130.視界が揺れるけど、大丈夫、あたしが付いてる
目を覚ますと、白いシーツが敷かれたベットの上にいた。
高い天井。周囲から聞こえる寝息。
ん? どこだ?
身体を起こそうとして、起き上がれない。
拘束とかじゃなく、起き上がれないのよね。
ん-起き上がる気持ちになれない、って感じかな?
「気が付いたようだね」
おっかさんだ。
「いや、凄いねあんた。ホント、ウチのイーシュの嫁に欲しいよ」
穏やかな顔で、冗談じゃないことを言ってくる。
「どうなったの?」
答える前に、おっかさんが水差しを口に付けてくれる。
ン、酸っぱい。なにこれ?
「身体の回復薬だよ。リハビリの終盤に使うもんだねぇ」
へーそうなんだ。
「あれだけ侵喰が進んだ、しかもジェネラルの体液をこれでもかと受け容れた身体でも、人の形に戻れるんだねぇ」
ゴメン、訳の分かんない話は、頭に入んない。
「ああ、そうだったね。上手く行ったよ。とても上手く行った」
そうなんだ、良かった。
「こういうのは、あたしゃ今でも反対だし、これからも反対するけどね。上手く行った事に文句は言っちゃダメなんだろうね」
そ、そうなんですか。
「あたしはどうしたら?」
「今日の所はウチで一泊していきな、と言いたいんだけどねぇ」
おっかさん、ちょっと名残惜しそうにあたしを見る。
「あんたの聖女様が、連れ帰っちまうだろうねえ」
みーよが? そうなの?
「これ以上はココに置いておけませんって息巻いてたからねぇ」
そうなんだ。
まあ、心配は、させたかもね。
うん、結構な死闘だったとは思う。外の声とか様子って、あの中じゃ分かんないんだよね。
「郁ちゃん、起きたの?」
お、みーよだ。
「起きた。上手く行ったんだって?」
「行った、行ったけど、郁ちゃんが……」
なんて顔してんのよ。
「大丈夫よ、ちょっと疲れただけ。ん-こういう時に使う、も少しゴツイ武器が欲しくなったわ」
うわ、スゴク心配そうな顔。
大丈夫だって、と、起きようと思うんだけど、あれ? 起きられないなぁ。
ん? なんだこれは。
少し考えて、思い当たった。
これは、青の何とかの、術だ。
平静? 鎮静? 多分、そんな感じだ。
へえ、結構スゴイじゃん。効いてるよ。
「まだ起きちゃだめだね。もう少し寝てな」
「えーもう元気だよ?」
おっかさん、そんな風にあたしを甘やかさないでよ。
ってか、お腹空いた。
お酒飲みたい。
ウチでゴロゴロしたい。
寝るならウチで寝たい。
今日のお仕事は終わりでいいんでしょ?
そういや、なんか、アオイが抵抗がどうこう言ってたね。
男を寄せつけない、あたしのパワーをとくと見よ!
って、どーやるんだろ?
起きる起きる起きる!
こんな感じかしらん。
ん、なんか、起きれるような気がしてきた。
意志の力でねじ伏せる感じかしらん。
寝させようとする力をはねつける……
ちょっと弱いね。やっぱり、ねじ伏せるでいい感じ。おらぁっ!
ガバッと起きたあたしに、みーよはキョトンと、おっかさんはビックリ。
「あれ、意外に元気?」
「な、なんで起きれるんだい?!」
「ん、元気になったから?」
「いやそうじゃない。凪風の術は、鎮静よりはるかに強力なんだよ?」
「分かんない。あたしシロウトだし」
おっかさんは、呆れた顔であたしを見つめる。
「なんか、もう、あんたは色々と、規格外なんだね」
うん、そうかもしんない。
ンと、着ているものはポンチョな寝着か。身体は、なんかキレイだね、返り血とか、たっぷり浴びたと思うんだけどね。
「ああ、身体かい? そりゃ清めるさ。ここをどこだと思ってるんだい?」
そりゃそうだよね。そっか、体の隅々まで見られちったのか。イヤン。
「あんたの身体を洗ったのはあたしさ。嫁入り前なんだろ? ま、あんまり気にしてるようには見えないけどね」
いや、気にしてるよ。とっても気にしてる。
そうか、気にしてないように見えるのか。おかしいな。
「着替えるなら、中の部屋を使っとくれ……ホントに立てるのかい?」
ん-どーだろ?
ソロッと足をベットから降ろしてみると、なんか覚束ない気もする。
地面がグラグラ揺れている感じ。
ええい根性根性!
みーよとおウチに帰るんだ。ウチで目いっぱいゴロゴロを堪能するんだ。
ちびちゃんたちのミルク臭いニオイに癒されて、カンタとリコットの元気な笑顔を見て、アリとシュランの青春を見届けて、マムちんと晩酌を交わすんだ。
よし、帰ろう。
視界が揺れるけど、大丈夫、あたしが付いてる。
上手に操縦してあげる。任せて、あたし天才だし。
とと、ととと……
あ、れ?
フラッと来て、倒れそうになって、踏ん張って、踏ん張れなくて……
アレ、あれれ?
「ほら言わんこっちゃない」
おっかさんにガッチリ、支えられちった。
「ミヨ、あんたの付き人は、今日は帰せないよ。いいね」
「……は、はい」
えーちょっと待って、あたし大丈夫、帰れるよ、帰れるってば!
うわ、お父さんだ。
なんかゴニョゴニョ言ってる。またあたしを寝かせるつもりだ。
うぬう、負けるもんか、抵抗してやるぅ!
男め、寄るな触るな近づくなぁ!
あたしはイケメンイケボイス大好き。他はすべて却下却下却下なのぉ!
お父さん、おっかさんの方を見て、肩をすくめ、手を挙げている。
降参?
降参なのね!
おっし勝ったわ!
何よおっかさん、これ飲めって?
お薬か、しょーがないなー
一口吸ったら。
なんか、急に眠くなってきた。
しまった、これ、ねむりグス……り……
(つづくっ!)




