110.俺は、イラドだ! 覚えとけよ! 長い付き合いだろ?
新章開幕。
起きて、夕飯食べて、また寝たのは覚えてる。
その間の記憶がない。ぐっすり寝ていたらしい。
頭がスッキリしている。疲れを感じない。
いつものように、みーよとアリちゃん、リコットがいない。
そばで、ちびちゃんたちがぐっすり眠っている。
机に、洗われたらしい制服と防具が揃えて置いてある。
乾いてるかしら? 乾いてるね。
そそくさとお着換えして。
そおっと、部屋をでた。
調理場で、朝の挨拶。
パンの焼ける、いい匂い!
試食を果実水で流し込んで。
お外に出てみると、やっぱりいつも通り、4人のわんこたち。
「んと、昨日の話し合いは、どうだったの?」
「……一応、確認してもいいか?」
革ジャンが、めっずらしく真剣な顔。
「どったの?」
「お前さ、俺の名前、覚えてないと、か?」
あーそういう事か。
「あたしより弱いザコの名前、覚える必要なんてあるの?」
ガーン、な顔を見るのは、結構楽しい。
こらこら、マイアミと弟子たち、笑うのは可哀想でしょ。
ま、可笑しいけどね。
「俺は、イラドだ! 覚えとけよ! 長い付き合いだろ?」
いや、そーでもないよ?
ってか、断ってんのに、あんたがシツコイだけだよ?
「覚えるのは、無理かもしんない。で、どーだったの?」
クソッみたいな真剣な顔。
だってさ、花束配達人の名前を憶えてくれっていうようなもんだよ、それ。
あ、カンタ、代わりに受け取ってくれてありがと。
中の女の子たちに渡してくれる?
みんなに、毎朝の食卓が華やかだよねって評判なんだわ。
「話は付いた。奴らは、ここには来ない。お前らの二の舞なんか絶対にゴメンだと言われた」
そ、良かったわ。
「青の教会の方からの稼ぎから弾き飛ばされて、ちょっと困ってる、なんかいい稼ぎはないかと聞かれたけど、知るかそんなもの」
あーそっちも狙ってたのか。なるほどね。
奴隷市にまとわりつくチンピラグループは3つとか言ってたね。
その、一番弱いのが、こっち狙いだったんだっけ。
こないなら、無視でいいよね?
わざわざ挨拶とか、メンドクサイしね。
「で、マイアミの方は?」
あ、てめえ、名前覚えられてんのか、くそぅ。
ふっ、お前とは立場が違うのだよ、立場が。
二人の男たちの間に火花が散った気がしたけど、気のせいだよね?
「調子は戻ったようだ。今日も青の教会に行くのか? お供しよう」
「無理に来なくていいんだよ? アンタ、あんまり役に立たないし」
役に立たないのか、しょうもないな、ざまあみろ!
お前ごときに言われる筋合いなど無いのだよ、外野はすっこんでろ!
また、火花が見えたね。
「そ、そんなことは無い。これもまた、武の修行の一環なのだよ」
「あーハイハイ」
ま、みーよがいいと言うなら、いっか。
「シュラン、カンタ。昨日は朝しか稽古つけてないから、ちょっと念入りにやろうか」
「大丈夫だよ、イクミねーちゃん、いや、師匠」
「忙しいのに稽古つけてくれて、ありがとう!」
いや、昨日は帰ってからビール飲んだくれて、ご飯食べて寝てただけだしね。
そっか、結構疲れてたのか、あたし。
「なにしようか。そうだねぇ、昨日使った技の伝授でもしようか」
「技?」
「技!」
「ま、まさか、あれか?」
「?」
マイアミだけは知ってるんで、ギクッとしている。
そうだね、練習台を、誰にしようかな?
「お、俺に掛けてくれ!」
うん、ちょうどいい。セクハラ野郎だし、遠慮しなくていいや。
なんとか立場を回復したいらしい、革ジャン。名前、なんだっけ?
マイアミが何か言いかけて、口をつぐんだ。
自分にじゃなきゃ、それでいい、と保身したらしい。
ま、あたしは何でも誰でもいいんだけどね。
「いいのね?」
「もちろんだ、どんとこい!」
「んじゃいくよ!」
目にもとまらぬ速さで革ジャンに飛びつき、抵抗なんかさせないで引き倒し、全身に抱き付いて絡めとる。
腕も足もしっかり拘束。
あたしの顔は、しっかり革ジャンを観察。
「う、うわぁ……」
何だコイツ、うっとりしてるぞ?
「アナコンダぁ!」
ギュギュっと締め上げると。
皮ジャンの声にならない悲鳴が上がった。
~ ・ ~
「こんな技なら、さ、先に言えよ……」
「言うと、私か子供たちが被害に遭うだろう」
「俺なら良いってか!」
「適任だと思うが」
朝ごはんを食べるあたしの横で、二人の男たちがまだ言い争ってる。
「凄かった」
「うん、凄かった」
弟子たちが興奮冷めやらぬ感じ。
使いどころの難しい技なんで、この世界で連発できるのは、割と嬉しいかも。
「今日も、青の教会に行くのですね?」
「みーよがいいなら」
マムちんに聞かれたけど、決めるのはあたしじゃないね。
「レイラによろしく伝えて下さい」
レイラ?
「青の教会の主宰者ルブラン卿の妻です。かつて、ライバルだった事もあるのですよ」
マムちんの、ライバル?
何の事? 大人の話?
「あなたは、彼女の事がきっと気に入ると思いますよ」
へーそうなんだ。ちょっと、楽しみにしてみるよ。




