わたしの考えた最高の幸せ 3
そもそも調子が悪いのは今日だけだったのかな?
逆に、ギペンテちゃんを蹴り倒したときは調子がよかった気がする。
にーくんも言っていたように、すべてを力でねじふせられる……みたいな全能感がいっぱいで。
それこそ自分が神さまにでもなった気分で。
「自分よりも小さい胸を触って面白いの?」
「自分以外のものだからか……なんか気持ちよくて眠たくなってきた」
シノハに正面から抱きついた状態のままヒオリが甘えるような声で言う。
「本当に調子が悪そうね。今ならわたしでも火葬をできそうな気がする」
「個人的には氷漬けであの世にいきたいかな」
「武術の試合というか殺し合いでだれかといっしょに……あの世にいきたいとかじゃないんだ」
しーちゃんの言うとおりのような?
いつぞやのにーくんとの殺し合いにちかい死闘であのままふたりともあの世にいけてたら。
個人的にはこのうえないハッピーなこの世からの旅立ちのはず。
なのに……なんで氷漬け?
「ちなみにしーちゃんはどんな感じであの世にいきたいと思っているの?」
「まだ死にたくないんですけど」
「にーくんに遠慮しているんだったら、まだ帰ってこなさそうだから大丈夫」
ヒオリの視線の先にはイナラとなにかしらの会話をしているタイヨウの姿があった。
シノハも黒髪の彼を見つけ、まぶたを閉じ。質問の答えを考えているのか顔を真上に。
「わたしも氷漬けかな。苦しくなさそうだし、自分の姿をきれいに保つことができそうだから」
「しーちゃんの場合は火の魔術があるんだからそもそも凍死できないような」
「熱冷却は……まだ授業でやってなかったか」
シノハのつぶやきはきこえなかったようでヒオリは反応せず、まぶたを重そうに開閉している。
「そろそろもどってくるから離れてくれない」
「にーくんに百合を教えてあげたらいいのに」
「これだけ密着しても、ときめかないんだから百合になるわけないでしょう」
「わたしの片思いか」
「そのていどの冗談をわたしが」
視線に気づいてか……シノハとヒオリがほとんど同時に顔を動かす。
ふたりよりもやや身長が低めの金髪の幼女のような見た目の存在がいた。
オーダーメイドか、金髪の幼女の体型にフィットしており……素材やデザインにもこだわってそうな修道着を。
「しーちゃんの妹?」
「そっちこそ……知り合いの妹さんとか」
「通りすがりの幼女なのでお気になさらず。ふたりだけの世界をたのしんでもらえれば」
見た目とちがう、大人びたやわらかな口調で金髪の幼女が笑みを浮かべる。
「やっぱりこっちの世界はいいね。きてそうそうに青めの百合を見られるとは。しかも、火色ちゃんのほうは否定的でつっぱねながらも」
口を閉じた金髪の幼女が、視線を動かし。
気配を消しているはずのレン姉を見た。
「さらに耄碌したようだね。ロリババア」
「なんだ……いたのか乳オバケ。ぼくはまだ未完成な百合カップルを見てたのしんでいるんだ。邪魔をするなよ」
「気に障ったのなら、ごめんごめん。ロリババアに見せてほしいものがあってわざと怒らせようとしているだけなんだ」
金髪の幼女がレン姉をにらみあげる。
「三度目はないぞ」
「はっきり言ってくれないと……レン姉は頭が悪いからなんのことやらわからないよ」
ロリババア。
金髪の幼女にとっては禁句なのであろう呼び名を口にしたレン姉に殺意を向けられてか。
とっさに飛びだすように移動してきたタイヨウが白のショートヘアの彼女の盾になろうとしたが。
「乳オバケの弟子か」
レン姉に殺意を向けるのをやめて、ふだんどおりのやわらかな顔つきにもどっている金髪の幼女。
「お前にとっては無意味な行動だったんだろうが、今回は弟子の健気さに免じてゆるしてやろう」
まったく、人の心がいまひとつわかってない師匠をもつと大変だな。
金髪の幼女が、冷や汗をびっしょりとかいたタイヨウに同情のような言葉をかけている。
「会話の内容はわかりませんがレン姉のことはおれからも」
「心配せずとも乳オバケ、レン姉に危害をくわえるつもりはない。とくにきみみたいなタイプとは相性が悪いからな」
できれば半世紀ほど前に出会いたかったよ。
金髪の幼女が独り言のようにつぶやく。
「危なっかしいな、ヨウくんは。レン姉が怪我するかどうかぐらい」
「つぎ、また同じようなことをしたら。まじで怒るからな」
「もう怒っているような」
タイヨウが怒っているのであろう理由を理解してなさそうな顔つきのままレン姉は謝っていた。
「弟子に獣のことを教えるわけでも」
弟子のような立場のタイヨウに怒られているレン姉を見てか機嫌のよさそうな様子の金髪の幼女が。
シノハと密着をした状態で時間をとめられたようにぴくりとも動かないヒオリを。
「こっちか。外側は肉食のようだが……かなり繊細な感じだな。下手に干渉をしないほうがいいんじゃないか、そのうち気づくだろう」
「すでに気づきかけているから、背中を押してあげたいとか思っていたり」
「あいかわらず野暮なことを。その迷っている時期が一番の見頃なんだ。たすけてやるのなら間違った方向にいきかけたときだけで充分」
弟子には恵まれているようだが、師匠には向いてないな。
金髪の幼女がにやつき、タイヨウを横目で見る。
視線に気づき……黒髪の彼がびくついた。
「えらくこわがられたものだな、こんなにかわいい幼女相手に。それともおなごが苦手なくちか?」
「得意ではないですね」
金髪の幼女の姿が消えてしまい、おどろいているタイヨウが両肩に重みを感じてか……頭上を見た。
「重いか?」
「重みを消してくれているので楽ですね」
「乳オバケの弟子にしては」
黒髪の彼の目の奥にあるものを見た瞬間……金髪の幼女が声をもらす。
「怒られて当然だな。乳オバケ、お前……この子に甘えすぎだ。さっきのは真面目に反省しろよ」
「ごめんね。ヨウくん」
片手だけの謝罪のポーズをとっているレン姉。
「乳オバケに土下座させたかったら手伝ってやるがどうする? タイヨウちゃん」
「レン姉の持ち味のようなものと諦めているので。お気遣いありがとうございます」
「ついつい干渉したくなるほど健気だのう」




