112.家畜の例えは、ちょっとどうかと思うけど
「よく来て下さいました!」
今回は教会側の玄関から入る。カギは、おっかさんが開けてくれた。
治療中? だったお父さんが、あたしたちに気が付いて、出迎えてくれる。
「……また、あれをやったんじゃないだろうね」
「すごいよこの人、本物だよ!」
夫婦、なんだよね、何か話している。
見事にデコボコなご夫婦ですねぇ。
お父さん、あたしよりちょい低い感じの瘦せ型だから、おっかさんと並べると一層サイズ違いが際立つね。
「紹介します。妻のレイラです」
「アッハッハ、改めて、よろしく!」
手を出してきたので、前にシュトルムがやったみたいに強く握ってくるのかなと思ったけど、そんなことは無かった。
「イクミだよ」
うんうん、頷いてくる。顔近いなー
みーよとマイアミは、顔なじみみたいだね。特に挨拶は無いみたい。
「彼女は冒険者ではないが、ギルドで買い取って貰えなかったり、安く買い叩かれそうなものを購入して貰う事も多いのだよ。古くからの住民で、領主さまや近隣の子爵領、商人ギルドにも顔が利く。我々はダンジョン専門で深く潜るが、ギルドで買い取りが難しいものは、マクロン閣下か、レイラ殿に売り渡すことが多いのだよ」
へぇ、そういう顔見知りなんだ。
「比較的新しくこの街に来た人間は、彼女の事はよく知らないのだがな」
あぁ、さっきの奴隷商人とか?
「領主様の御子息たちの乳母や家庭教師もこなされたことがあるのだ。昔はオラクルの大聖女候補として、マム・エンデバス殿と覇を競われたのだよ」
「あらやだねぇ。そんなに持ち上げなくても何にも出やしないよっ!」
マイアミに近づき、すごく嬉しそうにバンバンと肩を叩く。
地面に杭でも打ち込んでいるみたいに、マイアミの身体が沈んでいく。
「くっ、悪気は、くっ、ないんだが……」
酷く辛そう。ってか、あの程度でぐらついちゃうの? だらしないなぁ。
あー確かに、あたしに似てるかもねぇ。
いや、あたし、いきなり肩を叩いたりなんかしないもん。
でもねぇ、あたしが歳を取ったらこうなるかもねって事?
うわぁ、あり得るーあり得るね。
「で、昨日、人族に戻せた娘たちの具合は?」
ま、マイマイはどうでもいいか。あたしらが帰った後の様子が聞きたい。
おっかさんは手を止めて、あたしたちを見つめる。
ん-値踏み?
「最初の子は、回復が早そうだ。二番目は、まだ安定してないね。あたしゃ、ああいうのを力づくで引き戻すのは、あんまり感心しないんだけどねぇ」
あらま、ケチつけられちった。
「いや、文句じゃないよ。アオイは若いからね。そういうのも必要なんだろさ。やり方は間違っちゃない。腹の中のモンを吐き出して貰わんと、聖なる粥や聖水を身体内に容れて貰えないからね」
そっか、文句じゃないのか。
「吐かせた後は即鎮静して、じっくり癒していくのが、あたしゃ好きなんだよ。ン、分かんないだろうね」
ん-あたしは速戦即決派だからね。
でも、みんなそうしろとは言わないよ?
「無理に何でも詰め込んで太らせる家畜と、ゆっくり丁寧に育てていく家畜の違いさね。一気に太らせた方が早く出荷できるけど、ゆっくり手間暇かけた方が美味しくなるだろ?」
家畜の例えは、ちょっとどうかと思うけど。
「あたしはシロウトだから、その辺はなんにも言えない。言いたいことは、分かるよ」
「そうかい。ま、実際に術を掛けるモンの判断以上の事は、とやかくは言えないもんさ。ま、こっちとしては、吐かせてさえ貰えれば、後は何とでもしてやるから、無理しなくていいよってことだねぇ」
そう言って、あたしの顔を覗き込む。
「実際、お前さん、昨日相当無理しただろ?」
「ん-そーかなー?」
ふと、あたしの後ろに視線をやる。
「なるほどね。アンタ、自分の付き人のこと、よく分かってるねぇ。成長したねぇ」
みーよの事?
「いえ、まだまだです」
振り返ると、みーよがなんか、はにかんでいた。
おっかさんが、あたしらから目線を外し、教会内をぐるっと見渡す。
半分ほど埋まっているベットで、オークの捕虜だった女性たち全員が眠っている。
「行けそうだね」
「ああ」
お父さんが深く頷いて、住宅棟へ向かった。
まもなく、アオイと、おっと、弟さんを連れて戻ってきた!
うわぁ、会いたかったよ!
あれ? あたしを見てビクッとしてる。
あん、逃げないでね、お話聞かせてぇ!
「分かってると思うけど、アンタの欲しいお話は後回しだよ」
おっかさんに睨まれちった。
な、なによお。ンな事、分かってるよー
「ま、アレもいつまでもイジケテちゃダメなのは分かってるんだけどね。本人も良く分かってるんだよ。あの子はじっくり見てやんなきゃと思ってたけど、アンタみたいな刺激も、時には必要なんだねぇ……」
あたしがコワイ半分、治療の様子を見たい半分って事?
あたし、シロウトなんだけどねぇ。
「今日も来てくれて、ありがとう」
アオイに両手で握手されちった。
みーよには抱き付いてるし。
けどーけどーは、ご両親が見ている間は封印なのね?
なんか叱られてたしね。
いや待て、おっかさんは、モロに下町言葉じゃん。
言葉使いに厳しいのは、お父さんだけ?
「誰からいく?」
「そうさねぇ。仕入れは十分にあるからねぇ。こっちは任して貰っていいよ」
「ん。じゃあ、この人から」
母娘で、簡単な打ち合わせ。
仕入れ? まともな意識が戻った女性の回復用素材ってことかしらん。
アオイが選んだのは、あたしたちと同年代の若い娘。顔の色がとても白い、ブラウンの髪の色の女性だ。
「一番酷い2人は後回しにします。この人が3番目に状態が悪いの。ダメかもしれないけど、やってみたい。お願い、力を貸して」
「ちなみに、昨日の2番目の方の状態は?」
「5番目に悪かった」
あ、そうなんだ。あれで5番目か。
一番最初の子が、一番状態が良かったんで、ん-それから一気にレベルを上げたのね?
こっちは、シロウトなんだけどなー
ま、いっか。失敗してもあたしのせいじゃ無いし、口出しできるほど物事を分かってるわけじゃないもんね。
「大丈夫か?」
お父さんも、ちょっと心配してる。
「この人がイケルなら、上の二人も見込みが出てくる。ギリギリのラインだけど、今後どうするか分かるから、試せるなら、試したいの」
「分かった」
お父さんも、腹をくくったみたい。
「マイアミさまは頭の部分を、イクミは足を抑えて。患者全員の鎮静はお母さんの薬が効いているから大丈夫。ミヨは暴れ出したらこの人の生命管理をお願い。深く、深く潜るから、この人の様子が分からなくなるの。お願いね」
「ちょ、ちょっと待てよ、俺がちゃんと見てないと、姉ちゃんが取り込まれるかもしれないだろ?」
おっと、弟君がこの場に及んで、抗議ですか?
「そうかもしれない。でも、いない人を当てには出来ない」
「おい、ここにいるだろ⁈」
アオイは、ちょっとため息をついて、弟君を見つめた。
「イーシュ、今のアンタはいないも同じ。同じ方向を全員が見つめていないと、この人は助けられない」
「い、いや、また俺が付き人になれば……」
「お断りよ。こっちにも、選ぶ権利があるの。あんたは、今は、イラナイから」
今は、か。
ん-姉ちゃん厳しいなー
「な、なんだよ、それ……」
姉弟ケンカかー
あたし一人っ子だから、そういうの憧れてたんだよね。
パパとドラマでよく観たなー
お父さんもおっかさんも、子供たちの喧嘩に口は出さない主義みたいね。
何にも言わない。どっちの味方もしない。
放任じゃない。黙って見守る器の大きさがあるね。
ドラマでは、親がどっちかの味方をして、ハブかれた方の子供がグレるんだよね。
そうだね、成長を見守ってあげるのが、親ってもんだよね。
「今は、黙って見てて。じゃ、行きます」
アオイは弟君から視線を外し、おとうさんと二人で、同時に詠唱を開始する。




