114.「ば、バカなんですけどー!」
アウトドア用の携帯電源機にコードを差し込んで、電動ミルでコーヒー豆を挽き始めるみーよ。
コーヒーメーカーも準備済み? しかも2台分。
「ほんとは、手で挽いて、手で淹れるのが美味しいんだけどね。こんだけ人数がいると、時間が掛かるし疲れちゃうからね」
あたし以外は、ポカンとした顔で見ているね。
そりゃそうだよね。
でも、ニオイですでに気付いているのね、アオイがとても嬉しそう。
みーよが人数分の軽金属カップを並べ終えて、挽いた豆をコーヒーメーカーにセットして、お水を注いで、スイッチを入れる。
「大丈夫なの?」
こそっと聞いてみると。
「アーリューシャイン様が、穢れたモノの扱い方について、少し慣れて来たというか、理解してきたみたいなのよね」
ん?
「以前は、絶対に毛嫌いしてたんだけど。だからこそ、すべて排除というか、撥ねつけていたんだけどね」
なになに?
「それだけじゃないんだって、気が付いたみたいなの」
ごめん、さっぱり分かんない。
「だから、こういうことに携わる人たちへの、感謝とご褒美だって」
女神さまって、そんな風に成長するというか、気づいたりするもんなの?
もっと、人間を超越した存在なんじゃないの?
あーご褒美ドリンクのコルク抜きを忘れるよーな、おまぬけちゃんだったね。
おっと、心を読まれてないよね。
みーよが苦しがってない。セーフ。
「コーヒーといいます。付き人の故郷では、ありふれた飲み物なのですが、宜しければお飲みください」
人数分、カップに注ぐみーよ。
アオイ以外は、おっかなびっくりだね。匂いをかいだり、中が真っ黒だぞと文句を言ってみたり。
飲み始めると、文句がぴたりと収まった。
「お砂糖とミルクもあります。お好みで味を変えてください。それと、甘いお菓子と一緒に飲むと、苦みと甘みが交互に味わえますよ」
奇跡の光で、チョコやクッキーも出し始めた。
「美味しい……」
「なんだい、すごく美味しいじゃないか」
「お、俺、ミヨさんの付き人に……」
「ば、バカなんですけどー!」
お、アオイちゃんが怒り心頭ですなぁ。
「以前から気にはなっていたのだが……」
マイアミも、初めてだね。そうだね、昨日はちょうど席を外してたね。
「イーシュ君、わたしも、ミヨ殿の付き人に、立候補しているのだよ」
あーなんか言ってたね。それなら最初から、みーよが困ってる時にそうしなよって正論で、ギャフンと言わせてやったはずだけど?
「イクミ殿と夫婦になって、二人でミヨ殿にお仕えする。なので、君の入る余地は無いのだよ?」
諭すように言い聞かせるマイアミ。
ちょっと、何を勝手な事言ってんのよ。
「あたしは自分より弱い男はパス。ずっと言ってるんだけどねぇ」
「そ、それは、これから修行を積めば……」
「無理無理。それにあたし、故郷に許嫁がいるから、ダメよ」
へへん、言ってやった。ざまみろー
「許嫁じゃ、無いよね?」
あん、みーよ、余計なこと言わないでっ!
許嫁、かっこいいでしょ憧れちゃうでよ夢でしょファンタジーでしょ!
「許嫁、候補なの! 絶対に口説き落とすの! いいでしょ片思い位、ってか将来を誓い合ってるんだから許嫁で合ってるでしょ!」
「いや、ちがうよ?」
どーしてそこで冷静になれるのよー!
話の流れを、空気を読んでよー!
コーヒー飲むと、現代を思い出しちゃうの、分かるでしょ? 分かって!
「口説き落とそうとする情熱も、そなたらしい良い所だな。私も、負けてはおれんのだよ!」
ほらぁ、マイアミがその気になってるじゃないのさー
ん? もうひとり、その気になってるような、フラグが……?
何よ弟君、そういう道もあるのか、みたいな顔であたしを見ないで。
あたしと結婚すれば、聖女ミヨの奇跡で美味しいものが飲み食い出来るなーみたいなこと、考えてるんじゃないんでしょうね?
アンタみたいな引きこもりボーイなんて、死んでも御免なんだからね!
「これ、手に入るのかい?」
おっかさんが、コーヒーにとりわけ興味深々だね。マイアミたちが持ってくる迷宮からの珍しい取得物を買い取ってるんだっけ?
「いえ、付き人への奇跡、恩寵ですので、ちょっと無理ですね」
ちょっと、申し訳なさそうなみーよ。そこは胸を張っても良くない?
「だろうね。お相伴に預からせてもらうだけでも、大したことだね」
みーよがお代わりを注いであげる。
「こっちも欲しいんですけどー!」
「お、俺も!」
すっかりコーヒーがお気に入りのアオイと、あたしと結婚してまでも飲みたいらしい弟君。
みーよがお代わりを淹れつつ、次の豆のセットを始めている。
お菓子のチョコやクッキーも大好評らしい。みんな遠慮しつつ、自分の分はキッチリ確保している。
「こっちのお菓子も、まだありますから」
おおーという歓声。そんなに好きなの? まあ、好きか。
「凄いですね、この飲み物。頭が冴えてきます」
お父さんもご満悦ですね。




