わたしの考えた最高の幸せ 8
「説教のつもりは……というか、雰囲気やしゃべりかた変わってない? 円堂さん」
「演技するのがめんどうくさくなっちゃって」
「円堂さんの恋人に一歩ちかづいたと考えても」
返事をしてないが、前向きだな……とでも言いたそうな顔をしているヒオリ。
「わたしのどこがいいの?」
「見た目」
「わたしも他人のことを言えるタイプじゃないけどさ、オブラートに包んだほうが」
「円堂さんって意外と嘘をつかれるの嫌いなタイプだったりしない?」
にーくんの友達やっているだけのことはあるわ。
イナラから顔をそらしながら、ヒオリがぼやく。
「たしかに嘘をつかれるのは嫌い」
「日永にも?」
「なんで……にーくんの話になるんだか。今は北瀬くんがわたしにふられるか友達宣言されるかの最中でしょう」
「にーくん? 日永のことか」
ヒオリからの脈なしサインがきこえてなかったのかイナラは平然とした様子。
「円堂さんも日永をニックネームで呼ぶぐらいには仲がいいんだな」
「仲がいいんじゃなくて、ほしいんだけどね」
できることなら、しーちゃんとセットで。
ヒオリが自分のやわらかな唇を舌先でなめる。
「諦めるのは」
「説教はもういいよ。わかっているつもり……今はラブラブカップルでも将来はわからないでしょう」
幸せな状態を呪うのは駄目だけど。
だからといって……素直に諦めてあげられるほどわたしはまともな人間やってない。
それこそ獣のような存在なんだろう。
同時に、どこにでもいる女の子でもあったり。
「にーくんってどんな女の子が好きなの?」
「袖にした相手ってことを忘れて」
「忘れてないよ。北瀬くんも諦めが悪くて、とても強い男の子でしょう」
だったらさ、一回ふられたぐらいでわたしを諦めないでよ。どうやってもほしいんでしょう?
ヒオリがまっすぐにイナラの目を見つめていた。
「そういう小悪魔的なところって、わざと?」
「天然でやってないことだけは、たしかかな」
「恋人になりたい候補が多いわけだ」
「その中に……にーくんいる?」
「残念ながら、日永は土守しか見てない」
優等生のえろっこちゃんか。えろっこちゃんだけならなんとかなるんだけどな。
とつぜん……なにかを思い出したようにヒオリがまばたきをくりかえす。
「まだ北瀬くんに説教のお礼してなかったね。特別に下着を見せてあげる」
「いろいろとつっこみどころが多すぎて」
イナラが顔をそらしかけるも。
はずかしげもなさそうに、自らの意思でスカートをめくっているヒオリのほうを……男としての本能のようなものによってかウルフカットの彼は。
「そのふとももの火傷」
「これがわたしの獣の証明ってところかな」
幻滅したでしょう? だから北瀬くんは、もっと女の子らしい女の子を好きになったほうがいいよ。
セミロングの黒髪の彼女が満面の笑顔で。
「見せたくなかったんじゃ」
「にーくんにはもう見られちゃったからね……それに意外と気に入っているんだ。火傷のかたちがえろくて、かわいいから」
今すぐにでも倒したい幽霊が、どこまで計算していたのかはわかんないけど。
神さまとやらはいるのかもしれないな。
スパッツを穿き忘れたふりをした日に。
ヒオリの言葉に対してかイナラが首をかしげる。
「しつこいのも嫌いだから諦めてよね」
自分の穿いているスカートをめくるのをやめつつセミロングの黒髪の彼女が。
「さっきと言っていることちがうし。なんで見せてくれたの?」
「なんとなく」
「心配しなくても日永は幻滅してないし……同情もしてないと思う」
むしろ……どこにでもいる男らしく女の子の下着のことで頭がいっぱいだったろうな。
おれみたいにさ。
おちゃらけたようにイナラが返事をしていた。
「虫がよすぎたね、ごめん」
「ぜんぜん……円堂さんこそ」
「ヒオリでいいよ」
「ヒオリこそ今みたいに気をつかってくれないほうがこっちもたすかる」
ヒオリが顔をそらし。
「ミカゲくんよりも厄介な男が現れるとは、武術のほうはからっきしなのに」
イナラを横目で見つつ、うれしそうにつぶやいていた。
暗闇の中。懐中電灯の代わりにしていたシャボンフォンを拾っているイナラから……ヒオリが視線を一瞬だけ動かした。
「北瀬くん……先にもどっておいてくれる。すぐに追いつくからさ」
にこやかな表情の奥にある、なにかしらの圧迫感によるものかウルフカットの彼はセミロングの黒髪の彼女の言うとおりに寺院のほうへもどっていく。
「ずいぶんと弱ってますね。にーくんの邪魔をして怒られたんですか」
「ヒオヒオはこの短時間で」
現在のレン姉の目でかろうじて見えるほどのスピードで移動し……ヒオリが顔面に殴りかかったが。
「見違えた、というより今の状態がベストなのか。ヨウくんがたたかいたがるわけだ」
左手だけで受けとめられてしまう。
「あれれ……続きをやらないの? 弱っているから絶好のチャンスなのに」
拳をひっこめ、イナラを追いかけようとしているヒオリにレン姉が煽るように唇をゆらす。
「弱っている、今のレン姉さんでも勝てそうにありませんからね。最優先事項もあるので」
「アクセルだけじゃなくブレーキもなおったか」
気配を消しているレン姉も、セミロングの黒髪の彼女の後ろをついていく。
「北瀬くんだっけ? 彼のほうが」
「名前が合っているかどうかあやふやな時点でレン姉さんもそこまで魅力を感じてないのでは」
「名前を覚えるのが苦手なだけなんだけどね」
レン姉がうなり声をあげる。
「ヨウくんのどんなところが好きなの?」
「強いのに弱いところ」
「似たような、弱くて強い北瀬くんは代用品にならないわけか……たしかに精神的に弱いほうがいじめがいがあるか」
なんで雑な説明しかしてないのにわかるんだろうとでも言いたそうな顔で、ヒオリが後ろを歩くレン姉を見た。
「わたしもそのへんが好きなのかな」
「知りませんよ」
「ヨウくんはたぶん、今後もシノハちゃんを」
「だったら、しーちゃんもいっしょに奪っちゃえばいいんじゃないですか」
くるりとふりかえり立ちどまったヒオリが言う。
「ヒオヒオらしい欲深さだね」
「なにかを選ぶほうがよっぽど欲深いでしょう」
「矛盾したことを言うね。ヨウくんに選ばせるよろこびを教えといてさ」
「知らなかったんですか? どこにでもいる女の子は大好きな男の子に選ばれたいものなんですよ」
たとえ選ばれなかったとしても選ばないと決めてくれたんだから、まったくの無駄ではない。
「ヨウくんも大変だな……ここまでのマゾヒストに好かれちゃうんだから」
レン姉の言葉に興奮でもしているのか、ヒオリが幸せそうな顔をつくっていた。




