121.イイよ、もう一回やろう。何度でもやろう。これ楽しいわー!
あら、茫然としてるのは、縦ロールちゃんも同じなの?
つかつか近づくと、震えた様子で御者? 執事? が行く手を阻む。
軽く手で押しのけて。あらん、倒れるんじゃないわよ。手加減してあげたでしょ?
「まさか、負けるはずなんてないとか思ってた、とか?」
反応が、無いわね?
「イイよ、もう一回やろう。何度でもやろう。これ楽しいわー!」
だってまだあたし本気じゃないもん。本気出させてよー!
「こ、こ、この猿娘がっ!」
ようやく、憎々しげに口を出してくる赤い子ちゃん。
「あの侍女たちじゃ、話になんないわね。他に強いのいるんでしょ?
あたし、本気で殺し合いたいの。まだアギト・ナイフさえ振り回してないのよ? 分かるでしょ?」
な、なんだコイツ、みたいな目で見つめないで。照れるじゃないのさ。
「ルール分かんなかったから遠慮したんだけど、これじゃ次からは開始30秒瞬殺なの。あの侍女達じゃ弱すぎて話になんないのよ。
……シロウトにはワカンナイか」
後ろから、肩を叩かれた。何よ、今、とってもイイ所なのに。
げっ、みーよだった。
「付き人が、大変失礼致しました。聖戦を受けて頂き、誠に有難う御座います。聖約に基づき、青き清浄の調べ教会のアオイとイーシュの付き人誓約を御認め下さいますよう、重ねて申し添えます」
慇懃無礼が服着てご挨拶しているような、すっごく丁寧なお言葉。
うわぁ、この真っ赤な娘、すごく悔しそうだけど、なんにも言えないでいる。
目に涙が、今にも溢れそうだね。
「お嬢様……」
お、侍女登場。あたしにビクつきながらも、お嬢様のお世話をしなきゃならないのね?
お仕事大変だね。
「こ、こ、この愚か者が!」
あらん、扇子で引っぱたいてる。ダメよ、そんな八つ当たりは。
「お、お前たちが負けなければ、妾は、妾は、こんな恥さらしな思いなどせずに済んだのじゃ。そうじゃ、悪いのはお前たちじゃ! 妾は何も悪く無いのじゃ!」
「仰せの通りで御座います。大変、申し訳御座いませんでした……」
侍女二人、深々と、それはもう深々と頭を下げている。
「爺! さささ、さっさっと帰るのじゃ。妾は大変不愉快なのじゃ!」
「は、ははっ!」
キイッと涙目であたしをもう一度睨みつけ、馬車に乗り込むお嬢様。
一緒に乗り込む侍女たちに。
「アンタらも、大変だねぇ」
せいぜい、同情してあげたけど。あたしの方を振り返ろうとはしなかった。
細かく、震えていた。結い上げた髪の下から見えたうなじが、朱に染まっていた。
赤いじゅうたんが巻き上げられ、二頭の馬に引かれた豪華な馬車が、騒々しく帰って行った。
街の人が、じっと、じいっと、見送って。
姿が完全に消えた、後。
「うわああああああぁ!」
「かったああああああ!」
「ざまあ、は、まずいか」
「やったあああああぁ!」
どこに潜んでいたんだって位の大勢の人たちが、わらわらと大通りにあふれて来たよ。
「凄かった!」
「すっきりした!」
「さすがオーク・キラー!」
「強すぎる!」
「かっこいいっ!」
口々に、そんなに褒められてもねえ。
かかってきた火の粉を、払っただけだからね?
みーよが、杖を掲げて、みんなの声援に応えている。
あたしも、両手を掲げて、同じように声援に応えておいた。
公開格闘戦だからね。
多分、みーよがオラクルの大聖女になるために、必要な事なんだろうね。
ようやく熱気から解放されて、子供たちの心配ができるようになる。
すでに気が付いているアリちゃんも、シュランも、身体は大丈夫そうだ。
買ったばかりのお洋服が破れていないか心配だったけど、こっちも大丈夫みたいね。理力? で持ち上げて運んでるから、その辺は手荒な真似をすることはないのかしらん。
「俺……」
「あれはしょうがないよ。ただ、あたしはああいう時、みーよを守るので手一杯だから。君らは正直、見捨てるよ」
「い、いえ、分かってます」
自覚が足りない、と反省しているシュラン。
ま、責めるつもりは無いよ。あれは初見じゃ無理だし。
「イクミねーちゃん、いや、師匠、凄かった……あのぶわーってのに、当たんないのね」
あーぶわーね。
はい、ここに撃つよって、向こうが言ってるからね。
「ホントに勝っちゃうんだねぇ……」
少し呆れた顔の、みーよ。
ん-思ってたより、弱かったよ?
ただ、このルールでシュトルムとかがアレの付き人になって勝負となると、かなり厳しいかもしんない。
こっちのバリアとか加護とかって、多分当てにできない弱さなんだとしか思えないんだよね。一発当たったらオシマイ、なんだよね、多分。
みーよが争いを避けたがるのも、なんかワカル。
でも、全力出してイイっていうのは、気に入ったわ。
「あの、助けて頂いて、ありがとうございました」
まだビビっている、アリちゃん。
「うん、怖かった……」
まだ震えている、リコットちゃん。
「うん、突然だったし、怖かったね」
二人とも軽く抱きしめてあげると、落ち着いたみたいね。
ゴメン、その辺は、あたしの認識不足だと思う。
無理なもんは無理だけど、来ると分かってさえいれば、もうチョイやりようはあったと思う。
「聖女になるなら、こういうこともあると、覚悟はしておいてね」
「は、はい……」
そうだね、そういう覚悟も、大切だね。




