132.うん、先生が教えてくれた。先生大好き!
人の話し声で、目が覚めた。
んと、オークジェネラルの憑依体と戦って、意識が飛んで、一回起きて、また寝て。
あ、教会の病院、ってか、なんか変な言い方だなぁ。
んー入院、そう入院。あたしは患者、みたいなもんか。
寝たままで首を巡らすと、ご家族かな? に囲まれて、にぎやかにお話している患者さんがいるねぇ。
「起きましたか?」
その声は、ミドリちゃんですね?
「あたし、どれ位寝てた?」
「オーク・ジェネラルの憑依体と闘われてから、2日経ちますね」
うわ、そんなに?
「元々、この教会は鎮静や平静を主体とする施設ですから、傷ついた身体を休めるためには最適な施設なんですよ」
まーそりゃそうだけどさ。
こっちにも予定ってもんがあるのよね。
「みーよは?」
「ご自身の教会に、戻られました」
まーそーだろうね。
「患者さんたちは?」
「私は詳しくはないのですが、症状の軽い方々は、人族として還ってこられました。重症の方は、まだ予断を許しません」
そうなんだ。
「イクミさんが起きられたら、お礼をしたいという娘がいますが、会われますか?」
へえ、誰だろ。
と、向こうから歩いてくる子がいるね。
一番最後に抱えて助けた、一番最初にここで癒した子だった。
「イクミ、さん……」
大きな亜麻色の瞳と、同じ色のストレートな髪を肩まで伸ばした、可愛い感じの子だね。10歳位かな。リコットより少し上、だと思う。
「命がけで助けてくれて、ありがとう……」
「いいよ。仕事だからね」
頭をなぜると、くすぐったそうにしている。
人としての仕草、表情が戻ってるね。うん、良かったよ。
そういえば、この子、ゲロゲロ吐いたあとで、あたしが抱きしめて慰めたんだっけ。ンで、制服ベットベトになっちゃったんだよね。
あの状態で、あたしのこと、覚えてんのかな?
「あの後、調子はどうなの?」
「うん、先生は、私が一番容態が軽いんだよって言ってた」
先生。ああ、おっかさんね?
「まだ、怖いことを時々思い出しちゃうんだけど……」
そうだね。そうだと思うよ。こんな小さい子に、ヒドいことする奴らだね。
「イクミさんに抱きしめて貰ったから、多分、大丈夫」
なんか、きっぱりと、言い切ったね。
「そうか」
もう一度、こんどはちゃんと抱きしめてあげると、身体を預けて気持ちよさそうにしている。
「これからどうするの? ご家族は?」
「家族はみんな、オークに殺されちゃったの。私、へき地の開拓民の生まれだから……」
うわぁ、そっかぁ。
「でも大丈夫。死んじゃったお父さんやお母さんやお兄ちゃんの分まで、ちゃんと生きるよ。こうして人族として還って来られただから」
「難しい言葉、知ってるんだね」
「うん、先生が教えてくれた。先生大好き!」
「そっか……」
ん、なんか、そっかとしか、言えないや。
あたしに出来る事と出来ないことがあるのは、知ってる。
気持ちは残っても、出来ない事は、やっぱり出来ないんだよね。
あとは、出来る人に、専門の人に、任せるしかないもんね。
お礼を言えて良かった、本当にありがとう、そういって彼女は元のベットに戻っていった。どうやら、明日には退院らしい。
後ろから、そっとアオイがやってきた。
ミドリちゃんと目くばせして、彼女が席を外す。
「今回は本当にありがとう。ホントに、なんてお礼を言ったらいいか……」
随分と殊勝、というか、しおれてるね。なんかあった?
「ミヨと、ちょっとモメタ。でも、私、間違ってないとは、思う。けど」
けど。
「他の宗派の付き人にさせることじゃ、ないと思う、けど」
うん、けど。
「でも、あれがベストだったと、思うんです、けど、けど……」
うん、ちゃんと、けどーけどーしてるね。
「下手すれば死んでたよね、と言われると、そうなんだけど、としか、言えない、けど」
だから?
「だから、なんか、本当にありがとう。そして、ごめんなさい」
「ん、みーよはそういう意味で言ってるんじゃないと思うよ」
「え、だ、けど」
「ん-本心じゃないけど、言わなきゃならない、位だと思うよ」
「だ、だって、けど、けど……」
だってなの? けどなの?
「あたし、オーク集団討伐の時、オーク・ジェネラルの本隊とぶつからなかったんだよね。だから、一回闘ってみたかったのよ」
「……は?」
「うん、思った以上に強かったね。手こずったというか、舐めてたかなぁ」
「ん?」
「だから、あたし、闘いたくて闘ったんだよね。理由があれば嬉しいな、が半分かな。そういう訳で、アオイが気にすることでも無いよ」
「けどぉ」
「みーよには、そう言っておく。嘘じゃなくて本心だし。あの子も、あたしがそういえば納得するから、大丈夫だよ」
アオイも、半分納得、半分は理解出来ない、って感じだね。
みーよも、そういう感じなんだろうね。
ま、お互い、モヤモヤするよね。
「患者さんの状況はどうなの?」
モヤモヤした話を続けてもしょうがない。話題を変えましょ。
「ん-症状の軽い患者は、明日には退院者を出せるね。イクミさんが倒してくれたオーク・ジェネラルに憑依された女性と、二番目のオーク・プリーストに憑かれた女性は、まだ命の境目を彷徨ってる。でも、死ぬときは人族として弔えるよ」
「二番目のは、普通に平伏できたの?」
「うん、イーシュが頑張ってくれた。王が破れたのなら、とどまる理由はない、とか言ってたらしいね」
あれが王? せいぜい将軍でしょ?
「三番、四番の方たちも、あれだけの重症度だったのに、順調に回復してきてる。生きる希望があるって、大切なんだね」
そういうもんか。うん、そういうもんだね。
「イクミさんがいなかったら、全員を人族に還すことなんて出来なかった。イーシュを付き人に無理に戻しても、一人か、二人位しか助けられなかったと思う。
ホントに信じられない結果だよ。ホントに、アリガトウ……」
あらら、なんか最後の方は言葉にならなくなってるよ。
なによ、泣くとこなの? あーもーよしよし。
グスングスンと、あたしの胸の中で泣いちゃってるよ。そうか、この娘、意外に泣き虫なのか。
頭をなぜてやりながら、ああ、あたしがおっかさんに似てるから、甘えやすい、頼りやすいんだと、気が付いた。




