123.マイアミ、なんでも知ってるんだね
ダナンが、こんな美味い酒は飲んだことがない! と滅茶苦茶感動していた。
マイアミも、しきりに感心している。
こりゃ、真っ赤っ赤の付き人との聖戦の話は、後にした方が良さそうかな。
みーよ、コイツらにこんなイイ酒飲ませたら、朝も夜も入り浸りになっちゃうんじゃないの?
とか思いつつ、あたしもグラスを傾ける。
今日も色々あったし、こういう時は旨い酒と旨いツマミに限りますなぁ。
「酒が美味すぎて、要件を忘れてしまいそうだわい」
「なーによ、改まって」
「暇になったらでいいんじゃが、お前たち、迷宮に興味はないか?」
「なによ、仕事の話なの?」
「うむ」
あーダナン、なんかそっちが専門だとか、言ってたね。
あたしらの夕食の支度を始めているアリちゃんが、聞き耳を立ててるのが分かる。稼いできてね? だよね。
どっかヘンな所に行って、変な時間に帰ってきて、ゴロゴロごろごろしてる。
で、突然ドバっと稼いでくる。
うん、アリちゃんの目から見れば、この人たち一体何なのって思うよね。
分かるよ。そういうもんなの。荒くれどもの巣窟、冒険者って職業はね。
「結構深く潜るようになったんじゃが、ちと詰まるようになってきおってな。単純に火力が足りないんじゃ」
「それはアンタがヘタレなだけでしょ?」
「なーにをいうかーワシじゃないと、あそこまでは潜れんぞ」
「あなた一人で潜っているわけではないでしょう」
少し呆れた声のマイアミ。
「大きくて硬い魔物は彼の専門なので任せているのだが、小さくて素早い奴らが押し寄せると、デンだけでは捌き切れないのだ」
「で、あたしの出番ってわけ?」
「軽戦士と、本職の聖職者が足りない。欲を言えば魔法使いが欲しいが、マクロン閣下はご自分が行きたくない迷宮なので、我々と契約を結んでいるのだ」
ふーん。まあ、あの閣下が自分で地下に潜っていく姿は、あんまり想像できないね。
「迷宮への行き帰りは、固定の転移陣が設置されておる。潜る日数はそちらの都合でかまわぬ。契約なのでな、迷宮からの取得品が少ないと、契約解除されてしまうんじゃ」
「なーによ。そっちの都合だけじゃないのさ」
予定と日数はこっちの都合でいいって言われてもね。
「潜るための備品を、わたしたちで準備しろ、と?」
ん? そっち?
なによ、にへへって笑っちゃって?
「アーリューシャイン様の付き人への恩寵は、本来は付き人のためだけのものですよ?」
「ほほう、今、現に、こうして吞んでおるが?」
ダナン、交渉もするんだ。へえ。
みーよに、ねえ。
「あら、たった今奇跡の力が失われましたね。片づけましょうか」
「ちょ、ちょっと待たんかぁ!」
みーよは小首をかしげて、とぼけた顔でダナンを見る。
「一日、一人に付き、金貨1枚」
「た、高いわぁ!」
「そうでしょうか? では、このお話は、無かったことに……」
また、テーブルに並べられたお酒たちを片付けようと。
「ちょ、ちょっと待てぇ。そう急ぐな」
「話は、最初から詰めておきなよ。ってかダナン、アンタ頭を回す役割じゃないんでしょ?」
あたしも同じだけど。
「う、うむう、そうなんじゃが……」
ちらと、マイアミを見る。
あら、交代なのね?
「本人がやってみたいと言い張るのでね。失礼した」
本命登場ね。
「どこまで頼める?」
「付き人と同じレベルの待遇は、お約束できます。共に深部へ、アーリューシャイン様の光を輝かせるのですから、量の面では問題無いか、と」
「ふむ。こちらは、迷宮への行き帰り、迷宮からの通常の帰還スクロールは無償提供する。緊急脱出時は、街への転移陣スクロールも保険として無償で負担しよう」
街への転移陣スクロール……なんか、マクロン閣下がお店で、大金貨10枚とか言ってたヤツ?
……持ってんの?
へえぇ、おっかねもちー!
「取り分は人数割りではなく、そちらの教会分として半分渡す。別に、迷宮での飲食と休息の代金として、そちらの言い分を全て呑む」
「3人分、一日金貨3枚で、宜しいのですね?」
「構わん。約束する」
「ちょっと待てぇ。稼ぎが無かったらどうするんじゃ?」
「その時は、赤字だな。どっちにしても、マクロン閣下から契約解除だしな」
乾いた笑みを浮かべるマイアミ。
結構大変そうだね。
「そっちは、いつがいいの?」
「早いに越したことは無いが、青き清浄の調べ教会の件もあるだろう。明日も手伝いにいく。人手はある程度いても良いのだろう? ダナンとデンも向かわせる」
「あぁ? わしか?」
「恐らく、侵喰の酷い二人は、葬還になるだろう。だが、もしかすると、硬い殻を打ち壊すために、お前の戦斧が必要になるかもしれんぞ」
「けっ」
仕方ないな、というダナンの顔。
「マイアミ、なんでも知ってるんだね」
「そんなことはないのだがな。あそことも、付き合いはそれなりに長いのだよ」
そういうもんですか。
夕食なんだけど、トルモルト教会関係者の方々は、さすがにお帰り頂いた。
デンはまだ残りたそうな顔をしていたけど、我慢なさい。こっちは補修の職人さんたちの夕食の支度もあるの。余裕無いの。
でも、手伝ってくれてありがとう。アンタやっぱり出来る子デンだわ。




