125.うん。転ばし放題だね
新章開幕。
翌朝。
いつものように外に出ると、アオイの弟君がちゃんと来てるね。
後は、愛弟子2人と、おまけも2人。
おまけその1が、コイツ誰だ、聞いてないぞと、あたしを見る。
律義な花束だけ、カンタには受け取らせておいて。
「今日から期間限定で預かることになった。青の教会の、んと」
名前、なんだっけ?
ぶははは、名前覚えてもらえないでやんの!
君が言う事じゃないだろう。
なにおう!
だってそうだろうが。
オマケ同士が、なんか睨み合ってる。
「いや、思い出した。イーシュ、よろしく」
「は、はい!」
げっもう名前覚えて貰ってんのか、俺の、俺の名前は?!
いやもうアンタ出番ないよ花束ありがと。じゃあね。
意図的に刺さってくる視線を避けて、シュランを手招きする。
「コイツがあたしの一番弟子のシュランだ。歳はあんたの二つ下?」
「13歳です」
「15歳だ」
だね。イーシュの方が一回り大きいね。
ま、あたしの方がまだまだ大きいけどね。
「シュランには、最低限のことは仕込んである。あんたが相手にする患者たちの、ちょっとガタイがいい奴と思っていい」
「はい」
「アンタの今の実力がみたい。シュラン、そこの地面に横になりな」
「はい」
「イーシュ、シュランを取り押さえて、両肩をもう一度地面に付けたらあんたの勝ちだ。シュラン、起き直って、逆にイーシュを取り押さえな。できるね?」
シュランが、一瞬、ためらいを見せる。
「ちょっと俺に不利すぎない?」
「素人とまともにやり合うつもりだったの? 自慢にも何にもならないよ」
「へいへい」
素直に横たわるシュラン。
「打撃は無しだ。じゃ、始めて」
あたしの合図と同時に、イーシュが横になっているシュランに飛び掛かる。
いい反応だね。
シュランも、すぐに起き上がろうとするが、イーシュの方が速いね。
もう押さえ込まれた。
「げっ、だからこっちが不利だと……」
とか言いながら、もう身体が入れ替わっている。
「あ、あれ?」
「はい俺の勝ち」
開始30秒どころじゃない。随分と上達したねえ。
「オーク化した患者だったら、アンタ死んでたね」
起き直るのを助けながら、少し厳しいことを言ってみる。
「まあ、普通の患者は武術なんて身に付いていないけど。身に付けていると体格差をひっくり返せるんだよ。そういうことを、教えてあげるよ」
「は、はい。よろしくお願いします!」
うん、理解が進んだようだね。
「今日は、あたしがアンタに直接手ほどきするよ。シュランは革ジャンを負かしてやりな。マイアミ、カンタを頼めるかい?」
「お、俺の名前ぇ!」
「任された」
アンタの名前なんか、どうでもいいよ?
「イラドさん、よろしくお願いしますっ!」
あら、シュランに覚えて貰えたのね。良かったね。
「よし、カンタ君、お相手仕る」
「はい!」
賑やかになってきたねぇ。
「よしイーシュ、まずは構えからだ……」
~ ・ ~
朝稽古のあと、食事をして、あたしたちは青の教会に向かう。
マイアミが、カンタの成長ぶりをとても褒めていた。
あたしもそう思う。アイツ、才能があるよね。
シュランは、革ジャンの体格差に苦戦していたようだけど、相手にはして貰えるようになってきたらしい。
普通に考えて、まるで歯が立たない相手なんだけどね。
二人とも、頑張ってるね。
横を歩くイーシュは、アイツらに比べると、まだまだヒヨっ子だね。
重心が上過ぎて足元が不安定。左右のバランスが悪い。挙動が見え見え。
うん。転ばし放題だね。
あんまり苛めないようにはしたつもりだけど、ちょっと“どんより”しているねぇ。
「あたし相手に最後まで立っていられたんだから、胸張っていいよ」
「最後まで、立たせて貰えませんでした……」
まあ、そうとも、言う。
「最後までヤル気だったじゃないか」
「そりゃ、まあ、そうですけど」
みーよ、いや、あたし手加減したよ、ホントホント、苛めてないよ?
「イーシュ殿、私も最初はそうだったぞ。あまり気にするな。イクミ殿が強すぎるだけだ」
「マイアミ、アンタは今でも立っていられないでしょ?」
「い、いや、これも修行、武の一環でな」
イイとこ見せようとして、ごまかしたこと言ってるんじゃナイワヨ。
そ、そうなんですね……と、目に希望が宿るイーシュ。
ま、ヤル気が保てるなら、なんでもいいか。




