128.アンタはアンタの仕事をしな。あたしはあたしの仕事をするよ
恒例のコーヒーブレイク。
ダナンが、酒は出ないのかと言ってるけど、出るわけないでしょ!
でも、コーヒーのいい香りに、なんじゃこれは、と興味津々なのね。
興味津々なのは、黄色いのとミドリちゃんも同じ。
他のメンバーは昨日、味も香りも経験済み。
アオイもイーシュも、すっかりコーヒーの虜ね。
「これ、とっても美味しいですわー」
「ホント、美味しすぎるなのー」
黄色ちゃんはブラック派。
ミドリちゃんはちょっとミルクを足したい派なのね。
今日のおやつはミニドーナツ。売れ行きがスゴイね。でも、お代わりはまだまだあるのね?
「侵喰が強い奴らは、まだイーシュじゃ無理みたいだね」
そんな中でも、おっかさんはお仕事を忘れないのね。
「行けそうな気もしたんだけど」
「イーシュ、あんたは気合が足りてないね」
「師匠、根性論ですか?」
「当然だね。最後は気合と根性だよ」
そ、結局、最後は勝ちたいって気持ちが大事。
結局、気合と根性なんだよね。
「あたしもあの娘の中にいたナニカにどうこう言われたけど、ザコに言われたってねぇ」
「ザコ、ですか……」
イーシュが何か考えてる。
自分にとっては、強敵だったんだけど、とかかな?
「ミヨのおかげで一緒に行動出来るようになったんだから、これから地道にレベル上げしていけばいいんだけどー」
ポンポンと肩を叩いて、アオイが慰めてる。
「そーですわー付き人うらやましーですわー」
「そうなの。うらやましーなのー」
慰めとは別の方向で、他の野良聖女が声を掛けている。
「イーシュは、冒険者ギルドに登録してるの?」
あたしも、別方向から話を逸らすつもりで聞いてみた。
こういうのは、考え込まない方がいいからね。
「いえ、してたんですけど、聖戦に負けたので、退会しました」
へえ。付き人じゃなくなると、戦えなくなるってことなのね?
だから、しばらく引きこもってたのね?
「でも、師匠のおかげで、冒険者として復帰出来そうです」
お、気を取り直してきたみたいね。
「戦い方というか、依頼はどんなのを受けてたの?」
「普通に魔物退治とか、探索とかですね。別のパーティーと組んだりもしましたよ」
ん-、武器を振り回すとかじゃないんだよね?
「俺は姉ちゃんに近寄る魔物とかを防いだり、戦ったりしてました。大抵、姉ちゃんが睡眠や鎮静や突然の死とかを使ってくれるので、それまでの時間稼ぎですね」
「武器は?」
「あ、素手ですよ。青き清浄の調べを纏いますので」
ふむ。格闘家なのね?
「足にも、青いのは纏えるの?」
「足……やったことは無いですね」
そうなんだ。
「そんなんで大丈夫なの?」
「はい、普通の相手なら」
ふうん。昨日の真っ赤の付き人みたいに、光を飛ばしたり斬ったりする感じかしらん。
「打撃の技とか、必要?」
「前は、イラナイと思ってました、けど」
あ、挫折して、反省したのね。
「うん、そっち方面も教えとくよ」
「はい、お願いします」
ん、大分、気分がほぐれてきたみたいね。
~ ・ ~
侵喰度の高い患者2人は、外で治療を行う事にしたらしい。
ほぼ確実に建物の中で暴れ出すので、他の患者への危害が懸念されるという理由みたい。
その辺は、あたしはシロウトなんでよく分かんない。
専用の設備でも作れば解決すると思うんだけどね。
と、思ってた。
外の庭に、専用の施設というか、地面がそうなっているのね。
アオイが祈りの姿勢を取り、杖を地面にかざすと。
直径5メートル位の円形のステージのようなものがせり上がってきた。高さは30センチ位かな。ただの石畳だと思ってたのに、何よこの仕組み。
円の縁には、魔法陣のようなものが青い光で浮き上がる。
円の中央に、おっかさんが患者を抱えて横たえる。
何か祈り、呟いた。
「なに?」
そっと、みーよに尋ねる。
「葬還。もう助からないので、最後に人としての意識を取り戻させて、人として弔うのよ」
そんな、助からないだなんて、決めつけなくても?
とは思うけど、あたしが口出していい事じゃないね。
「お母さん、どうしても、ダメ?」
「だめだろね」
アオイが、あたしと同じことを考えてるみたいね。
「変に苦しませるよりは、きちんと人族として弔った方がいい。分かってるんだろ?」
「それはそうなんだけどー」
自分に力があれば。そんな顔をしている。
おっかさんは、それを分かって、あえてそう言っているみたいだ。
あ、アオイがあたしの方に来る。
「出来るなら、全部助けたい」
「何すればいい?」
「彼女の中には、オーク・ジェネラルが螺旋込められてる。もしも討ち倒せれば、人族に戻せる可能性はゼロじゃない」
「アオイ」
「お母さんは黙ってて」
おっかさんの声に、振り返って睨み返す。
母娘の間に、火花が生じた。
そして、おっかさんが意外に簡単に折れた。
「分かったよ。好きにしな」
「ありがとう」
そして、あたしをもう一度、見つめ直す。
「お願い、オーク・キラーとしてのイクミさんの力を借りたいの」
ん、分かったとは、言えないかな。
みーよを見ると、頷き返してくれた。
いいの?
「基本は聖戦と同じ。相手のオーク・ジェネラルの生命力をすべて奪えば、討ち倒せると思う。ただ、郁ちゃんは普通に怪我をするし、普通に死ぬよ」
少し考えて、みーよが言葉を続ける。
「倒せても、名誉も報酬も無い。ただ単に、命の危険を冒すだけだよ」
考えたのは、そう言えばあたしが止めると思うから、じゃないよね。
みーよ自身に、自分自身に、問いかけてるん、だね。
そんな事に、あたしを使っていいのだろうか、とね。
「お前さんが負けても逃げても、奴が清浄陣から出てこられる。街にオーク・ジェネラルを解き放つことになるんじゃ」
ダナン?
「ま、そのときはわしが打ち倒してやるわい」
そっぽを向いて、ボソッという。
何よ、背中でも押してるつもり?
「アンタみたいなヘタレに任せられないでしょ」
「な、なにおぅ! 一対一ならわしは負けんぞ!」
あーハイハイそうですかそうですか。
「大地母神の聖女として、その時は足止め致しますわ」
「緑の安らぎも、協力致します」
野良聖女たちが、あたしを後押しし始める。
「師匠、お、俺も一緒に……」
「いや、イイ。まだアンタは足手まといだわ」
イーシュ、そこはションボリするところじゃない。
弟子なら、師匠の闘いぶりを黙って見て学びな。
「デン、あたしが失敗したら、後は頼むよ」
デンがいるなら、ま、なんとかなるでしょ。黙って頷いてくれたし。
「そ、そこは、わしにだろ!」
「ダナン、アンタは止めを刺してくれればイイよ。アンタは追い足が無いでしょ?」
ぐぬう、と黙り込むダナン。別に、当てにしてない訳じゃ無いよ。
アンタはアンタの仕事をしな。
あたしはあたしの仕事をするよ。
「アオイ、その依頼、受けるよ」
「ありがとう……あれをもし倒せれば、2番目に状態の悪い患者も普通に平伏できると思う。討ち取った首を見せれば、多分大丈夫だから」
そりゃ、手間が省けていいね。
「わたしとミヨで、それぞれ祝福を掛けるから、結構闘えると、思いたい」
「あたしに任せときな」
そこは弱気になる所じゃない。
ニヤリと笑うと、そうだね、と笑顔で返してくれた。




