101.ガリガリだったのに、適度に肉がついてきたね
「ほんと、やりすぎなんだから!」
「そうです、やりすぎです! シュランが可哀想です……」
「いや、別にそこまでは思ってないぞ。教えてくださいと頼んでいるのは俺の方だし……」
「で、でも、野蛮ですっ!」
なんでアリちゃんがムキになってんの?
あーあれか、青春ってヤツなの? ん-いいねえー
「コイツはボチボチ、野蛮に扱っても壊れなくなってきたからねぇ。シゴキがいが出てきたわ」
にやん、と笑ってみせると、なにおーという気持ち半分、ギャー助けてーな思いが半分。うん、いい顔だねぇ。
「あんまりやり過ぎると、本気で怒るからね!」
は、はい。手加減します。はぃい……
あたしとシュランは、二人してみーよに頭が上がらなかった。
「で、この二人からは食費は貰ったの?」
話を変えて、アリちゃんに大型犬たちの餌代を確認する。
「あ、はい。小銀貨1枚、キチンと頂きました」
「よしよし。コイツら、やたら食べるからねぇ」
え? それはアンタの方じゃないの? と、みんなが同じ顔をする。
そ、そんなことないよ? あたしは出されたものを残さず食べる。それだけだよ?
ほら、こうして出て来たパンのお代わりを頂いてるだけだし。あ、スープのお代わりアリガト。
「そういえば、みんな、顔色が前より良くなってきたね。ガリガリだったのに、適度に肉がついてきたね」
あたしが来るまでは、ホントにロクなもの食べてなかったんだね。
「そ、そうですかぁ?」
「そんなことないと思うけど」
女の子たちが、自分の体型を気にしてる。
「まあ、そうだな。女は乳と尻がデカくて、子をたくさん産めそうなのが、なんたって一番だからな」
隣に座る半袖革ジャンが、変な事を言い出す。
「何よそれ。あたしの事?」
「いや、まあ、そういうことに、なるかもな」
ちょっと顔を赤くして、でも、まんざらでもない態度。
でもさ、そういうのって“はらすめんと”にならないの?
……共通語理念が翻訳してくんない。この世界にそんなものは無いのかー
いや、待って待って。身分社会で、貴族と平民に明確な違いがあるんだから“失礼な物言い”は言葉や文化としてあるはずよ?
ほら、ちゃんと翻訳した。
「お前は彼女の事を、そんな風にしか見れないのか?
……そなたは美しく、勇敢で、機転が利き、理性的だ。ぜひ、武神トルモルト様のもと、生涯において研鑽の道を歩みたいものだな」
な、なに? 何よその誉め言葉。まるで前もって何時でも何処でも語れるようにしておいてるみたいじゃないのさ。
なによ皮ジャンの、おのれグルル―な顔?
なによマイアミの、お前なんか相手にならんコノ引き立て役が、みたいな顔は。
「私の夫も、武神トルモルトにお仕えする武人だったのですよ」
は? なんでマムちんが楽しそうにそんな事言い出すの?
旦那さんも女神ちゃんにお仕えしてたんじゃないの?
「武神トルモルトさまは大らかな方なので、武の道を歩みさえすれば、他の神々の元にお仕えしても構わないのだ。むしろ、武を極め、役立てるためにその身を用いることを良しとされるのだよ」
それって、おおらかじゃなくて、いい加減ってことじゃないの?
ま、基準が緩いというか、武芸を磨いてさえいれば御咎めなしだよ、ってことかしらね。
あーそれでマイマイ、うちの教会をウロウロしても、なんにも言われないんだ。マムちんとも、元からの知り合いっぽいというか、そうか、旦那はトルモルトの宗派だったのね。
うん、革ジャン、出番ないね。あんたはシブトサとシツコサだけしか売りがないしね。
「い、いや、スラムを仕切るボスであっても、結婚には何の問題もないんだぞ。同じだ同じ!」
いや、全然違うと思うよ?
って、なんであたしとアンタが結婚前提の話なんかしなきゃなんないのさ!
「いっそ、一婦多夫でもいいから……」
一婦多夫……逆ハーレム?
さっきから言わせておけば、随分と失礼なことを平気で語るね、アンタ。
ウチの女の子の体型から、あたし自身のことまで。
女の子を平気で侮辱するのが、この世界の当たり前なんだろうね。
へえ、でも、それ、あたしの前で語るんだ、へぇ。
「みーよ、コイツはうんと厳しくシゴいても、お咎めは無いんでしょ?」
「当然です。何をやってもアーリューシャイン様は許して下さると思うよ」
みーよの手が、震えている。
現代人のあたしらにとって、そういうハラスメントは当然、厳しい社会的な制裁を受けるとか、分かんないんだろうね。
「え? 俺を弟子にしてくれるってこと?」
コイツ、どこをどう捉えたら、そういう話になるんだろうね。
なんかスゴク尻尾を振ってるよ、このわんこ。
「な、何? なぜそうなるんだ……」
マイアミがひどく動揺している。完全に優勢だと思ってたのが、いつの間にか出し抜かれたって事?
いや、弟子にするなんて、一言も言ってないんだけど?
「いや、わたしも、そなたと夫婦になって共に大聖女への道を歩むミヨ殿の付き人となっても構わないのだぞ」
うわーコイツもなんか暴走し始めたよー
何よソノちゃちな対抗意識。
バッカじゃないの?
これだから男ってヤツは……
「そういう気持ちがあるんだったら、あたしがここに来る以前から、みーよの付き人になんなさいよ。後出し“じゃぁんけぇん”は筋が通んないよ」
あ、“じゃんけん”はこの世界には無いのか。
「い、いやいや、そういう気持ちがあるというだけで、最初からそうだったわけでは、無いのだしなぁ」
お、マイアミを正論でギャフンと言わせてやった。
初めて勝ったかも。ん-気持ちいー!
「とにかく、あたしにその気はない。認められたいなら、あたしに勝ってからにしな。あたし、自分より弱い男と一緒になる気はこれっぽっちも無いの。何度も言ってるでしょ」
キッパリ言ってやるけど。
コイツラ、こんなことじゃ諦めないんだろーなー
はぁ、やっぱり、あたしって流されやすい女なのかしらん。




