127.泣き言なんかイラナイよ。根性見せな
みんなが観ている前で泣いちゃったのが恥ずかしくって。
黄色いのと緑なのが、よしよしと慰めて。
やっと、落ち着いたらしい。
「今日は、止めておくか?」
「いや、やる。ちゃんとやるから……」
お父さんに優しく頭をなぜられて、子供じゃないと強がって言い返す。
「えっと、この人を、人族に戻します。酷い状態の二人は、最後にします」
4番目に状態の悪い女性だね。
深く眠る患者。気品のある顔立ち。20歳過ぎ、かな。スラブ系のけっこう美人。彫りの深い顔、肉感的な唇。淡いブラウンの髪。五角形の顔立ち。
生気のない顔色。呼吸をほとんどしていないように感じる。死んでいると言われたら、そう信じてしまいそう。
「イーシュ、分かってるわね。手強いよ」
「うん」
アオイは弟君に足元に行くように指示。
あたしとみーよに、頭側を任せた。
野良の緑色には、いや、名前あったなーあたし癒して貰ったなー、んと、ミドリちゃん、ミドリちゃんだ、には、全体にメディケーションを指示。
黄色い野良には、こっちの名前が全く思い出せない、まあいいや、が、他の患者の見守り係らしい。治療中に他の患者が急変した時に対応するのね?
マイアミはお役御免、じゃなくて、あたしの補助の取り押さえ要員。
ダナンはさらに予備の要員ね?
デンはおっかさんのお手伝い兼護衛みたい。
アオイとおとうさんが、頷き合う。
「始めます。青き清浄の調べよ……」
「青き清浄の調べよ……」
二人の声が重なり合い、奇跡を呼び求めると。
患者のスラブ美人が、例によってピクリと反応した。
目が開く。深く澄んだ青い瞳。
吸い込まれそうになるけど、すぐに汚い緑色に変色する。
目つきが鋭くなり、瞳孔が細くなる。
「イーシュ!」
「青き清浄の調べよ、我が手に破邪の聖なる青き光を!」
手をかざしながら、患者のお腹に青い光を当てようとすると。
スラブ美人が起き上がって拒否しようとする。
おっと、そうはいかないよ。
両手を取り押さえるけど、構わず起き上がろうとする。振りほどかれそう!
横からあたしの脇に女性の片腕を入れて、もう一方の手でロックする。
もう一方の手は、マイアミに任せた。
「お、おう……」
下手ねえ。それでも師範代?
ダメなら患者の背中に回って本格的に取り押さえるけど?
「い、いや、なんとか、なんとか……」
お父さんの鎮静が効いているらしく、まだ本気の力じゃない、と思う。
いや、それより、イーシュの青い光と、患者の中に潜むナニカが闘っているんで、こっちの方は後回しらしいね。
「姉さん、どう?」
「もうちょっと出力上げれる?」
「やってみる」
イーシュの額から、汗が噴き出してくる。
アオイの杖が、抵抗されているらしく、患者の胸に入って行かない。
と、患者の力が強まってきた。本格的に、ナカミが起きだしたらしい。
まずいね。
「暴れ出す。本気で抑え込む。いったん離れて!」
マイアミが振り落とされる前に、あたしもロックをいったん外して患者の女性の背後に回り込む。
拘束が外れて、アオイに飛び掛かりそうになるところを、腕に、首に、腹にがっちり腕を回して押さえ込んだ。
暴れる両足にもあたしの脚を廻し、絡めていく。
このまま締め上げれば、アナコンダ完成なんだけど。
ゆっくり、優しくがお望みなんだよね?
んー厳しいなー
「イーシュ、どう、イケル?」
「は、はい!」
あたしががっちり押さえ込んでいるので、イーシュが患者のお腹に、直接手を当てることが出来る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!」
凄い暴れっぷりだ、おとなしくしな!
患者が、ものすごい形相であたしを睨む。
オマエ ダレダ
はん、睨み合い?
アンタを殺す、絶対に殺してやるよ!
あたしの威圧にも、全然ひるまない。
「コイツ強い、聖光が入らない!」
「泣き言なんかイラナイよ。根性見せな」
イーシュを叱り飛ばして、こっちも殺気を強めてやる。
ニンゲンゴトキ トメル ムリ
はん、ザコが適当を語るなぁ!
「イクミ、そのまま締め上げな」
おっかさんの声。
「おっけ、ア ナ コ ン ダ ぁ !」
イーシュの手を払うように、患者の腹に腕を回し、そのまま大蛇の力で締め上げる。
彼女の骨がきしみ、息が上がるのを感じる。
けど。
彼女の肉がオークどものそれに代わり、ごつく固い肉に変質していく。
本格的に、覚醒したね。
でも、あたしの技が完璧に決まっているから、抜け出せないよ。
ヒリキナ ニンゲンフゼイガ!
何とか振りほどこうと藻掻くけど、藻掻いた分だけ締め上げを強めていく。
やがて、呼吸できるだけのスペースがなくなる。
顔がみるみる赤くなり、そして息が続かずに青くなる。
「マイアミ!」
「まだいける!」
ならばと、もっと強く締め上げると、ピクピクと痙攣し始めた。
「光の女神アーリューシャインよ、彼の者に慈悲の癒しを、ヒール!」
みーよが治癒を掛けて、援護してくれている。
彼女の腹の中のナニカが、苦しんで、出口を求め始めているのが分かる。
「吐くわ!」
さっと出された桶に、あ、デンなのね、首を突っ込ませると。
吐き出されそうで、嫌だと突っ張っているらしい。エグっエグっと震えている。
腹にあてた手を上向きに、圧をぐっと強めると。
こらえきれず、白くて汚い液体がごぼっと吐き出された。
身体の圧力が弱まる。
「このまま吐かせる? イーシュに任せる?」
「これなら吐かせてやんな」
「おっけ。聞こえる? 呼吸しよう、吸って、吐いて、吸って……」
聞こえているけど、意味は伝わっていないみたい。
拘束を緩めて、背中をさすり、おなかを刺激する。
おっかさんが口元に吸水器を当てた。
「吸いな」
患者が飲み始める。意味が分からなくても、素直に従ってる。
やがて、呼吸を始める程、回復した。
すごいね。あたしの声は届かなくても、おっかさんの声は届くんだね。
「息をしな。吸う、吐く、吸う……そうだ、それでいいよ」
おっかさんの合図に。
「もう一度吐くよ。苦しいね、頑張るよ。そら」
白い液体を吐かせて。
おっかさんがもう一度呼吸させて。
何回か繰り返すと、容態が安定してきた。
「イクミ、放してやんな。ルブラン」
「うむ。青き清浄の調べよ……」
お父さんの鎮静が効いて、彼女は再び、眠りに落ちていった。




