ミルクくさい。
この頃の子供の匂いって、色んなものが混ざった独特の香りだよね。
うん、なんか、自然に、安心できる。
意識が、遠のく。
そのまま、あたしは霧にでもなったかのように、自分の存在が霞んでいった。
(つづくっ!)




