109.私の夫の着替えが、まだ捨てずに取って置いてありますよ
頭脳労働組というか、聖職者組が、ボチボチ限界が近いらしい。
よく分かんないけど、人一人の精神を、とりあえずでもまともに戻すのって、とても大変なんだね、って事は分かったよ。
今日の所はここまでにしよう、もしも良かったら明日もまた来て欲しい、報酬は、ちょっと考えさせて下さい、患者のご家族の寄進次第なんです。
そんな感じの事を言われた。
もう一人、外で動いているお母さんが、明日は教会に戻ってくるはずなので、その時にご紹介しますとも言われた。治療に必要な聖水や清められた粥の材料を調達しなければならないらしい。
あと、連絡の取れないご家族に通達の手段を探すことも必要なんだって。
領主様が表向きは積極的に動いて下さらないのだけど、裏の手段がそれなりにあるのだそうで、そのためには本人が出向く必要があるのだとか。
そんなこと、部外者に語られても、ねえ。
それよりなにより、弟君の事が先でしょう?
あ、それは、ちょっと、ねえ、だって!
いやぁん、お話聞かせてぇ!
なによみーよ、スイマセン帰ってからキツク言い聞かせますって何よぉー
どうぞよろしくお願いされてるんじゃないわよぉー
教会に帰るんだけど、マイアミも付いて来たそう半分、結構疲れた半分。
呼んでないから帰っていいよ、といったら、冷たい人扱いされた。なんで?
でも、みーよが顔色が悪そうですよ? と言ったら、素直にお帰り頂けた。
アイツ、師範代なんだって?
ヒマじゃないんだよね?
なんてウチに入り浸ってんのよ。仕事しなよ。
親切で、帰れって言ってるんだけどねぇ?
なんで、みーよがため息つくのよー?
「あのね郁ちゃん。人は誰でもデリケートな部分ってあるんだから、なんでも手を突っ込めばいいものじゃないのよ?」
そんなの、分かってるもん。
う、分かってないって顔された。
「まあ、物おじしないで突っ込めるのは、一種の才能、なんだけどね」
でしょでしょ?
「後ろで観てて、ハラハラするんですけど」
ぬ、ぬうん……
「フォローするの、結構大変なんだよ?」
は、はい……
「ま、分かれば、宜しい」
ほ、お説教が短くて良かった。
「ホントに分かってるの?」
分かってる分かってる。とっても分かってる。
マズイ、顔にでたかもしんない。
あたしは女優、女優……
「聖職者組はみんな大変そうだけど、みーよは平気なの?」
こういう時は、話を逸らすに限る。
「わたしは、割と楽なポジションだったからね。わたしというより、こういうのはアーリューシャイン様が苦手だってこと、青の教会のみなさんは知ってるしね」
「そうなんだ」
さすが専門家さんですね。気を使って貰ってスイマセン。
それに比べて、ヘタレなのは女神ちゃんの方かー
「得意でも苦手でも、大変なことに変わりはないんだよ。でも、郁ちゃんのモチベーションでみんな助けられてると思う」
そうなの?
「アオイのあんな顔見るの、ホント久しぶり。いつも、どこか自信なさそうな顔してたからね」
みーよが、にっこり笑ってあたしを見る。
さすが、郁ちゃん。
そう、顔に書いてあった。
~ ・ ~
教会に戻ると、修復工事の真っ最中だった。
教会の建物の半分以上が新しい白い漆喰で塗り固められている。壊れた看板は取り払われていた。後で直して取り付けるのかな。
周囲の塀は手つかず。材料の石は運び込まれて山積みになってるね。
職人さんに軽くあいさつして中に入ると、まっさきにチビたちが出迎えてくれた。
うん、子供っていいねー
二人とも抱き上げて、部屋に入ると年少組と年長組のみんなが迎えてくれた。
と、ちょっと変な顔をされた。
「イクミさん、少し臭いますよ?」
「うん、ちょっと臭う」
そう?
ふくよかさんを人族に還した時は、そんなに汚れずに済んだと思ったんだけどね。
「やっぱり、分かっちゃうか」
ちょっと残念そうなみーよ。
「シャワールームの奇跡は、今のわたしのレベルじゃ、基本的に一日一度だけ。今回は最初の子の時に使っちゃったからね」
あ、そうなんだ。いや、そんな気は、してたよ。
普通に考えて、この世界に現代装備持ち込むのって割とスゴイ事だと思うし。
「光の女神さまの、聖女の付き人に対する恩寵なので、無制限という訳にはいかないんだよね。身に着けるものに関してはかなり強く作用するんだけど、大きかったり細かくなったりすると、限られてくるね」
「そっか、臭いどうしよう」
「普通は、お洗濯だよね」
「そりゃそうだけど」
「寝巻は出せるよ?」
あーオーク討伐ん時に、みーよがフラフラになりながらシャワールームと着替えを出してくれたんだっけ。あれは特例か。
で、あの時は一緒に制服とポンチョを出してくれたんだったよね。
ってことは、制服も特例だったんだね。なんか、ゴメン。
でも、ポンチョは、制限が緩いのね。この世界に普通にあるからかな?
今から寝るのかーん-どうしよ?
「イクミねーちゃん用の着替えって、ないよな」
「そうね。ないわね」
シュランとアリちゃんが相談してる。うぬう、子供に着替えの心配をされてるよ。ダメな大人でゴメンね。
「騒々しいですよ。聖女ミヨ、付き人イクミ、お帰りなさい」
後ろからマム院長がやってくる。
話を聞いて。
「私の夫の着替えが、まだ捨てずに取って置いてありますよ」
そう、言ってくれた。
付き人だった、旦那さん。
オークどもに目の前で八つ裂きにされた、旦那さん。
思い出の品なんだと思うけど。
あたしが着てもいいのかしらん?
院長室でお着換えすると、サイズはピッタリだった。
普段着の長袖チュニックとズボン。色は麻。染めていない、素材そのものの色らしい。少しチクチクするけど、多分着ているうちに慣れると思う。通気性がいいね。
革ベルトでズボンを止めて、サンダルを貸してもらう。
ガードグローブとエンジニアブーツは外した。この格好だと似合わないし、今日はもう外に出る用事はなさそうだし。
どうも制服じゃないと、外には出歩きたくないんだよね。可愛くないし。
「よく似合ってますよ」
マムちんがニコニコしてる。ようやく、見慣れた格好になったね、って感じかしらん。
ん-なんかムズムズするんですけど。
洗濯します。やっぱり臭います。と、アリちゃんがあたしの制服を受け取って外に行った。井戸水で洗ってくれるらしい。ゴメンネ、手間かけて。
みーよに見せると、一瞬、うわーって顔された。見慣れないもんを見た、って顔だね。ん-ムズムズが止まらん。
な、なによシュランとカンタまで。リコットもかー
変わらないのはちびちゃんたちだけだね。あたしの味方はあんたたちだけだよ。
夕方、ギルドによって解体作業を習いに行こうと思ってたけど、今日はやめとく。
子供たちの新品の服の出来上がりは、明日だったはず。そっか、あれから1週間経つんだ。なんか、あっという間だなぁ。
「今日はもう出かけないんでしょ?」
「そうだね」
「呑む?」
「うん」
ん-これじゃ、冒険者ギルドでゴロゴロしてる、お仕事にあぶれてロビーでたむろってるダメ連中と同じじゃないのさ。
とか思いながら、談話室でブリキバケツに氷と一緒に放り込まれたビールとおつまみを齧ってると。
「何飲んでるの?」
そりゃくるよね、お子様たち。
「お子様にはまだ早く、もないか」
普通に飲み物としてエール飲んでるもんね。
「あんたら、お仕事はどーしたの?」
清掃とか、食事支度とか、職人さんたちのご飯の準備とかあるんでしょ?
「あるけど、気になるもん」
そーだね。気になるのは大事な事だね。
だよね。気になるよね。ってか、あたし、とっても邪魔だよねー
ん-この格好で外にでるのって、大丈夫かな?
いや、この世界の人にとっては普通なのか。
むしろ、普通が大事か。
「こらこら、郁ちゃんの邪魔しないの」
「えーだってー」
「この娘、そーやって構うと、邪魔なのかなって思ってふらふらと出て行っちゃうよ?」
「え、そーなの?」
そうらしい。うん、そう思ってた。何で知ってんの?
長い付き合いだから?
距離感が大切?
みーよ、怖っ!
「だから、邪魔しない。ん-郁ちゃん、話し相手が必要?」
「んにゃ」
「だって。さ、行った行った」
みーよが子供たちを追い払ってくれて、ついでにビールとおつまみを追加してくれた。
気が付くと、もう3本目を飲み終えようとしている。それで追加か。
メチャクチャ気が利くんですけど!
そのみーよは、青の教会での出来事について、マム院長に報告しているらしい。制服を着ていないあたしは、こういう事では使い物にならないので、とりあえず休ませてるって感じかしらん。
それにしても、ビール美味しいなぁ……
ゴロゴロゴロゴロしてると。
「ぼちぼちお昼寝だね。おいで」
みーよに呼ばれるままに女部屋に入って。
「ご飯になったら呼ぶから」
そう言われて、ポンチョにお着換えして。
そのまま、パッタリと眠った。
(つづくっ!)




