100.イクミ、お前は師匠としてもう少し大人になれ
新章開幕。
翌朝、普通に起きて。
着替えして外に出ると。
いつも通り、だと困るんだけど、ホントに困るんだけど。
男の子の弟子二人と大型犬二人が、いつも通りにお出迎えしてくる。
カンタに花束だけは受け取って貰って。
さてどうしよう。ん-本格的に、困ったナ。
ま、話だけは、聞いておこうか。
「一応、ここにいる理由を聞いてもいいカナ?」
困ったときは、相手に尋ねるのがスジだね。
「他所の集団が、ここにカネがあると聞きつけて、襲おうと狙っているハナシを聞きつけたんだ。直接、話をツケに行ったんだが、聞く耳を持たねえ。スマンが顔を貸して欲しい」
へえ、半袖革ジャン、やることはやるんだねえ。うん、そういうお仕事をして欲しいわけよ。
いーよー、そういう話なら、こっちからゴアイサツにいかないとね。
丁寧に、とっても丁寧に、ネ。
んで、そっちは何の用なの?
「今日、青の教会に出向くんだろう? 何か、手伝えることは無いかと思って、な」
うむう、さすがに鋭いね、マイアミ。
くそぉ、名前なんて忘れてしまいたいのに、忘れられなくする距離感と論理的思考による行動力かぁ。
力で叩き潰せればなんの問題もないんだけど、そう一筋縄ではいかないのが大人の男ってヤツなのかしらん。
ま、あたしはホンモノのオトコってヤツをよぉーく知ってるからねぇ。
その程度ではナビかないもんネ。
「その辺はみーよに聞いて。あたしじゃ判断できない。ん-朝ごはん食べてくんだったら、食費払ってよネ」
ん?
オって顔を、二人からされた。
あ、食費さえ払えば、入り浸っていいって事だと思われたか?
あちゃ、ミスったかもしんない。
いやいや、考えるのはあたしのお仕事じゃない。
こういう面倒事は、みーよに任せるに限る。
いやでも、あの子、どっちかとあたしをくっつける方向で考えそうだなぁ。
ヤメてよね。あたしの事はアンタが一番理解ってるんだよね。
大丈夫だよね……?
「ソッチの敵対組織の話が先だね。朝ごはん食べたら、軽く叩き潰しに行こうか。その後で青の教会? 略していいの? そっちに行こう」
へっ、俺の要件が先だったな。花束も貰ってくれたし。お前に脈はもう無いな。
何を言っている。お前の組織がそういうザコどもを抑えきれないのがそもそも悪いんだろう。俺は関係者だ、部外者が首を突っ込む所はそもそも無いぞ。
大型犬2匹が、互いにアイコンタクトしている。
なんだかなー
「これから弟子たちに朝の稽古を施すから、とりあえず帰ってくれる?」
「いやいや、朝稽古ならお付き合い致します」
「一緒に行ってくれるんだろう? お前だけが頼りなんだよ」
うはぁ、絡みついてきちゃったよ。
あーもーめんどくさいなー
「丁度いい稽古相手だね。んじゃ今日は、3対2でやろっか?」
「は?」
「え?」
「なに?」
「ん-あたしと弟子二人 対 あんたら二人。どっちか一人が降参したらそのチームの負け。気絶か降参の意思表示か両肩が地面に付いたら負けね。急所攻撃は無しにしておこうか。やったら即負けね。これでいい?」
みんな、ちょっと考えた。
いや、ちょっとじゃない、結構考えた。
そう、考えるのはいいことだよ。
あたしらは、大事な聖女様を守護するために、ペアやチームを組む必要がある。そのためにチームワークを学ぶのは大切な事だね。
こっちのチームで一番弱いのはカンタ。二番目がシュラン。
あたしは相手のどっちが当たっても、1対1なら勝てる。
で、相手の二人は、あたしに対して2対1でも結構アヤシイ。
なので、話にならない革ジャンをフリーにして、マイアミがあたしを足止めして、そのスキに弟子二人のどっちかを仕留めれば勝ち、ということだね。
うん、頭使うね。さて、ドースル?
「それでいい。分かった。面白いな」
「いいよ」
「分かった」
「やるよ、やってやる」
おお、みんな乗り気だねぇ。
こういうのは、あたしの予想を超えてきてくれるのが面白いんだけどね。
どうかなぁ?
「んじゃ、始め!」
掛け声と同時に、シュレンとカンタが革ジャンに突進!
ほお、2対1なら勝てるとみたかぁ。若いねぇ。
舐められた格好の皮ジャンも、本気出すしかないね。
「おらぁ、来いやぁ!」
威嚇でもなんでも、気合を入れたね。
防ごうとするマイアミの相手は、当然あたしだね。
挨拶代わりのミサイルキックを跳ばす。
こんな見てくれだけの隙だらけの飛び蹴りでさえ、あんたは閉じこもるんるんでしょ?
ほらやっぱりね。そういうところよ、あんたのダメなところは!
スキがあれば、当然付け込む。
当たり前のようにマイアミのガードを揺るがして着地したまま、左裏拳から右膝蹴り、距離を置く程跳ね飛ばせたんで、左後ろ廻し蹴りまで、ガードの上から叩きつける。
全部ガードはさすがだけど、よく見ればこっち側に反撃の隙も無いことは無いのよ。
そうしないなら、ホントにこっちがやりたい放題になるんだけど、分かってるのかしら。
あーそうですか、とすぐ技を極めたいけど、弟子の様子も気になる。
お前たち、分かってるんだよね? そうやって教えたよね?
チラっと見たら、ちゃんと分かっていた。
シュレンとカンタは、ちゃんと距離を取って、前後挟み撃ちで革ジャンを牽制している。どっちかを襲えば、どっちかが背後から技を仕掛ける。
だから、革ジャンは動くに動けない。
でも、このままだとマイアミがあたしにやられちゃう。
子供二人は、本当は大したことは無い。
あたしの裏拳に気を付けながら、牽制してマイアミの態勢を整えさせる。
うん、これだ。と、思ったらしく、こっちを見つめているぞ。
うん、正解だよ革ジャン。
でもね、弟子たちも正解の動きなんで、あたしもご褒美を上げなきゃね。
一歩で革ジャンに近づき。
うわぁ、バカだねー自分の方に来るとは思ってないんだー
あ、そう、で得意の右肘中段突きを叩き込み。
ぐらついたところを、ケンカキックでひっくり返して、弟子たちに止めを刺させてやる。
すかさずカンタとシュレンが両腕に腕十字菱木固めを極めた。
「ま、参った!」
はい、おしまい。
「も、もう終わりか……」
呆然とするマイアミ。
「あたしが手塩に掛けて育ててるからね。もう大抵のデカいだけの男とは互角以上に闘えるよ」
わーっと飛びついてくるカンタを抱えて、頭をくしゃくしゃに撫ぜてやる。
「ほら、シュランも来な。褒めてやるよ」
「いや、いいって、子供じゃないんだから」
そっぽを向くシュラン。
「へー、一丁前な口を聞くじゃないか。んじゃ特別に補習してやるよ」
「げっ!」
だめだよ、今気が付いたって。
もうあたしの間合いだよ。
即飛びついて、片手を掴んで重心をコントロール。
お? 向かってくるかー
もう片方の手も簡単に掴んで、そのまま吊るし上げる。
「うわっ放せぇ!」
「いーよー」
小さい相手は楽だねえ。捕まえてしまえばおしまいだもん。
そのまま、両手を掴んだまま、ジャイアントスイング!
「うわぁあああっ!」
さて、どこに叩きつけようか。とまでは、まあ、マズイよね。
とりあえず、ぶつかる所のない上空にしようか。
空高く放り上げて、そのままあたしも追いかけてジャンプ!
もう一度とっ捕まえて、本来は頭を下にして地面に叩きつけるんだけど、横抱きに、お姫様抱っこして、地上に着地。
「まだまだ子供ジャン」
「ぐ、ぐうぅ」
マイアミが呆れた様子で近づいてくる。
「もう少し、手加減してやれ。さすがに、非道いぞ」
「あは、あんまり軽いんで、ツイツイ」
反省反省。
「だ、そうだ。お前は筋がいいんだから、もう少し素直に教わる気持ちを持て」
「は、はい……」
あはは、マイアミごときに叱られてやんの。
「イクミ、お前は師匠としてもう少し大人になれ」
うむう、マイマイごときに叱られてしまった。
「イクミねーちゃん、怒られてやんの」
なにぃ、言ったぁ、この思春期ボーイめ!
もう一度振り回そうと思って。
「郁ちゃん! めっ!」
あ、本物のセンセーが来ちゃったわ……




