124.そんなあたしでも、片隅でいいから寝床は欲しい
夕食の席で、マム院長に、シュランとアリ、カンタとリコットの写真を見せると、大層感動していた。
院長室に飾るように提案すると、一も二も無く頷いている。
ふふん、マムちんにもこの子たちの可愛らしさが分かるのですな。同士ですねぇ。
その後、真っ赤っ赤の付き人との聖戦を、主にカンタが熱弁してくれた。食べながら。
だからアンタは食べるかしゃべるかどっちかにしなってば。
ばーん、びゅーん、そりゃー、うわー、みたいな感じだったけどね。
言葉の端々に、僕もああいうことが出来るようになりたい! が伝わってくる。
まだ純粋なカンタは、そういう夢を見られる権利があるからね。
でも、夢を見るのが難しくなってきたお年頃の年長さん二人は、それぞれ思うところがあるらしい。口数が少なかった。
いきなりお貴族様に攫われて意識喪失って、そりゃビビるよね。
ホント、折角楽しい気分で帰る所だったのに。あの真っ赤、許せんわ。
それでもいつも通りに振舞おうとするところが、ん-けなげだねぇ。
で、リコットは、あたしに本格的に怯えちゃったかな?
かなりガチで本気出しちゃったからねぇ。普通の女の子にとっちゃ、そりゃ怖いよねぇ。
こりゃ、しばらくは懐かないというか、ずっとこの調子かな?
ん-寝床どうしよう?
もう一緒には寝れないだろうし、みーよにテント出して貰って外で寝るか。
警備だとかいえば、ごまかせるでしょ。
「聖女ミヨ。聖戦に勝利したということは、神格が上がったのですね?」
カンタの話を聞き終わったマム院長が、姿勢を正して問いかける。
お、子供たちも食べる手を止めて、聞き入り始めたぞ?
「はい、先生。恐らくあと二回ほど聖戦の機会を得られれば、神格に関しては逆転できます」
へえ、けっこう自信ありげ?
「みんな、付き人イクミの武勇が、光の女神アーリューシャイン様の栄光を高めたのです。怯える事無く、これからも普段通り接してあげてくださいね」
「は、はい!」
「はーい」
「……はい」
「判りました、先生」
あらん、空気読むねえ先生。
反応は、みんな微妙に分かれたねぇ。カンタが一番元気だね。アンタ本当に物おじしないねぇ。
リコットは、仕方なくというか、微妙だよね。
アリちゃんは、もっと微妙なはずだけど、何も言わないんだね。
こういう時、子供たちのまとめ役はシュランなんだね。うん、頑張れ。
で、ちびちゃんたちがマスコット役というか、何も考えてない、ただただ可愛いだけだねぇ。
ま、先生がそう言ってくれるなら、寝床探しはしなくて良さそうだね。
~ ・ ~
なによぉ先に呑んじゃって自分たちだけズルイ、と言いたいのは分かっております。こちら先生の分ですよ、先ほどお出ししたより、もっと高級なウイスキーです。
ホントかどうかは確かめようがないけど、院長室で先生の晩酌のお供をして。お酒がさっきより数段旨くて、本当にこっちの方が美味しいわ、と言ったら、マムちんがさぞ満足そうな顔をして。
子供たちのスチルを院長室の机に置こうか、壁に飾ろうか、そんなツマランけど面白い議論を交わして、でしょでしょ、イイ写真でしょ愛がこもってるでしょなんてステキなんでしょとか、でしょでしょ話をして。
マムちんに、満足に健やかにお休み頂いた。
女部屋に戻ると、アリとリコットに、ジトッと睨まれた。ちびちゃんたちはもうぐっすりと寝入っている。
あれ、なんだっけ?
あたしが怖いから、一緒に寝るのがやっぱり嫌なんだっけ?
まあ、いくらマム院長に言われたって、怖いものは怖いよね。
ゴメン、やっぱ外で寝る……
「あ、あの、寝る前に、シャワー浴びたい……んですけど……」
あ、なんだ、そっち?
あたしに言われても、って、ちょうどみーよが来た。
「ごめんね、遅くなって。シャワー室の事なんだけど……」
え、もしかして、使えないんですか?
ビクッとする女の子たち。
「さっきの聖戦で、わたし、また評判が上がったみたいなの。公開の聖戦なので、人々の認知度が大きかったからね」
「はい」
「それで、シャワールームは、多分、ある程度固定、ん、実体を固定、んん、えっと……」
言葉を探すみーよ。結構珍しいね。
「メンテは必要だけど、出しっぱなしにできそうなの」
「!」
女の子たちが目を瞠っている。
「どの辺がいいかしら? 部屋の角でもいい?」
うんうん、何でもいい、と、顔に書いてある。
出しっぱなしって、いつでも入れるって事?
ホントに?!
それは確かに便利だね。でも大丈夫なの?
「この教会の建物の中限定だけどね。郁ちゃんが、ここを自分の家だと認識したので、付き人への恩寵の一部と見なして頂けるみたいなの。教会外部の補修も、かなりの寄進と見なされてるわ」
手短にあたしに説明すると、みーよは部屋の隅、設置予定箇所の前で両膝をつき、屈み込む。
深く祈り、感謝の詠唱を捧げていると、杖が光り、シャワールームが形になっていく。
「はい出来た。わたしがいない時は熱源が使用できないので常温の水しか出せないし、身体を洗い終わった排水も、自分たちで外に出さなきゃならないけどね。どちらも、ある程度は貯めておけるし、定期的にメンテナンスすれば、問題ないよ」
うんうん、こくこく。
よっぽど、使いたかったんだね。
みーよが使い方をレクチャーしている。手動ポンプで天井のタンクまで水を押し上げる仕組みらしい。
排水は床下のタンクに溜まるので、定期的にホースで抜き取って捨てなければならないみたいね。
「初回の分は今すぐ使えるので、もう入れるよ」
うわぁ、キャッキャしながらアリとリコットが中に入る。
照明だけは自動で点灯するみたいね。使っている事が外からでも分かる。
「喜んでもらえて良かったよ。ずっと気にはしてた」
まあ、そうだね。オーク討伐の遠征の時とか、もしかしてだけど、あたしが寝こけてた時とか。
シャワールームって、もしかしなくても、あたしがいないと出せない、んでしょ?
晩酌セットも、キャンプ用品も、あたしのため、なのよね?
他の方々は、ただのお相伴なんだよね?
みーよは、最初から、そう言ってたもんね。
「お、お湯が出るよ!」
「タオルもあるの!」
シャワールームの中から、歓喜の声。
そうか、あたしがいるからバージョンが上がってるのね?
やがて、ニコニコしながら寝巻姿で出てくる女の子たち。
「消さなくていいから、好きに使えるよ。どうする? 先に入る?」
「じゃあ、お先に」
シャワールームは、確かに今までのものと同じだった。
普通に寝巻もあるし、タオルもある。
あたしたちが不在の時は、ちょっとだけ不便かもね。
でも、あるとないとでは全然違うね。
うん、快適快適!
サッパリしてポンチョにお着換えしてシャワールームを出ると。
アリとリコットの、あたしを見る目が、空気が、緩くなっていた。
シャワーで洗い流されたのか、制服という戦闘服を脱ぎ捨てたからなのか。
まあ、どう見られてもしょうがないけど、あたしは闘いの中で生きる女だからね。その辺は、もうどうしようもないね。
そんなあたしでも、片隅でいいから寝床は欲しい。
もうすっかり寝入っているちびちゃんたちの匂いを嗅ぐと、あたしもスッと眠りに落ちる。
そんなあたしの周囲で。
彼女たちはあたしをまるごと包むように、一緒に眠った。
(つづくっ!)




