117.俺は、師匠みたいに、聖女を、みんなを、守りたい
イーシュが加わったことで、治療がかなりスムーズに行われていった。
状態の比較的軽い娘たちを、あれから立て続けに3人、人族の元に還すことができた。
さすがは本職の付き人らしく、一度慣れてくるとアオイとのコンビも十分に機能している。患者のダメージもかなり少ないみたい。
おっかさんに言われた通り、なんでも早くやればいいというものでもないらしい。
こういうのはとっとと毒物を吐かせるに限る。一刻も早い処置が大切、と思っていたあたしにとって、一種のカルチャーショックだった。
「残りは、1番酷いのと、2番目、そして4番目だね」
後3人、か。
「連絡の取れた患者のご家族とも、午後から面会の予定が二つあるんだ。ボチボチみんな限界だろうし、今日はこの辺にしといていいかい、ルブラン」
「ああ、そうだな。順調すぎる位、順調だ。聖女ミヨ、付き人イクミ、本当に感謝する。もしよければ、明日も来てくれるだろうか?」
「ええ、喜んでお伺いいたします」
みーよも、にこやかに返事を返している。
「新たに精神の支柱が備わるのは、本当にありがたい。我々の技術は、それが肝だからね」
あら、あたしに? お父さんに両手で握手されちゃった。
そんな大したことはしてないよね?
その横で、弟君も嬉しそうに話し出す。
「明日の朝から通います。宜しくお願いいたします!」
「朝ごはん食べてくなら、代金忘れないでね」
イーシュに一応、念押ししとく。
そのまま手を振って、青の教会を退出した。
~ ・ ~
「アイツ、結構あっさりと付き人に戻ったんだね」
「まあ、あそこは、ちょっとこじれただけ、というか、お互い自信を無くしてただけだからね」
そうなんだね。
「郁ちゃんを見ていて、自信を取り戻したんだよ?」
「そーなの?」
自覚してないのか、という顔であたしを見るみーよ。
「シロウトがあそこまで出来るなら、本職としては黙ってられなくなるでしょ?」
ん-そーなのかなぁ?
「プロの技を見せつけたくなったのよ、きっと」
そーいうもんかなー?
「青の調べは、本当に患者を助けたい気持ちがないと、奏でられないからね」
弟君、そういう気持ち、無い訳じゃないと思うけどね?
「イーシュ君は、患者を助ける事よりも、自分の弱さと向き合っちゃったのよね。それでも自分に出来ることを探すよりも、諦めることを選んじゃった。同じ方向を向いてはいないよね」
諦めなければ、何とかなる。
ん-世の中、そんな簡単なもんじゃないとは思う、けど。
そもそも、本気で取り組んでる事って、そもそも諦めるという発想が無いんだけどね。
だって、出来るのが当たり前だからね。
ん-まー挫折したらって事かぁ。そうだね、周囲に助けてもらう事も大切、というか、あたしも学んだよ。
だから、そうやってイーシュが立ち直れるなら、その手助けをしてあげることは間違ってないんだよね。
「だから、彼が立ち直ったのは、郁ちゃんのおかげなの」
「ん、わかった」
ことにしておく。どっちにしても、引き受けた以上は、面倒見ないとね。
~ ・ ~
昼過ぎ、うちらの教会に帰ると、補修工事が結構いいペースで進んでいる。
教会の外壁は漆喰を全部塗り終わったみたい。看板も新しいものに架け替えられている。やっぱり外観がボロいと、舐められるもんね。
休憩中らしい職人さんから手を振られて、振り返す。
あとは外側の塀の崩れた処を直して貰って、門を取り付ければ終わりかな。
「戻りました」
「おかーりー!」
「おかえり!」
お、今度はチビの男の子が先にお出迎えか。
よいしょっと二人とも抱っこして中に入ると、年長さん年少さんがニコニコしながら出迎えてくれた。
「早かったですね」
「ええ、順調に進んでいるみたいなの」
そうだね。イーシュが付き人に戻ってから、かなりの順調さだね。
あたしも、昨日みたいな“どよん”とした疲れがないわ。
そのまま、みんなで談話室に入って。
「シュラン、カンタ。青の教会からの依頼で、向こうの息子さんを期間限定で弟子入りさせるから」
「あ、はい」
「はい」
「朝稽古に参加させる。シュランと年が近い。体格も似てるし、いい練習相手になると思うよ。ガッチリしごいてやんな」
「は、はい!」
おー張り切ってんなー
年の近いライバルは、大事な存在だからね。切磋琢磨させてあげよう。
「イ、イクミさん」
何よ、アリちゃん?
「シュランは、その、大丈夫なんでしょうか?」
ちびちゃんたちを降ろして、椅子に腰かけて。
なによーちゃんと聞いてあげるよ。どしたの?
「その、見込みとか、実力とか……」
なにそれ俺も聞きたい、と、シュランも腰を下ろした。
「ん-才能でいうと、今んとこだけどカンタの方があると思う」
えーおれーうそー!
喜ぶカンタの側で、リコットが“こいつがぁ?”みたいな顔してんのが可笑しい。
「カンタは素直で吸収が早いんだよ。ただ、身体がまだ出来てないからね。先の事は分かんないね。
シュランは、素直に覚えるには年齢が行ってるからね。染みついた動きは簡単に変えられないんだよね」
どういうこと?
な、顔をする二人に。
「シュラン、座ったまま、あたしを殴る動作をしてみな」
「え、ん、なに?」
言われるままに、振りかぶろうとして、立ち上がらないとダメで、座った、まま?
「こうやるんだ」
あたしは座ったまま肘を突き出し、突き出した肘を支点にしてバネ仕掛けで飛び出す感じで腕の先端だけを振るう。
シュランの顔の寸前で、寸止め。当てるなら、さらに手首を返して指だけ目の辺りに“目潰し”させるけど、可愛い弟子にそんなことはしないよ。
「げ」
シュランが呻き、アリちゃんは目を見開いたまま固まっている。
「こういうのは、考えないで出来るように染み込ませるのがいいんだけど、体の使い方がいったん出来ちゃうと“考えないとできない” 身体になっちゃうんだよね」
「いや、でも、座ったまま、そんな技を使う事なんて」
「あるよ。ってか、こないだ、冒険者ギルドで、カウンターに座ってたあたしに文句付けに来た、元みーよのお仲間? に、ブチかましてやったよ。ツマンナイ技だけど、面白いように吹っ飛んでったね」
なんか、急に思い出したよ。
「ツマンナイ技って……」
「座ってるあたしに相手が近寄ってきてくれないと、なかなか届かないんだ。
こうして向かい合って座っているときに腕を出したら、何かすると思われて警戒される。
使い道がそんなに無いんで、ツマンナイ技なんだよ。
カウンターに座ってカウンター狙いって、ダジャレでしょ?」
キョトンとされちゃった。だからツマンナイ技だって言ってるでしょ。
「普通に踏みとどまって、力自慢同士がド突き合うなら、あたしの技なんかイラない。
でも、教えたいのはそういう単細胞をどう仕留めるか、って事だからね」
分かったような、分かんないような。
「明日から来る息子さんは、青の道? ちがう、調べ、だったっけ、その治療に役立てたくて、あたしに習いにくるんだよ。
シュラン、アンタはどうしたい? 習ったことを何に使いたい?」
「俺は、師匠みたいに、聖女を、みんなを、守りたい」
お、そういう決意なのね。いいね。
はっきりとした目標があるなら、成長できるよ。
「俺もー!」
うんうん、カンタは素直で元気だね。よろしいよろしい。
そんな男の子を、特にシュランを見つめて。
アリちゃんは納得したみたいだ。
「イクミさんは、スゴイ人なんですね」
あら―そんなに褒めても、なんにもでないよ?




