115.男に言い寄られても、きっぱり拒める力、みたいな?
「で、これからどうするんだい?」
みんな一息ついて。打ち合わせモードだね。
「状態の悪い人は、今日はもうやめておこうかと思う。分かってはいたけど、私の力が全然足りてない」
アオイが、けっこう悔しそうにしてる。
「ダメじゃないだろう。アオイは頑張ってるよ」
お父さんが優しく慰め、励ましてるね。
あたしもそう思うよ。
「今の人は、鎮静も感情浄化も全く入らなかったでしょ?」
「まあ、確かに……」
ああ、お父さんがクリーナー? の担当だったっけ。反省するのはお父さんも同じか。
でも、お父さんのせいにはしないんだね。
「イクミさんのとっさの判断が無ければ、けが人や死人が出ていたと思う。顔に怪我までさせて……」
すぐに治して貰ったし、平気だよ?
「あー前衛職だし、斬った張ったは日常茶飯事だよ? この程度でキャーキャー言わないよ」
そう、言わない。マイアミが役に立ってないだなんて、言わない。
あら、視線を感じてムッとしてんの? だったらちゃんと仕事して。
「あたしゃ思うんだけど」
あら、おっかさん、出番ですね?
直接治療に当たっている人だけの打ち合わせと思ってたけど。
いや、この人の意見、大事だわ。伺いますよ。
みんな、おっかさんに注目してる。気持ちは同じなんだね。
「マイアミ、アンタが治癒に当たった方がいいんじゃないかい?」
「い、いや、取り押さえる者がいないと、危険では?」
「役に立ってないじゃないか」
うわぁ、言っちゃったよ。あたしでも口には出来ないのに。
まあ、態度で示してるけどさ。
「ぐ、ぐう……」
ま、正論なんだよね。正直、役にたたないなら、いなくてもいい位。
「ミヨ」
「は、はい」
緊張して、みーよの声が少しうわずってる。割と珍しいなぁ。
「アンタもそれなりには、清めの奇跡は行えるんだろ?」
「それなりの力しか、ありません。亡くなった人を弔う事は出来ますが、生きている人の自我抵抗を超えられるだけの力は無いですよ?」
レジスト?
「受け入れて貰えれば、問題ないんだろ?」
「それは、そうですけど……」
「アオイと二人がかりでやってみたらどうだい?」
ん-杖を身体に差し込んじゃう奇跡の事?
「……ちょっと、女神さまに相談してみても?」
「うん、やっておくれ」
みーよが祈りの姿勢を取って、瞑想し始める。
彼女の反応が、消えた。深く交信してるみたい。暫くかかりそうだね。
「レジストって、なに?」
その間に、アオイに聞いてみる。
「生き物が持つ、魔法や理力に対する抵抗力の事なんだけど。外部からの干渉に対して、受け入れないという意思を示す力の事なんだけど」
ん-ばい菌やウイルスに対する免疫みたいなもん?
言葉にしようとしたけど、共通語理念が全く働かない。
ん-恋愛で、言い寄られても断固拒否、とか……
お、行けそう。
「男に言い寄られても、きっぱり拒める力、みたいな?」
え、なんで吹き出すの? ここ、笑うところ?
「ああ、まあ、それでいいですけど。スゴイ着眼点なんですけどー」
まだ笑ってる。割とツボにさえ入ってる?
そ、そんなに可笑しいかなぁ?
「イクミさん、モテモテでお悩み中なんだけど。そうくるかーそれでいいけどー」
それでいいのかーなにがいいのかー理解がその程度でいいのかーけどけど?
みーよが祈りの姿勢を解いた。
「直接触れるのは絶対に無理。生理的に受け付けないそうです。外から、オークの痕跡だけ浄化する位なら、ヤッテみる、そうです……大丈夫でしょうか?」
「やってみてダメなら、そんときにまた考えればいいさ。イクミ、アンタが頭を押さえる方に回んな。マイアミがヒール役。足を抑えるのは、分かってんね?」
弟君が、頷いた。
「お母さん、イーシュは……」
「あたしゃ口出しする立場じゃないんだけどさ。アオイ、乗り越えなきゃなんないのは、お前もおんなじなんじゃないのかい?」
乗り越える?
あー真っ赤っ赤に、付き人を失なわされた事ね?
「けどー……」
唇をかんで、考え込むアオイ。
「イクミ」
「あ、はい」
「頼みがあるんだけど」
「なに?」
おっかさん、今度はなに言い出すんだ?
「イーシュを、しばらくの間、弟子にしてやって貰えないかね?」
げ。そうきたか。
ん-どうしよーかな。しばらくでいいなら、面倒見れない事も無いけど。
「イーシュ、アンタはどうしたいの?」
本人に意思確認が、先だね。
「お、俺は……」
こっちも唇をかんで考え始めたね。姉弟揃ってのクセなのかな?
「考え込むようなら、話は無しだね。あたしも今の弟子をキチンと育てて行きたいしね」
イーシュは、シュランに歳が近い。いい稽古相手にはなりそうなんだけど。
本人のやる気だけは、どうにもなんない。
無理強いさせてまで、教える義理もないしね。
「そうだね。いや、悪かったね」
おっかさん、肩をすくめてる。ま、子育ては中々大変そうだね。
でも、焦らないでゆっくりやるんでしょ?
「いや、お母さんが正しい、と思う……イーシュ」
「姉ちゃん……」
「お願い、力を貸して。私だけじゃ、限界」
「……分かってる。分かった」
アオイが、イーシュの側に行き、杖を高く掲げる。
青い光が現れ始め、だんだん強くなる。
「付き人イーシュよ、青き清浄の調べに従い、奏で、鳴らし、打ち叩く力を再びその手に宿したまえ。
清浄なる調べよ、恩寵の青き光を彼の心臓に与えたまえ」
そのまま、アオイは青く光る杖を、イーシュの胸に、その心臓に当てて、めり込ませていく。
何で、入るの? いつも思うよ。どうなってんの?
イーシュの身体が青く光る。
一瞬、強く大きく光って、ゆっくりと消えていった。
アオイも、光の消え方に合わせて、杖を引き抜いていく。
「姉ちゃん……」
「イーシュ。また、やり直そう。お願いね」
「……うん」
イーシュが、あたしの方をみる。
「イクミさん、俺をしばらくの間、弟子にしてください」
ま、しょーがないか。面倒みてやるよ。
「分かった。毎朝、ウチらの教会で朝稽古してるから、参加しな」
「はい」
「私が一緒に行こう」
マイアミ、別にアンタは来なくてもいいんだよ?
ま、余計な事は言わないで置こうか。




