118.んースゴク可愛く撮れてるんですけどっ!
院長先生とちびちゃんたちにお留守番をお願いして、子供たち用に新調した洋服を受け取りに、街の中心部に向かう。
途中で、今やっているお仕事の内容をアリちゃんに聞かれたけど、んー子供に言ってもいいもんかしらん?
「オークたちに捉われていた女性たちの心を、元に戻してあげるお仕事よ」
代わりに、みーよが応えてくれた。
あたしに任せると、危ないとでも思ったかもしんない。正解かもしんない。
「心?」
「そう。ひどい目に遭って、絶望している心を戻してあげるの」
「ひどい目……」
アリちゃん、ちょっと考えて、あら、思い当たっちゃったのね。ゾクッと震えたわ。
リコットはなにそれーなのね。アンタはまだそれでいいよ。
「わたしたちの信奉するアーリューシャイン様は、穢れたことが苦手だから、本来は向いてないお仕事なんだけどね」
微妙に話を逸らすというか、柔らかくぼかす、みーよ。
「郁ちゃんが、気になるというか、気に入っちゃったんだよね」
あれ、アリちゃんがジトッとあたしを睨む。
余計なことしてぇ、ですよね。
あれ? あたしってスゴイ人なんじゃなかったの?
ま、それはそれ、これはこれ、か。
「ま、彼女たちを直接助け出したのは郁ちゃんたちだからね。気になると言えば、しょうがないよね」
あ、そうか、みたいな顔になったね、アリちゃん。
うん、そうだね、そういうことにしといてね。
「でも、アーリューシャイン様にも、良い影響があると思うよ。だから郁ちゃんは、間違ってはいないよ」
そうそう。いいこと言うねぇ。
「もしも違う方向に行ったら、ちゃんと手綱を絞るから、安心してね」
んげ、持ち上げてから落とすのやめてー!
~ ・ ~
1週間前に来た洋品店は、相変わらず適度な込み具合だった。
今日は荷車を持ってこなかったので、そのまま店内に入る。
前回、相手をしてくれた、お金持ってると分かると紳士な対応をしてくれた店員さんが、あたしたちに気づいて応対してくれる。
品物は出来ている。一度着て貰って、細かいサイズ調整をしてみたい。
でも、何日か着てみて不具合があるようなら、対応します、だって。
丁寧だねぇ。かなり丁寧だね。
これは常連さんになって貰えそうだと、判断されたかな?
「凱旋パレード、拝見しておりました。素晴らしいお姿でした!」
おっと、そっちか。
でしょでしょ、自慢のお姉ちゃんたちなんです、と花開く笑顔の子供たち。
あら、店員さんも分かる分かると、意気投合してるね。
「ささ、こちらへどうぞ。お二方にはお茶をご用意いたしますので、こちらに」
子供たちを更衣室へ、あたしらはラウンジへ。
お貴族様をおもてなしするような、品の良い調度品の応接室で、香りのよい紅茶を飲んでいると。
次々に子供たちがやってくる。
シュランはサックスブルーの長袖シャツに、濃いネイビーのベスト、同色同品質のスラックス。チャコールブラウンの革ベルトで締めて、同じ素材の濃茶の革靴。淡い赤の蝶ネクタイがいいセンス。ハンチング帽も、ベストやスラックスと同じ素材だね。
正直、見違えた。どこのお店の若旦那でしょうか?
「ど、どう? 似合ってる?」
そっか、洋品店なのに、鏡が無いのかー
そういう世界だもんね。
「さすがの出来栄えだと思うよ。いいお店だね」
「ホントに?」
疑わしそうなシュランに。
「自分で見てみたら?」
みーよが杖を振るって。
姿見用の鏡を出してくれた。
「えっ、えー!」
なによそんなに驚くような事でも?
あら、店員さんもビックリしてんの?
「付き人用の奇跡ですので」
と、すました顔のみーよ。
落ち着いたらしいシュランが、鏡に映る自分を見て、ゲッという顔から、あれ、俺ってかっこいい? から、ポーズまで取り始めちゃったね。
「ミヨ様、いかがでしょうか……?」
今度はアリちゃん登場。
白の長袖のワンピース。首元には控えめな花の刺繍。スカートのひだには、細やかな刺繍の小さな花が満開を思わせる仕方で咲いている。
その上からシュランのワイシャツと同じ色の、サックスブルーのカーディガンを羽織って。
こちらも相当なお嬢様。清楚なイメージのアリちゃんにスゴク似合ってるね。
サンダルだけは、太い皮で編まれたゴツゴツタイプ。現代のポリマーコーティングされた舗装路なら、ハイヒールとか履けるんだけどね。お貴族様は、地面を歩いたりしないので、そういうのも履けるかもしれないね。
なんか、領主の娘だとかいう自称聖女も、真っ赤なハイヒールだったと思う。馬車の前に真っ赤なカーペットが敷かれていたから履けるんだよね、アレ。
「スゴク似合ってるよ。その服なら、髪はアップにしようか」
おいでして、椅子に座らせて。
おさげを解いて櫛で髪を梳かし始めた。
細い髪を頭の上にあげて、軽くまとめて細い革ひもで結わいつけると。
ふんわりとしたポンパドールが出来上がった。
うなじもおでこもキレイに映っている。細い顔立ちのアリちゃんが、よりシャープに見えるけど、髪の毛のふわふわで愛らしさが増している。
フェミニンな衣装と相まって、ホントにどこかのお嬢様みたいだね。
鏡に映った自分を見て、アリちゃんが見惚れている。
「こ、これ、本当に、私……?」
うん、君だよ。
最近、食生活も良くなってきたからね。肉付きも良く、お肌もツヤツヤだからね。
後ろで、シュランがぼぉっと見惚れているのが分かる。
「ちょっと二人で並んでみて」
え? 俺?
そう、君だよ。
写真撮りたい。とても撮りたい。
「え、ん、ちょっと待って、スゴく難し……なんとか……」
ピンときたみーよが、少し、いや、結構、ん、相当、悩んでいる。
もしかして、出来るの?
「郁ちゃん、わたしを“モニタぁ”だと思って、ん、違うね、“タブレっト”だと思えばいいか、で、郁ちゃんが観たものを写し出す感じで“撮って”みて」
かなり正確な共通語理念翻訳。あたしとは年季が違う付き合い方だわ。
でも、完全には訳しきれないんだね。
んと、念写してみて、って感じ?
全然やったことないんですけど。そもそもそんなこと出来ないんですけど。
ただ、撮りたいという気持ちしかないんですけど。
「わたしと手を繋いで。うん、それで“撮って”みて」
言われるままにみーよの手を掴み、シュランとアリちゃんを見つめる。
お互いの姿があまりに違うので、ハニカミまくってる二人。
違うのそうじゃないの、そう、腕組んでみてほしい。
スゴク照れてるんですけど。
めちゃ可愛いんですけど。
んもーもー絶対写真に撮りたいんですけど!
「えっと、腕組んでみて。そう、そう、それ。じゃ、撮るね」
そ、そう、腕組んで、こっち見て、いいよ、いい、今!
あたしの頭が、一瞬フラッシュした。
みーよの杖が連動して光り、彼女の胸の上で、四角くくて平たい光が実体化し始める。
みーよの手を放し、実体化が終わって落ち始める前に、手に取った。
写真だ。B5サイズかな。紙じゃない、薄くて固い素材。
スゴク色鮮やかな高解画像だね。
はにかむ二人が、おめかしして、少し緊張して、嬉しそうに映っている。
お似合いだね。スゴク似合っている。
彼らに見せると、衝撃を受け、困惑し、やがて納得し、みーよを見つめて尊敬の念が生じている。
「す、すげぇ……」
「き、きれい……」
うん、男の子と女の子で、感じ方は違うよね。
「わたしというより、郁ちゃんの願いが強かったんだよね。まあ、わたしのレベルが上がったから、出来るようになったみたいだけどね」
話すというより、自分に納得させるために説明しているみたい。
うん、そうらしい。
「着替え終わったー」
「わたしもー」
お、カンタとリコットも来たね。
カンタも、ワイシャツとベスト、スラックススタイル。ワイシャツのカラーはアッシュグレーだね。こっちの蝶ネクタイは淡い黄色。全体にモノトーン気味なので、髪の色ともマッチしてて、刺し色がとても鮮やかだね。
ベストとスラックスは黒でキメてきたね。同色のベルトと革靴も、中々ステキ。 シュランとお揃いのハンチング帽も愛らしいアクセント。
リコットもワンピとカーディガン。定番の服装で高級感となると、このお店はこういう仕立て方になるみたいね。
カラーは薄いピンク。刺繍はバラのイメージかしらん。カーディガンはカンタのシャツと同じアッシュグレー。灰色とピンクは色合わせの相性がいいし、どっちも淡い感じなので、ちょっと大人っぽい組み合わせ。それを年少なお子様が着こなしているもんだから、そのギャップが萌え感を呼び起こすわー
いやぁん、可愛すぎる!
写真、写真撮らせてぇ!
「ハアハアいわない。子供たちが見てるでしょ。これ、結構疲れるんだけど、もう一枚位なら、なんとか……」
差し出されたみーよの手を掴んで、心の中でゴメンと呟いて。
でも、でも、どーしても撮りたいっ!
「こっち向いて、そう、手を繋いで、にっこり笑って、それ!」
パシャ!
あたしの頭がスパーク!
みーよの杖も光って、B5版の写真が光の中から実体化してくる。
んースゴク可愛く撮れてるんですけどっ!




