116.うん、さすが、プロの仕事ぶりだね
「よし、イーシュ、一からやり直すよ。最初は肩慣らしだね」
アオイは、この中で一番状態の軽い娘を選んだみたいね。
娘というより、田舎娘の方がしっくりくる。
日に焼けた肌。顔にたくさんのそばかす。まぶたと鼻が大きい。顔の面積も丸くて大きい。結構筋肉質。ちょっと小柄。
かなり濃いブラウンの髪はバッサバサだ。ロクにお手入れはしていないみたいだね。
「お父さん、準備はいい?」
「いいぞ」
「では、行きます。目覚めなさい!」
「感情浄化!」
アオイとお父さんの、杖や手からの光に反応して、田舎娘が目を開けた。
ぼやっとした様子で、周囲を、あたしたちを見回す。
その目に、急に、邪悪な光が宿った!
来る!
「イーシュ!」
「はい!」
弟君の両手から、青い光が溢れ出す。
そのまま両手で、田舎娘のお腹を抑え込んだ。
ン、正確には、青い光を当てて、お腹を抑え込んだ感じ。
お父さんが比較的遠くから光を当てるのとは違う。
直近に、当てにいってる感じだね。
田舎娘が、弟君の方をじっと見つめる。
でも、抵抗らしい抵抗はしない。
ただ、じっと見つめているだけだ。
弟君、なぜか汗を、額に、顔に、汗をかき始めている。
なんか、苦しそうだ。
「イーシュ!」
「まだまだ!」
青い光が輝きを増した。
でも、汗が止まらない。
「扉が開かないと、アオイの杖は入らない。付き人がこじ開けるのは、胸じゃなく、腹なんだよ」
おっかさんが、あたしに聞かせるように言う。
あ、そうなの?
あたしの時は?
「あんたは腹を抱えて無理やり吐かせようとしてただろ? 苦しいのを我慢させる意味もあって、杖が胸に入るのさ。ま、一度開けば、どこでも受け容れるんだけどね」
そうなのね。よく分かんないけど、なんとなく分かる気はする。
「青の付き人がああやって腹をこじ開ければ、聖女は楽に杖を入れられる。誰も負担にならないだろ?」
まーそりゃそうだけどさ。だからあたしシロウトなんだってば。
「でも、まだイーシュは本調子じゃなさそうだね」
あたしの出番?
「ミヨ、やれる範囲でいい。浄化してやんな」
「は、はい。光の女神アーリュー……」
みーよが跪いて、祈りの姿勢を取る。
杖が白く輝き始め、田舎娘を照らす。
お父さんの手の光、アオイの杖の光に加わって、みーよの杖の光が田舎娘を輝かせていく。
彼女がピクリと反応し、みーよの方に目を向ける。
なんか、言ってる。
オークの言葉らしい、でも、女性の声なので違和感があるね。
何言ってるかは分からない。でも、なんか、分かる。
オマエガ イチバン ヨワイ
……へえ、ザコの分際で。
祈るみーよの前にスッとたち、睨み返す。
絶 対 に 殺 す
彼女の表情に、怯えが走る。
「あ、なんか、イケル」
イーシュが叫び、手の光の強さがさらに増した。
彼の手が、田舎娘のお腹の中に入っていく⁈
人の手が患者の中にめり込んでいく感じは、何回見ても不思議でしかないよ。
「上出来よ!」
アオイも叫び、田舎娘の胸の中に、自分の杖をめり込ませていく。
「青き清浄の調べよ、彼女の中で青き調べよ、彼女の中で奏で、響け、打ち鳴らせ! 精神浄化!」
田舎娘のおなかが、青く光って全身に巡る。まるで人間行灯?
お父さんも力強い声で、かざす手の光を強めていった。
「青き調べよ、彼女を人族の元に導き給え、感情洗浄!」
田舎娘に浮かんだ邪悪な顔が、元の人間の顔に戻っていく。
「よぉしよし。そのまま、ゆっくり抜きな」
おっかさんの声で、アオイとイーシュが杖を、手を、ゆっくりと抜いていく。
「ミヨ、も少し浄化を強めな。ルブラン、少し力を抑えて」
二人が頷き、指示通りにする。
田舎娘の容態は、安定しているようだね。
「マイアミ、もう出番はなさそうだ。下がっていいよ」
「承知した」
おっかさんが例のガラス製の水飲み器をもって、彼女の頭を少し持ち上げて中身を飲ませている。
「うん、いいね。ルブラン」
「青の調べよ。彼女にひと時の安らぎを、瞑想!」
お父さんの光が、田舎娘を鎮静化させた。
みんな、一息ついて、互いを見合わせ。
自然に笑みがこぼれた。
「あとは任せな。自然に、楽に、オークどもの痕跡を残らず排出させてやるよ」
楽に、か。尿とかでって事かな?
確かに、これなら、大立ち回りはいらないよね。
うん、さすが、プロの仕事ぶりだね。
~ ・ ~
「イクミ、勘違いするんじゃないよ。アレは弱いから、比較的簡単だったんだ。アンタの出番がないわけじゃないんだよ」
再びみーよが出してくれたコーヒーセットで、みんなブレイクタイムを楽しんでいる。この奇跡は、ストックが結構あるらしい、とみーよが言ってた。よく分かんないけど。
「そういうもんなの?」
「上位の、もっと強いヤツは、全然歯が立たないんだ。迂闊に起こすと、さっきのヤツみたいに怪我人や死人が出かねないからね。
よくアオイがアレをやる気になったと思ったんだけどね。あたしゃ感心したよ、そういう事なんだねぇ」
「イクミさんならイケルと思っただけなんですけどーコーヒーお代わりっ!」
チョコを摘まみながら自慢げにしゃべりながらコーヒーのお代わりを頼んでいるアオイ。出来ることは全部一度にヤリたいんだね。うん、カンタレベルだね。
「こら、言葉遣い!……いや、他の宗派の方に頼むべきことでは無いのですが」
お父さんが、申し訳なさそう。
うん、できれば自分たちだけでヤリたいのも、分かる。
「使えるものはなんでも使うんですけどーそう教わってきたんですけどー」
こらこら、フフンみたいな顔するんじゃない。
あらら、お父さん、娘の増長を大目に見るんですか?
「調子に乗るんじゃないよアオイ。お前はマダマダなんだからね」
「わ、分かってるんですけど……」
おっかさんには、頭が上がらないのね?
「イーシュ、調子はどうだい?」
「ヤバイと思ったんだけど、急に容れるようになったんだ。さっきの、何?」
おっかさんが、あたしを見る。説明してやんな、ってこと?
「みーよにガン飛ばしてきたんで、ガンを飛ばし返しただけだよ。勝手にブタ共がビビったんだと思うよ」
「睨んできた? 俺にじゃなくて?」
お、そういうのは分かるんだ? 一対一の感覚があるのね?
「そ。この中で一番弱いのはみーよだ、って聞こえたよ。
だから、ザコのくせに何言ってんの、と睨み返しただけだよ」
「ザコって……」
「ザコじゃん」
ふふんと威張るような話でもない。ザコはザコ。そんだけ。
「やっぱり、凄いんだな。師匠と呼ばせてください」
改めて頭を下げるイーシュ。へえ、殊勝じゃん。
素直さは大切。シュランのいい刺激になりそうだね。
「期間限定ね。青の教会の事は、あたしはシロウトだからね」
「分かってる。でも、師匠はすごいよ。何も知らないのに、あんな事……」
ま、自分でも少し感心するわ。よく出来たとは思う。ほぼカンなんだけどね。




