105.でもさーなんかしっくりこないんだよね
「ありがとうございます。助かりました」
牧師? 神父? さんに丁寧にお礼を言われちゃった。
あたしとしては、お肉を食べ損なって、ちょっと残念なんだけどね。
「全く、なんでも力で解決しちゃおうとするんだから」
「まあ、思い切りの良さが彼女のいい所だ」
あたしを見守る二人だけど、ちょっと評価が分かれてる。
マイアミは武神の信徒なんで、考えがあたしに近いのかもね。
「光の女神アーリューシャイン様の聖女、ミヨです。こちらは付き人のイクミ」
「武神トルモルト様に仕える、マイアミです」
「ようこそおいで下さいました。青き清浄の調べ教会代表の、ルブランです」
聖職者同士、丁寧なご挨拶だね。
「マム先生から、なにかお手伝いできることはないか、言付かって参りました。出来る限り、協力したいと申しております」
「それはどうも、ご丁寧に。感謝いたします」
「それと、マクロン閣下から、今回はそちらの筋を通したのだから感謝するように、とも言われてきています」
ルブランとマイアミは、数秒見つめ合って、何事か、同意したみたい。
「まあ、お立場がありますから」
「同感です」
男同士、分かりあったらしい。
「取り込んでおりますが、宜しければ、こちらへ」
教会棟ではなく、住居棟へ案内される。
さっきの男たちも、教会の中に入り込もうとしていたから、オークの捕虜だった女性たちは、この中にいるのね?
「ありがとうございます。……郁ちゃん、行くよ」
みーよにおいでされると、逆らえないね。ちょっと覗いてみたい気もするけど、あんまり見たくもない気もする。ま、いっか。
住居棟は、ウチらの教会と違って、あまり清掃が行き届いていなかった。
掃き掃除、拭き掃除をさぼっているみたい。所々汚れが目立つ。
人の気配が、あまりないね。孤児たちを養ってはいないみたいだね。
院長室? っぽい部屋に案内されたけど、この中は一応きちんとされている。
応接用? のソファーは木製。ウチらの院長室は少々古ぼけてるけど、革張りだったから居心地は良かったけどね。
ん-せめてクッションは欲しいわ。
そんなあたしの気持ちは気にもされずに、みーよとマイアミが腰かける。
あたしはどうしよう。後ろで立ってた方がいいかな?
あ、座っていいのね?
「この度は、彼女たちを救って頂いてありがとうございます。とても勇猛な働きをされたと、娘から伺っております」
娘?
ああ、青い法服の野良ちゃん、アンタの娘なのね?
「彼女たちの様子は、如何なのでしょうか?」
「……はい。幾人かは、もう取り戻せない所まで侵喰されているようです。他も、五分五分か、と。あ、一人だけ、取り戻せる見込みのある娘がいます。幼過ぎたようで、オークの好みに合わなかったようです」
取り戻せない……人としての心を失っちゃった彼女たちに、もう一度まともな心を取り戻させることね?
ん-それって、まともになると、悲惨な出来事を思い出しちゃうってことじゃないの? 大丈夫なもんなの?
ま、あたしみたいな素人が口出していい事じゃないね。
あんときは、女性たちは全部で10人いた。最後の一人は抱えて脱出したけど、多分その子の事だね。幼いというか、小さかったから。
「好みに合わなければ、やがて喰われる運命なのですから、助け出して下さってありがとうございます」
あーそうなんだ。ブタども、やっぱり人間を喰べるんだ。
そんな気はしてた。
最初に出逢ったオーク・アグフの一隊も、今回のオーク集団も、荷物が少なかったんだよね。
食料とかどーすんの? あのデカい図体をどうやって維持してるんだろう? とは思ってた。
まあ、ブタだからなんでも食べるんだろうな、と勝手に解釈してたけど。
そうか、足りない分は“現地調達”してたんだ。おぇぇー
「身元の確認は、全員済んでいるのですか?」
「ええ、すでに幾人かのご家族とは連絡が取れました。残りもほぼ大丈夫だと思います。オラクル出身者が5名、ポールビリア出身者が2名、登録なしが3名です。領主様にご報告し、遠方の街とは連絡を取って頂きました。ただ、そちらに関しては、すでに死んだものとして扱われるでしょうね」
「残念ではありますが、そうなるでしょうね」
「登録なし、に関しては、どうなさるおつもりでしょうか?」
「うちの持ち出しで葬還するしかなさそうです。さすがに奴隷商人に売り渡すことは出来ませんから」
ん-さっきの連中は、彼女たちを奴隷にしたいって事なのね?
でも、もうまともじゃないんでしょ? 使い物にならないんじゃないの?
「費用の事でしたら、いくばくかでも援助致しますよ?」
「同じく。私も関りを持った身でありますから」
「いえいえ、他の宗派の方にご迷惑を掛ける訳には参りません。正当な施しならばともかく、自分たちの信念に関する事柄まで、ご迷惑を掛ける訳には参りませんので。オラクル出身のご家族が、顧みて下さることを期待致します」
ふむ。助け出した女性たちをご家族に引き渡して、その報酬を頂くお仕事なのかしらね。
でも、もうまともな心を取り戻せそうに無いとか言ってたよね。
んで、葬還。ンと、これって……
「話の途中ゴメン、ちょっといい? あたし素人なんだけど、葬還って、ナニ?」
3人が、ちょっとの間、固まった。
どーする?
説明、するのか?
いえ、ここは私が。
アイコンタクトし合って。
牧師さん? が話してくれるらしい。その道のプロだから?
「私どもは、人族としての心を失った者たちに、再び道を指し示し、導き、歩みを助けるのが務めです。しかし、もうその歩みを取り戻せなくなった者たちを丁重に見送るのも、また、正しい務めなのです」
……ゴメン、何言ってるかわかんない。もっと優しく説明して。
「そのものと交友があり、血族でつながり、見届けるにふさわしい者たちが集い、見守る中で、その時だけ、人としての心を取り戻させ、別れを告げさせる、そのような務めなのです」
ん-葬式、みたいなもんだけど、そのときだけ、まともに戻れるってことかな?
「ずっとまともな心に戻せたりはしないの?」
「侵喰が緩やかだったり、当人の心が強ければ、そう出来る事もあります。しかし自身が絶望に身を委ね、悪鬼の血族を望むのであれば、すでに闇に身を取り込まれたのだと見なさざるを得ないのですよ」
そっか、無理なのね。
「アギト・ナイフの勇者イクミ様。貴方の勇猛さによって彼女達を人族のしきたりに則って葬還できるのです。それはとても誇らしい事なのですよ」
ん、ここでアギト・ナイフが出てくるの?
これ、聖剣の類いだったりして?
まさかね。
で、助けた理由は、ちゃんと葬式を挙げられるから、って事になるのか。
まだ、彼女たちは、生きてるのにね。
「ちょっとだけ、彼女たちの様子を見せて貰っても、いい?」
「ええ、そうしてあげてください」
みーよが、何考えてるの? みたいな顔であたしを見る。
ン、まだ考えはまとまんないけど。
要は薬物中毒みたいなもんでしょ?
毒というか、クスリを抜けば、なんとかなんないのかな、って思ってさ。
いや、素人のあたしが何か出来るとは思ってないよ、思ってない。
でもさーなんかしっくりこないんだよね。
こんな魔法? 理力? な世界で、なんにも出来ません、なんて事、あるの?
みーよ、アンタの力でなんとかなんないもんなの?
「一応、確認だけど」
みーよが、あたしの考えを見抜いたっぽい。
「光の女神アーリューシャイン様は、浄化は出来なくはないけど、得意ではないのよ。というか、穢れたものは苦手。なので、わたしの目から見ても、この手の専門家はすごいことをしてると思う」
「武神トルモルト様も、この手の類いは専門外だな」
マイアミ、アンタには聞いてないよ。
でも、そっか、女神ちゃんにも得意不得意があるのかー
その辺は人間と同じなんだね。
現代のあたしたちも、薬物中毒みたいなもんはある。
旧時代から、もっと前から、人類はこの手の類いに弱い。
科学というか、化学で、ん-薬学で何とかなる場合もあるし、ならない場合もある。進行が進んで脳の損傷が大きくなるともう駄目で、それこそ、望む望まないに関わりなく安楽死が法律で定められてる。
あたしが裏番長してた時も、こういうクスリを売ってる輩は結構いた。
見える範囲では、全部潰した。ただ、見えないところはワカンナイ。
クスリを買えない人って、とても必死になるからね。
取引を巧妙に隠されると、どうしようもないんだよねー
ただ、オークに攫われた女性たちは、自分の意思でそうなったわけじゃないんだから、もうチョイなんとかなんないもんかね。
ま、なんないよね。
この世界、弱い人間にとってはホントに生きづらいからね。




