魔王様と討伐隊 □ 30
ラズアルさんとロゼアイアさんと共に晩餐を過ごした翌日、彼等は帰国の途に就いた。
結局、スナイさん達とは顔を合わせなかったけど、スナイさん達からの謝罪は素直に受け入れた。
これからどうするのかは分からないけれど、これからも神殿に属していくのであれば、余り魔族と馴れ合うのも遣り難くなるだろうと思ったからである。
ロゼアイアさんが、会っても問題無いとは言っていたし、あの頑固そうなスナイさんが、謝罪したいというのだから、結構魔族に絆されてきたんじゃないかなぁと思ったのよね。
全面的に、魔族を信用するようになったとは思わないけど、神殿側の意向を額面通りに受け入れるには、少々疑問に思うって程度の変化。
だと良いなと期待している。
ロゼアイアさんなんかは、今私があれこれ魔界で試している事に興味津々だし、傾倒というには言い過ぎかもだけど、私が魔王でいる間は、魔族が人間界では暴れないという言葉は信じてくれたような気がする。
ロゼアイアさんは貧しい村の出身らしいから、尚更離宮で使われている術が欲しいんだろうね。
人間界や国の情勢、他国間との関係なんか、そこまで話して良いのかと思う辺りまで話してくれた。
勿論、ロゼアイアさんの判断で話して良いって所までだとは思うけどね。
そんな訳で、ラズアルさんとロゼアイアさんには、互いに話が出来る術が組み込まれた、携帯電話の代わりとなる物を贈りました。
離宮で使用されている術に付いては、ロゼアイアさんがかなり乗り気で、本気で研修予定とか組みそうな勢いだったのね。
家の事とか術の事とかで、会話する機会も多くなりそうなのと、タイミング良ければラズアルさんに観光案内して貰おうという下心込みで渡したのだ。
リオークア国内に家を用意してくれる事も決まったし、国札も用意してくれる事になったし。
今回、討伐隊で来た人の中ではロゼアイアさんが一番年上なんだけど、年の功というかなかなか政治的手腕があるんじゃないかなぁとも思う。
リオークア国との交渉はロゼアイアさんが引き受けてくれて、結果としてはこちらの希望を全部承諾させてくれたんだよね。
寧ろリオークア国側にとっては、魔界からの条件は格安なんだと思う。
ロゼアイアさんは、もう少し吹っ掛けても大丈夫的な事まで言っていたし。
また何か融通して欲しい事が出来たら、新たな術を提示して交渉すれば済む話。
まぁ、これらの事は全て非公式で、トップシークレット扱いにはなるみたいだけどね。
国民や他国、神殿側に魔族と密かに国交結んでますなんてバレたら大変だもの。
こちらはバレた所で痛くも痒くも無いから平気だけど、リオークア国側で口の軽い人がいない事を祈るばかりである。
色々とハプニングもあったけれど、人間界へ行く伝手も出来た事だし、結果良ければ全て良しかな。
人間界へ行く為にも、本格的に私も魔術に付いて勉強をしなければならないし、俄かに忙しくなってワクワクする気分。
無駄に魔力を垂れ流している状態はやはり良く無いから、まずはこの辺の調整から手を付ける事にする。
そうでないと、ウチの大公達が外へ遊びに出させてくれないのよね。
現に、魔王殿の中と離宮までは、最近になって漸く自由行動を許してくれるようになったけど、それ以外の場所を一人でふらふらと出歩くのは禁止されているのであります。
魔力の調整が出来るようになって、移動の術も問題なく使えるようになったら、ブラリ一人旅も出来ちゃう訳ですよ。
寿命を迎えるまでは、まだまだ遠い先のお話。
目新しい暇潰しが出来た事だし、折角の新しい人生なんだから楽しまないと損だものね。
そう、私には嘗てより密かに練っていた計画があるのだ。
魔術を使いこなせていない現状の私では、まだ当分先だろうと諦めていたのだけれど、ここにきて人間界での拠点が出来た。
これで自由に人間界へ行き来が出来ると思ったら、自然と頬が緩んでしまう。
いけないと思いつつ表情を引き締めても、ニヤニヤしてきちゃう。
執務室にて仕事の休憩がてら窓の外を眺めつつ、コーヒーで一服していたんだけど、頻りにニヤニヤしている私を、イシュが怪訝そうに見ている。
「魔王様、随分とご機嫌なご様子ですが、何か良い事でもございましたか?」
「ちょっとねぇ。この先色々と楽しみな事が増えたなぁと思って」
あぁ、駄目だ。
もう嬉しくて、顔が緩みっ放しですよ。
「あの、ラズアルとか言う人間に絆された訳ではありませんよね」
邪推してくるイシュは、不機嫌な表情で聞いてくる。
うん、ラズアルさんとの事も、これから楽しみな事の一つだけどね。
何せ、ウチの大公達と違って、至って普通の人なんだもん。
常識外れに囲まれていると、真面目な常識人が傍にいるだけでも、凄く安心するんだって事を知ったね。
「ん~……絆されるには、もう少しお互いの事知り合うべきだと思うしー。ラズアルさんの事は追々?」
上機嫌な私は、満面の笑みでイシュに答える。
「知り合う必要等ございません! では、あの人間の事でないのであれば、ご機嫌な理由はなんでございますか?」
「まだ、内緒」
だって、言ったら絶対反対されるしね。
魔界が落ち着いて、離宮の作物も順調に育ってきた頃から何となく考えていた事。
サロエナさんと行く、嫁探し諸国漫遊グルメツアー。
最初はグルメツアーだけ考えていたんだけど、サロエナさんには女性と出会うチャンスを作らなければとも思い至り、私の趣味と離宮の実益とサロエナさんの婚活で、一挙両得ならぬ三得ってモンでしょ。
魔界の海でも海産物獲れるんだけど、深海魚みたいな魔物が多くて、普通の魚あんまり獲れないのよね。
リオークア国は海に面していて漁業もそれなりというから、新鮮な魚で干物とか作れちゃうしっ。
産地直送ですよ、産地直送!
想像しただけでもう、凄い幸せな気分っ。
頬が上がりっぱなしで痛い位ニコニコな私に、イシュが尚食い下がって聞きだそうとしているけど無視です。
リオークア国の隣にはサロエナさん出身のクーズロー国があるし、クーズロー国は農作物の質が良い事で有名なんだよね。
まだ、ウチの離宮では収穫出来ない、作物の苗とかを入手出来ないかなぁ。
命令して持ってきて貰えば済む話なんだけど、魔族と人間って味覚違うから今一信用出来ないしね。
行く行くは米と味噌と醤油をどうにかしたい、と野望を抱いている私であります。
「さっ、休憩お終い。お仕事お仕事」
「魔王様! なぜ、ワタクシに隠し事をなさいますかっ!」
「や、元から全てを話す仲でもないから」
きっぱりと言い切った言葉で固まったイシュは放っておいて、手を止めていた業務に取り掛かり始める私。
交通事故で死んで、気付いたらこんな世界で目が覚めた私。
セクハラ通り越して痴漢行為を働く側近達に囲まれながら、たまに殺されそうになったりもしているけど、こんな第二の人生も悪くはないかなと思う今日この頃なのでありました。
『魔王様と討伐隊』は、これにて完結となります。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。