120.スプラッシュマウンテーン!
「聖約は成立した。皆の者、刮目して観るがよい! 本当のオラクルの大聖女とはどのようであるべきか、その目に焼き付けるがよい! アポロニア・ブレス!」
縦ロール姫が、両手を掲げて叫ぶ。
みーよも、同時に杖を掲げて叫んだ。
「光の女神アーリューシャインよ、あなたの信徒に勇気と祝福をお与えください。シャイン・ブレス!」
あたしの身体を、白い光が包み込んだ。身体から、力が湧き上がってくる!
縦ロールの側に仕える侍女二人にも、赤い光が包み込んでいる。
でも、向こうの光の方が、なんか強そうなんですけど。
「加護の光が全て失われると、聖域から弾かれて負けるの。なるべく、相手の攻撃を貰わないでいて」
おっけー!
「本気でいいのね?」
「殺すつもりでいいよ。武器は全部使っていいし、持てる力は全部出し切っていい。聖域では、加護が消えたら退場するだけだから、命は消えない」
あらん、随分とヌルいのね。
お相手はあの侍女二人。命令だからしょうがないんだろうけど、よくもアリとシュランを攫ってくれたわね。しかも、ゴミみたいに地面に落としてたわね。
思い知らせてやる。
自分たちが何をやったのかを。
触れてはいけないものに触ったのだということを。
徹底的に、絶対的に、身体と精神に叩き込んでやる。
あたしの髪が逆立つのが、自分でも分かる。
全身の筋肉が膨れ上がり、熱を帯びるのを感じる。
横で、カンタとリコットが怯えるのが分かる。ゴメンネ。
「聖戦は成立した! 聖なる領域よ、顕われ示せ!」
「聖戦は成立した! 聖なる領域よ、顕われ示せ!」
縦ロールとみーよの声が合わさり、大通りに不可視の透明な空間が現れた。
縦横20m位。高さも同じだと思う。多分、透明な壁は固定されてるんだろうね。押し付けると、場外に持って行けそうな気もするけど、壁に固定技を掛けれた方が戦いやすそうだね。うん、どっちでもいいや。
左手に石を3つ。右手にスリング。
掴んだまま、領域内に入る。
向こうの侍女二人も、静々といった風に、入ってきた。
戦闘開始のゴングって、あるの?
あるんだ。
鐘の音と共に、あたしはスリングに石を仕込み、先制攻撃を掛ける。
この距離はもう外さない。精度100%で狙った所に当てられる。
殺す気で放った石は、右の侍女の1m手前位で何か硬いものにでも当たったように、粉々に砕けた。
バリア、らしい。
お返しとばかりに、二人が腕を伸ばし、あたしに指を差した。
来る。レーザーっぽい。
右下に飛び込んで地面を前転。
上方に、なにか掠めていった感覚。
さっき、アリとシュランを攫ったナニカだ。
思ったより口径がデカい。ロックオンされてからの回避が、けっこう微妙かな。ピストルじゃなく、散弾銃な感覚だからね。
転がりながらスリングに次弾の準備。
左に飛び跳ねながらセット完了、即射出。
バリアに防がれるのは承知の上。
接近戦の間合い迄、あと10m。向こうの飛び道具を考えると、近づかないと勝機はないわね。
案の上、石がバリアで砕かれちゃった。
左の侍女が、腕を振り上げる。手の形が手刀。そのまま振り下ろしてくる。
距離関係なしの、斬撃だ!
直前まで見て、半身回して避ける。
刀身が見えないのが厄介すぎるけど、圧力はスゴク伝わる。
てか、地面の石畳が裂けてるんですけど! どんだけの威力よ!
1、2、3歩走りつつ、次弾装填。突っ込むとみせて急に止まる。
その勢いに任せて、スリングに容れたままの石を叩きつける。
侍女の周囲1mで弾かれた。でも、砕けない。
手放したものは砕けるけど、掴んでいるものは大丈夫なのね?
そのまま右に振り、弾かれた反動で左にも振り回す。
バチバチと、見えない障壁が音を立てて火花を散らしている。
みーよの光の障壁と同じ種類か。
って事は、攻撃を加え続けると壊れるのね?
で、身体を直接覆う赤い光というか、身体を直接攻撃出来れば、退場させられるのね?
分かってきたわ。
で、攻撃を連続で仕掛けている間は、こっちの侍女は動けないのか。反撃も出来ない感じかもしれない。バリアの維持で精一杯かな?
でも、もう一人いるんだよね。回り込んで、腕を伸ばし、あたしに指を刺している。
来る!
地面にゴロンと転がって、回避する。
あたしの攻撃が止んだことで、いままで守勢だった侍女も、見えない斬撃を加えてくる。
おっと、ヤバイヤバイ!
地面ごと薙ぎ払うように振るってきたので、空中に逃げざるを得ない。
となると、もう一人が、狙い撃ちだよねっ!
空中ヒップボンバーで移動してかわす。
もう一人が斬撃であたしを狙ってきてるのが分かるんで、今まで散々振り回してきたスリングを射出して牽制する。
バリアで石が粉々になったけど、その間は攻撃できないっと。
着地したあたしと、侍女二人が、再び向かい合う。
ふーん、お前たちの攻撃方法、大体分かった。
腕を伸ばし、指を差して、狙って、構えて、打つ。
“散弾銃”だね。
で、他の手段として、手刀でどこまでも届く“斬撃”攻撃だね。
しかも、視線が届きさえすれば、遠距離でも効果はそのままってとこだね。
で、ペアなので、お互いにカバーできるから。
一人が牽制、一人が本命の攻撃でいるとか。
一人が攻撃、一人が防御兼牽制を担うとか。
バリエーションが豊富。変幻自在。まさに無敵のペア。
そういうことなんだよね?
無敵かぁ。
あはん、ゴメンね。
あたし、正真正銘の“絶対無敵”なんだわ。
アンタら程度の相手なら、マッチメーカーで散々蹴散らしてきたの。
そもそも、アンタらの武装も防御もスゴい上級なモンだけど。
肝心の“パイロットレベル”がまるでなってない。
はっきり言って、少々出来のいい“CPU”程度でしか、無いね。
あたしの前には、オモチャ同然。壊してもいいんでしょ、コレ。
フン、本物の銃じゃなくて、良かったわね。
もしそうなら、もうとっくに殺してたけどね。
だってそうでしょ?
そっちが躊躇い無く撃つつもりなら、自分も躊躇いなく殺されても文句無いんでしょ?
あたし、そうできる、力があるよ?
ま、お貴族様のお付きの方々、ということなので、それなりに遊んで差し上げましょうか。
二度と逆らう気を起こさない、程度にね。
ちっとも当たらない自分らの力場レーザー(ん-もうちょい観察したいかな。多分フィールドを絞ってレーザー化してるんだと思う)の連発を止めて、あたしの様子見を始めたらしい、侍女二人。
二人並んで、左右を分担して警戒。
右側の侍女が右手。左側の侍女が左手。
揃って伸ばされた左右の手が、まっすぐな気持ちを込めてあたしに狙いを付けている。
ん-力を溜めて、しかもペアで放つような必殺技? な雰囲気でもないんだよね。
そういうの、当たらないって学習したと思うんだよね。
したよね? 所詮CPUみたいなもんでしょ?
してくれないと、メンドクサイんだけどね。
一応、確認しとくか。
CPUには分からない、不可思議なダンスをしてみる。
パラパラでいいや。
これに反応して撃ってくるようなら、弱い人間。
バカは撃たない。だって、なにやってんのか分かんないんだもん。
強い人間は、トークとかで様子見。
もっと強いと、ん-分かんない。コッチが様子見をさせられる。(か、恥ずかしくなる)
ホレホレ、スキだらけだぞ。撃ってコイコイ。
あたしのパラパラに、反応しない。
トークもなし。ってか、元々、バトルが始まってからは一言も無いもんね。
“お嬢様”には口うるさくマナーがどうこう言ってんのにね。
あたしも一応“お嬢様”なんだけどなー
ま、初心者だけど、成り立てだけど、さ。
うん、反応ないなら、バカ100%だね。
スゴク強いの可能性は、無いわ。もしそうなら、最初っから、もうちょっと考えた戦い方をするはず。
もちろん、この世界では強い方一択なんだろうけど、アンタらはあたしと戦ったことは無い。
ハメ技を持ってるあたしに初見の対戦なら、アンタらの勝ち目は0%だね。
そういうことで、ごめんネ、様子見とかもう十分だわ。
さっさと叩き潰す!
真正面から、低く一気に駆け出す。
侍女たちが狙いを付けて、構えて、撃つ!
ん、手の形が刀。これ、散弾銃じゃない、十文字槍だ!
撃つ、じゃない、突きだね!
でも、タイミングもコースもバレバレなので、ギリギリまで引き付けてから、右にローリングしてかわす。
追尾してくるのは承知。1回、2回転後に上に跳ねる。
十文字槍レーザーが追ってくるけど、大丈夫、もうかなり減衰してる。
ついでに二人が同時の動きなので、左側の侍女の腕の追尾がお仲間に隠れて追い付かない。
足を振って自分の回転の軌道を変えつつ、お尻を突き出して、さっきやったみたいに空のヒップアップボンバーを一発。
当たらなくていい。空中で起動と推進力を得るためだけの技。
でも、空中突進かとビクついてくれちゃった。もうけもうけ。
んじゃもういっちょ、空撃ちの後ろ廻し蹴りで空中での移動を確保。
こっちも蹴られるとビクついては、くれないか。
まあいいや、空を渡って、はい、右側の侍女の目の前に着地っと。
左の侍女は右のお仲間が邪魔で、攻撃に参加できないね。
回り込む方向と同じようにあたしも身体を廻しながら、右側の侍女が張り巡らす力場障壁へパンチの連打を加えていく。
効かないのも届かないのも分かってる。
そう、思ってるんでしょ?
ただ、こうやって攻撃されている間は、力場を全部防御に廻さなきゃならないから、自分から攻撃ができない。
相方の侍女は、回り込まなきゃならないけど、あたしも同じ方向に回り込んでるから、届かない。
だから、一度離れないとダメなんだよね。
知ってる。
一方的な攻撃なので、反撃は出来ない。反撃は相方任せ。
で、そこにスキができるんだよ、ね。
なんにも、分かって無いんだよ、ね。
格闘家には、防御貫通の技があるって事を。
そのわずかなスキの間に。
パンチの連打の動作に組み込んで。
左脚起動、右脚も練り込んで添えて。
腰を回し、背中の筋肉から滑らかに力場を伝え。
肩、腕、肘、手首、指の先まで。
体重をうねらせて、貯めて、溜めて、諸手突きで一気に放出。
「“螺鈿!”」
あたしの力場を相手の放出する力場の斜めに、相手の身体ではなく、翼をはためかせるかのように。
羽ばたきで風を起こすかのように。
揚力を発生させ、その方向は、お相手自身に向けられている。
発生した力場を重ね合わせて、超濃厚な力場を瞬間作り出すのが、螺鈿。
アンタの力場バリアー、あたしの力場も加えて、そのまま返してあげる!
「アっ!」
なんか、悲鳴みたいなものが聞こえた。
そのまま目に見えない力にモロにぶつかって、すごい勢いで吹っ飛ばされた。ざまぁ。
ただ、コッチもすぐには動けない。コレ、反動がキツいんだよね。
撃ち放ったままの両手を身体に引き寄せ、深く息を吸い込む。
“息吹”
空手の技の一つ、ま、回復手段ね。
回り込んだはずの、もう一人の侍女に向けて、一気に息を放つ。
「せいっ!」
まだヤんの?
視線は外さず、構えは解かない。
ま、いきなり急には動けないんで、多分にハッタリなんだけどね。
反応は、警戒っと。案の上、知らないんだよね、こんなの。
お、吹っ飛んだ方の侍女が、起き直ろうとして藻掻いている。タフだなぁ。
そちらにダッシュを仕掛けると、もう一人の侍女が、援護行動を取った。
だよね、知ってる。
でも、あたしの本命はアンタ自身って事は知らないんでしょ?
だって、お仲間からの援護は、倒れている今なら来ないんだもんね!
バリアに構わず、侍女の身体に抱き付く。
バリバリいわれたけど、無視して突っ込んだら、あっけなく砕け散った。
やっぱり、直接だと、バリアは効かないんだ。
「おのれ無礼な!」
お、しゃべった。
手を拳に握って、殴りに来ようとする侍女。
多分、攻撃方法が変わるんだろうけど。
もういいや、密着すれば関係無いもんねっ!
左ジャブにプラス、目元に指先を3回叩き込む。
加護の赤い光が弾けてる。効いてるね。
右ボディブローを叩き込んで動きを止め、肩と腰を掴んでピッチャーが投げるような動作で、不可視の壁を目がけてぶん投げる!
赤いエフェクトがキラキラと眩しい。効いてる効いてる。
軽い、よく飛ぶ、で、壁にぶつかって弾んだ。
当然、スーパーダッシュで近づき、畳みかける!
おっしふらついた!
頭を鷲掴みにして不可視の壁に叩きつけ、腹に膝蹴りをぶち込み、もう一度腰を掴んで不可視の壁に叩きつけた。
まだ生きてる? 生きてるのかー!
頭が下になったんで、不可視の壁を目がけて蹴り飛ばす!
こんだけやっても、ドレスとか破けないのね。変な仕組みだなぁ。
その代わりに真っ赤なエフェクトが盛大に光り輝いてるけどね。
彼女の両足を掴んで高く跳ね、全体重乗っけて、本気で殺す気であたしの両足の間に挟み込んで地面に叩きつける。
スプラッシュマウンテーン!
ぐしゃ、という手ごたえ。
同時に、侍女の身体が赤い光と共に全て消えていく。
ふう、よーやく一匹仕留めたね。
起き直り、向き直ると。
あらん、もう一匹の侍女、ガタガタ震えてるわ。
だからって、許してなんかやんないもんね。
お前らが可愛いアリちゃんと愛弟子のシュランにしでかした罪は、万死に値するんだもんね。
ひい、とか言いながらだと思う、不可視の大砲をぶっ放したんだろうね。
お手手がパーの形だったから。しかも両手で。
そんなのあるなら最初から使いなさいよ。
でも、大体の仕組みは分かった。
ここ、ホント何でもありなんだね。
大きく息を吸い込み「わあああああぁああっ!」と叫んでやると。
不可視の大砲と相殺されたよ。
なにそれって怯えた顔しても、ダメだよ。
アンタの相方は、散々ぶん殴って散々投げ飛ばしたけど、かなり頑丈で壊れなかったねぇ。最高だねぇ。
アンタは、そうだね、散々切り刻んで、ギッタギタにしてあげるよ。
コイツで、ね。
アギト・ナイフを引き抜き、刃先をペロリと舐めると。
侍女が、ぺっしゃん、と地面に腰を落とした。
なによ、なんて顔してんのよ。そんなに怯えなくてもイイじゃない。
ま、まさか、降参するんじゃないでしょうね?
こんな素敵なオモチャで遊べないなんて、許さないわよ?
あ、消えそう、コラ待てぇ!
あたしの願いもむなしく、彼女は光の中に消えていった。
~ Victory! ~
空中に、勝利の表記が浮かび、不可視の壁が剥がれる感覚がした。
何よ、もう終わり? しょぼいなー




