103.どこの女の尻を追いかけてるんだ?
んで、敵対組織って、何処のどいつなの?
「奴隷市場に巣くっている組織のうち、一番弱い所だな。上二つから睨まれて、厳しい状況らしい。で、スラムの教会が最近羽振りが良さそうらしいんで、そこを仕切っている俺たちの縄張りを狙ってきてるって訳だ」
何でアンタが自慢げに言うのか、よく分かんないけど。
「ちなみに、スラムでシマを持ってるのは、他にいないの?」
「いない。カネにならねえしな」
まーそーだろうけどさ。
「なんでアンタら、スラムにシマ持ってんの?」
当たり前のことを聞いたら。
「ここの治安を守ってやってるんだよ」
なんでそんなことを聞くのか、みたいな顔で返された。
要らんでしょ、そんなの?
スラムの連中は連中なりに、最低限の稼ぎはあるんでしょ?
アンタら、その上前をハネてるだけでしょ?
ま、ウチらの教会に手を出さなければ、どーでもいいけどね。
と、まだ来たことのない区画にやってきた。
大通りからちょっと離れた地域だけど、確かにスラムと同じような臭いがする。
ただ、住民は違うね。結構ごっつそうな男たちが、あたしたちを値踏みしてくる。
あと、兵士の格好をした連中も、結構いるね。治安維持、という名目で、おこぼれを待っている感じかもね。
もう少し行くと、天幕がいくつも張られている区画に入る。
その中には、鉄格子の中に入れられていたり、鎖で繋いだ首輪を架せられている人間がゴロゴロいる。
全員、簡素で使い古されたような布一枚で身を覆ってるだけ。
「この辺は、奴隷の保管区だ。売り買いは、もうちょっと先に市場がある」
あたしは、みーよと顔を見合わせる。
来たことあるの?
あるよ。
……なんなの?
ん-後で説明する。
りょーかい。
「で、敵対組織ってのは?」
「ここだ」
天幕の一角で立ち止まり、中を覗いて声を掛ける。
「おい、いるか? 話を付けに来た」
と、中から腹回りの大きな白い肌を晒した、立派な口髭を蓄えたハゲが出て来た。お仲間も、ぞろぞろ出てくる。10人以上、2、3、4人。
みんなラテン系かな。同族って感じだね。
「なんだ生意気な口を聞きやがって。シマを明け渡す気になったわけじゃなさそうだな」
「誰が手前らなんぞに渡すかよ」
「一度酷い目に遭っただけじゃ足りないみたいだな。そうか、あんときお前はいなかったな。今度はどこの女の尻を追いかけてたんだ?」
コイツ、女の尻を追いかけてた、らしいね。
はぁ、本拠地を留守にして、なにやってんのよアンタ。
そんな会話をしている間に、半包囲でグルッと取り囲まれちゃったけど。
ん-こっちも大したことは無いわね。用心棒っぽいのが一人もいない。ただの従業員だわね。
ま、奴隷を扱ってるんだから、それなりの腕力はあるんだろうけど、ただ、そんだけだね。
「ん-聖女様と付き人、僧職者の戦士……どこかで見たな」
あたしが周囲を観察している間に、向こうのハゲもこっちを値踏みしてる。
で、あたしらよりも、マイアミの方が有名みたいね。
「そちらさんは、無関係とみましたが。うちら、まっとうな商売をしているだけなんで、立ち入らないで貰えませんかね?」
穏便な態度だけど、引き下がったりはしないぞ、という迫力も感じる。
下げた手で合図しているらしく、部下の一人が奥の方に走って行った。用心棒さんを呼んでくるらしいね。
「そーしたいんだけね。そーもいかないのよ」
後ろで黙って立ってればいいとは言われてるけど。
そっか、マイアミの方が有名なのかー
それはちょっとツマンナイね。
ズンズンと前に出て、ハゲのふとっちょさんとガンを飛ばしあう。
「なんだ変な格好した女が。奴隷になりにでも来たのか?」
「昨日、パレードで顔を売ったつもりなんだけど、観てないの?」
しばらく考えて、急に顔がこわばりだした。
「ま、まさか……」
おろ、素直ジャン。
「スラムん中に、ウチらの教会があるんだわ。荒らされると迷惑。
一応、そこの犬に警備させてる。弱くてキャンキャン吠えるしか能がないんだけど、可哀想だから、とりあえず面倒を見てやってんの。
あんなんでも、一応は飼い犬なんで。手、出したら、速攻で潰すから」
禿げた頭をかいぐりかいぐりしてあげる。
分かったかな?
見る見るうちに汗が噴き出してきて、汚い事この上ない。
「それさえ分かれば、コッチからは手は出さない。いいわね?」
一応、確認。
「な、なんで、お前みたいなのが、こんな奴の肩を持つんだよ……」
精一杯の虚勢を張ってきた。ま、アンタにもメンツがあるわな。
「ん-成り行きかな。ちなみにコイツらにも教会を襲われた。全部潰して、スラムの住民に身ぐるみ剥がさせたら、すっかりおとなしくなったよ」
げ、という顔。
なんか文句ある? とにっこり微笑む。
「で、手を出さない代わりに、裏番長を頼まれたのよ。あたしは、自分とこの教会が平穏でさえあれば、それでいいの。後はどーでもいい。お分かり?」
ウンウン頷いたので、もう大丈夫そうだね。
後は任せた。
革ジャンわんこの肩をぽんと叩いて、あたしたちは退場した。
~ ・ ~
「また暴れるのかと思ったよ」
「ん-あんまり美味しくなさそうだし」
「肉じゃないんだから……」
「似たようなもんよ?」
と、シャレてみたけど、今回は笑いを取れなかった。
「彼を一人で置いて行っていいのか?」
あらマイアミ、あんなセクハラ男の御心配?
「いいんじゃない? 話が分からない相手でも無さそうだし」
それ位は一人でヤッてよね。ガキじゃないんだからさ。
それにしても、あるとは思ってたけど、本当にあるんだね、奴隷市場。
みーよの話だと、都市周辺の畑を耕したり世話している人々の大半は、農奴なのだそうで。
戦争や人狩りで捕えられた人間を送り込んだり、いらなくなった奴隷を売り買いする奴隷市場は、街の大きな収入になるんだとか。
そもそも、彼らがいないと畑作業自体が持続できないんだそうで、誰も疑問に思ったりはしないんだって。
奴隷にさせられている彼らも、それを普通に受け入れているんだそうで、誰それの所の奴隷、という所有物扱いになるから、ある意味、身分が保証されている。
つまり、奴隷を傷つけたり殺したりすると、所有者の主人の物を壊したことになるので、弁償させられるなどの罰を受けることになる。なので、ある程度の身の安全が守られているんだとか。
で、許されていないのが、奴隷自身の私的所有権なんだけど、その辺は人間同士なので、給金を貰い続けて、自分自身を買い取ることで自由の身になる道もあるんだってさ。
で、もう一つの自由を求めて脱走するのを取り締まるのも兵士のお役目で、捕まえると報奨金が入るので、給料に塩しか貰えない底辺の兵士にとって、格好の稼ぎ場になるらしい。
なんなら、むりやり逃げたことにして、捕まえて報奨金を貰おうとする悪いヤツさえいるんだとか。
いやぁ、この世界、シビアだね。生きるって大変なんだね。
「でも、普通に逃げ出す人たちもいそうだね」
「いるけど、身分証が無いから街には入れないよね。周辺の村は、みんな互いを知っているから、潜り込める場所はないでしょ。街から遠く離れると、野生動物や魔物の餌食になるね。あとは、山賊や野盗にでも身を落とすしかないけど、討伐対象になっちゃうね」
そうだね。それでも、生きていくためには、しょうがない、のか。
「男の人はそれでもいいけど、女性は無理だね。妻や子供がいるなら、もっと無理だよね。
でも、自由民としての身分があっても貧しい生活をしている人たちが大勢いるから、衣食住が保証されている奴隷の方がまだマシという現実も、あるんだよ」
そっか。まあ、確かにね。
「わたしは、この世界に召喚された時、街の外で行き倒れ扱いだったの。身分が証明できないから、そのままだと街が所有する奴隷扱いになる所だったんだよね。
マム先生が拾ってくれなかったら、わたしもあの天幕の中で、鎖に繋がれていたんだよね」
うへぇ。マジで?
「基本的に、どの教会でも奴隷制度は明確に認めてはいない。でも、孤児や行き倒れの面倒を何人も看るというのは限界があるの。マム先生、わたしの事を引き取るのに、かなり無理したみたいなんだよね」
ちょっとうつむいて、当時を思い出しているみたい。
「だから、わたしはオラクルの大聖女になって、先生に恩返ししたいのは本当の事よ?」
うん。でも、洗脳状態だと、やっぱり無理があったと思うよ。
あたしら、現代人だしね。
「で、教会が見捨てられない人たちの中でも、かなり特殊な人たちを専門に受け入れているのが、ここね」
あれか。奴隷市の区画の中に、青い三角屋根と白い壁の建物が見える。
“青き清浄の調べ”教会。
野良聖女、んと、アオイ? の所属する教会ね。




