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わたしの考えた最高の幸せ 5

 セラフがいなくなったのと同時に、とまっていたのであろう時間がふたたび動きはじめた。

 いつぞやと同じ感覚……だったけど。もっと次元がちがったような。それにつきみやさんはもう。

 まばたきをくりかえして、いつの間にか目の前にいたタイヨウにシノハとヒオリが視線を向ける。


「にーくん。なんか変な感じしなかった?」

ゆうれいがイタズラでもしたんだと思いますよ」

「レン姉さん関係ってことね」

 シノハにきこえないほどの音量で、ヒオリがつぶやいていた。


 タイヨウにまじまじと見られていることに気づきセミロングの黒髪の彼女が不思議そうにする。

 黒髪の彼が首を横にふった。

「ご注文のオレンジジュース」

「なにかあった?」

 タイヨウの微妙な表情の変化を感じ取ってか……シノハが心配そうにきいている。


「なにか、あったんだね」

 密着してきていたヒオリから離れて、火色の髪の彼女が黒髪の彼にささやく。

 空気を読んでかセミロングの黒髪の彼女が遠くにいるイナラのほうへと移動していた。


「我慢しない。わたしに迷惑かける。約束したんだから守ってもらわないと」

「シノハとそんな約束した覚えは」

 タイヨウがいったん……口を閉じ。

「隠しごとしたら嫌われるよな」

 つぶやき。自分ではまだ解決方法がわかってないのであろう問題についてシノハに伝えていた。


 火色の髪の彼女があきれたような表情をする。

 ちらりとヒオリの背中に視線を向け、すぐにタイヨウのあからさまに困惑した顔を。

「正直なことを言うと、わたし的にはまだ気づいてなかったんだっていう感じ」


 自覚しているのかわからないけど、わかりやすいアピールしまくっていたからさ、えんどうさん。

 言葉を選ぶようにシノハが続ける。

「ごめん」

「謝らないの。むしろ今みたいに相談を」

「シノハがいい」


 タイヨウの言葉に、シノハがきょとんとした。

 うっすらとほおを赤くするも……すぐにはやとちりだと冷静に。

「おれはシノハがいい。まだクモラのことで信じてもらえないと」

「ありがと。でも、まだそこまでむりしなくても」

「むりしてない。我慢してた」


 ずっとシノハがほしかった。

 さっきだってきたとたのしそうにしてて……むかついた。死ねとさえ思った。

 ふだんのタイヨウとはまるでちがう感情的な口調にシノハがおどろいている様子。


「と……とりあえず落ち着こうよ。ねっ、タイヨウがわたしのことを好きなのは」

「好きじゃなくて大好き」

「大好きなのは、ちゃんと伝わっているからさ」

 やばい……顔がにやけすぎちゃいそう。


 どの感情の引き出しをつかえばいいのやらわからないとでも言いたそうな表情のシノハを。

 余裕のなさそうな顔つきのタイヨウが真正面からまっすぐに見つめていた。

「その、北瀬と話していて嫌だったんだ」

 黒髪の彼が小さくうなずく。


 もっていたヨモギスカッシュの缶を握りつぶし、中身をあふれさせていたことにようやく気づき。

 我に返ったのか……今は伝えるつもりのなかったシノハへの愛情の一部なのであろう、言葉の意味をあらためて理解してかタイヨウが慌てふためく。


「混乱されているのを自覚してくれたようで」

「いろいろと失礼しました」

 ほんの一瞬だけ、しんとした。

「きた……円堂さんたちのところに」

 イナラとヒオリのいるところへ移動しようとしたシノハを邪魔するように。

 タイヨウが握りつぶしてないオレンジジュースの缶をもったほうの腕をのばす。


「心配しなくても、わたしも」

「そうじゃない。じゃなくて……そういう気持ちもあるんだけど、北瀬と相談して二手に分かれる予定だったんだ」

 もっとスマートにやりたかったが、結果オーライだと思う。


 タイヨウの意図をきいてかシノハがにやつく。

「タイヨウには悪いけど、北瀬に話しておかないといけないことが」

 ずっと見てたくなるような反応だけど、これ以上はさすがにいじらないほうがいいか。


 黒髪の彼の表情の変化を見てか。

「あったと思うんだけど忘れちゃった」

 火色の髪の彼女がわざとらしい笑顔をつくった。

「北瀬本人と話したら思い出すんじゃないか」

「そんなに大事な用事でもないから今日はもう……あちらの方と話さなくても大丈夫」


 にしても、北瀬にきいた情報からも考えられない態度なような。

 タイヨウが嘘をつくのが上手だったのか。

 この心霊系のデートスポットの影響とかだったりするわけないか、そんな都合のいい話。


 シノハに飲んでもらうために、買ってきたはずのオレンジジュースの缶をタイヨウはかたむけていってき残らず飲み干し。

 はるか遠くにある空き缶入れに黒髪の彼がすんぶんの狂いもなくシュートを決めた。


「またコインカプセルやりたかったのに。女の子に意地悪したくなった?」

「嘘つきなシノハには教えてやらない」

「そんなこと言わないで機嫌なおしてよ」

 困ったようなせりを口にしながらもシノハの声音は明るく、今の状況をたのしんでいるように。




「やっぱり、まだヨウくんにははやかったかな」

「さっきも説明してやっただろう。タイヨウちゃんの場合はわがままになるぐらいがちょうどいい」

「にやけた欲情まみれ顔のロリババアが言っても、説得力ゼロだと思うけどね」


 だれにも見つからないように完全に気配を消しているセラフが、同じ状態のレン姉のほうに一瞬だけ視線を動かす。

「はじめてかもしれんな……乳オバケのあくたいがここまでそよ風のように感じられたのは」


 これからは好きなだけロリババアと呼んでくれていいぞ。こんなにいじ……育てがいのある男の子を紹介してくれたんだからな。

 あらゆる角度からタイヨウの顔を観察しながら、ごきげんな様子のセラフが唇を開閉させていた。


「紹介したつもりもないし。今回だけにしておいてほしいんだけど」

「心配せずとも基本的に干渉せん。タイヨウちゃん以外にも面白そうなのもいるしな」

「そこにいる……シノハちゃん? とか」

「あいかわらずセンスがないな。今この状況を見て一番動揺する女の子の存在さえもわからないのか」

 セラフの言葉をきいてか、レン姉が声をもらす。


「てっきり、そのへんがわかっているからタイヨウちゃんたちを帰らせなかったと思っていたんだが」

「もっとシンプルに精神修業にちょうどいいかな、とか考えただけ」

「そこまでお膳立てするなら、いっそのこと手取り足取り教えてやればいいものを」

「やだよー。負けたら悔しいじゃん」

 幼い女の子のような声色でレン姉が否定する。

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