わたしの考えた最高の幸せ 4
今更ですけど……お姉さんのお名前は?
タイヨウが肩車をしている金髪の幼女に尋ねた。
いつぞや、月宮クモラが口にしていたのと同じであろう理解できない言語で金髪の幼女が名乗る。
「おっと、この言語はわからないんだったか。この世界なら……セラフが一番ちかい発音だな」
「セラフさん」
「幼女相手なんだからセラフちゃんと呼ぶべきじゃないかい。タイヨウちゃん」
セラフの言葉に同意してか、タイヨウは短い肯定の台詞を口にした。
「あまりヨウくんにかまわないでほしいね」
「お前もロリババアなんて三度も言ったんだ。これくらいのスキンシップで文句を垂れるな」
レン姉のいらついているのであろう顔をはじめて見たのか、タイヨウが目を丸くする。
「話の腰を折ってすみませんが……セラフちゃんはレン姉に会いにきたのが目的とかでは」
「ないな。可能ならあの乳をむしりとってやりたいがタイヨウちゃんも知っているとおり、武術の腕に関してだけは一級品の化けもの」
ではあるが、自分が規格外だというのを自覚していないから他人の力量やらそのときの相手の状態を正確に読めずに、今みたいなミスをすることもあるがな。
セラフがヒオリのほうを見た。
「間違っていたら、ごめんなさい。セラフちゃんのほうがレン姉よりも」
「単純な戦闘能力だけなら格上だろうが。駆け引きもあるから五分五分じゃないか」
セラフがちらりとレン姉を。
「今なら、あの乳をむしりとれそうだけどな」
「できることならやめてください」
「このまま、もうしばらくの間ぼくを肩車していてくれるのならやめてあげよう」
「ありがとうございます」
タイヨウちゃんは素直なのにな。
毒づくようにセラフが唇を動かしていた。
「いつまでそうしているつもり」
「かりかりするな。タイヨウちゃん本人は嫌がってないんだから、師匠のお前でも口を挟む理由はなにひとつないはず」
「肩車だったら」
「今回もただの野良だ。残念だったな」
話を強引に打ち切るようにセラフが言う。
「嘘を」
「さすがにタイヨウちゃんのいるところで、そんな意地悪しない。今でも充分に翻弄させられているんだし」
セラフがにやつくとレン姉もによによとした笑みを浮かべる。
「この辺りに……なにかいるんですか?」
「タイヨウちゃんも最近たたかったニセモノがいただろう。あれと似たような種類の生きものがいる、というだけの話だよ」
「だけ、ですか。死にかけたんですけど」
「最終的には勝てたんだから合っているだろう」
それに……さすがに野暮すぎるか。
によによとした笑みを浮かべているも、レン姉の鋭い視線に気づいてかセラフが口を閉じた。
「本人? は妖怪だとか言っていたんですけどあのニセモノは」
「個人的にはノイズと呼んでいるが、妖怪でいいんじゃないか。こちらの世界でも神隠しなんて言葉で存在をぼかしているようだし」
なんにしても、あまり自分から関わるようなことはしないべきだな。
とセラフがタイヨウに忠告をしつつ、レン姉に。
「とはいえ……基本的に人間に興味があり、珍しいタイプだと判断されればノイズのほうから関わってくるかもしれない」
ながい年月をただただ生きるのが退屈なのは理解できるし。
セラフが続けている。
「ところで、タイヨウちゃんはおなごを口説いたりしないのか? かわいらしい見た目なんだ……すぐにでも恋人をつくれるであろう」
「話の流れを無視しすぎですし、あまり干渉しないのが信条では」
「他人からのアドバイスを素直に受けとりすぎる、タイヨウちゃんは例外だ」
なにより、そこまでシノハちゃんとやらに負い目を感じているのであれば付き合うほうが個人的には最適解に思えるが。
にやつくセラフがひとつの答えを提示する。
わけがわかってなさそうにレン姉は首をかしげていた。
「セラフちゃんの言っていることはわかりますが。それだと……負い目を感じているからシノハと」
「わかっていればいい。タイヨウちゃんにとってはうれしくなさそうだが自分にとってよいほうを選ばないといけなくなるからな、そのうち」
「選ぶって。シノハ以外におれにほれてくれるような女の子に心当たりがないんですが」
エンちゃんはバトルジャンキーなだけでおれよりも強くて相性のいい男が現れたら。
「タイヨウちゃんよりも強い人間の男は片手だけで数えきれそうだがな」
タイヨウの過小評価な意見をさえぎり、セラフが反論を並べる。
「どちらにしても女の子を選ぶなんて」
「結果的に選ぶことになるだけで、タイヨウちゃんが心底からほれている相手とどうなりたいかというシンプルな話だろう」
ちなみに、つぎにタイヨウちゃんにほれる相手はシノハちゃんとちがって……ありとあらゆる手段をつかって口説きにかかってくるぞ。
確定していないはずの未来が見えているかのようにセラフが、タイヨウの耳元で断言する。
「たぶん……セラフちゃんの勘違いかと」
「相手がだれかわかったようだな」
「心当たりというか、該当する女の子がひとりだけいますけど。バトルジャンキーなだけで」
「本当にバトルジャンキーなのか? その子は」
たとえばの話だが。
本当はどこにでもいるふつうの女の子になりたいのに……タイヨウちゃんのように素直になれず。
ねじまがった結果、自分の本音に蓋をして。
あふれてくるストレスの捌け口としてバトルジャンキーになってしまっている。
セミロングの黒髪の女の子が世界のどこにもいないと言い切れないであろう?
「だとしても、おれにほれているとは」
「全力でたたかうことができて、相性もよく。からかいがいがあって……自分の弱点について話しても態度を変えずに受けとめてくれる人間の男が。タイヨウちゃんのまわりに何人いる?」
「セラフちゃんの憶測ですよね。あくまでも」
「ひねくれたところもあるのか」
よいよい。タイヨウちゃんの年齢ですべてを受けとめきれるほうがおかしいんだからな。
にやついているセラフが、レン姉を横目で見た。
「こっちとしてはもう、ロリババアの件はゆるしてやるつもりだったんだが。暴れたそうだな」
「わたしのたのしみを奪ったんだから……殴られる覚悟はできているんだよね」
ようやくセラフの仕返しに気づいたようで、水上レンカが絵に描いたような怒りの表情をあらわに。
「じゃあね。タイヨウちゃん」
そうそう……心配せずともタイヨウちゃんのために乳オバケに怪我はさせないでおいてあげよう。
だから、今みたいなまだまだ青くてかわいらしいところをつぎも見せてくれるとうれしいな。
声色を変え、妖艶な大人の女性のような雰囲気で幼女の姿であるはずのセラフは言い。
全速力で攻撃をしかけてきた水上レンカとともに姿を消す。
落ち着こうとしてかタイヨウは深呼吸をしたが、心臓の動きはいつもとちがったままだった。




